休日デート
翌朝の土曜日は、天気も良くて過ごしやすかった。
スカイツリーの天望デッキから見える景色に目を輝かせている夏海先輩は、とても楽しんでいるように見えた。
「―…何よ?」
隣で夏海先輩を見つめていると、僕の視線に気付いた先輩は、はしゃいでしまったのを見られたのが恥ずかしかったのか、わざと怒ったような口調になっている。
「いえ、何も?」
そんな先輩が可愛らしくて、僕は微笑んで答える。
「他にも色々行ってみますか?」
僕がそう言うと、先輩が何やら哀れみを含んだ瞳で僕のことを見つめてくる。
(…―――もしかして嫌、だったかな?)
先輩が僕の隣で休日を過ごしているなんて、嬉しすぎて調子に乗りすぎたのかと不安になる。
「先輩?」
じっと何か考えて込んだまま黙っている先輩に、僕は声をかける。
すると、先輩はニコッと微笑んで言った。
「うん、行こ」
僕はその瞬間、先輩の笑顔に見惚れていた。
「東京見物もなかなか面白かったですね」
あれこれ歩きながら、結局夕方まで、二人で観光を楽しんだ。
(こんなに幸せで…良いのだろうか?)
思わず不安になるぐらい、先輩との時間は楽しくて…あっという間だった。
「良かった!」
先輩がいつになく、笑顔のまま真っ直ぐに僕を見て言った。
先輩も楽しそうだったから、てっきり自分と同じ気持ちだと思っていた。
でも…違った。
―――彼女は無邪気に笑顔を向けたままこう言った。
「吹成の気分転換になったなら」
「―――…」
僕の表情から、笑みが消える。
(先輩は…最初から…ーー僕の失恋を気にして…?)
「や、ごめん。何でもない…」
言うつもりはなかったのに、としゅんとしながら先輩が謝る。
(あぁ、やっぱり…ーーーー僕は彼女に気を遣わせるばかりの“後輩”に過ぎないんだな…。)
――――…僕はすっかり落ち込んでいた。
「あ、吹成!アイスクリーム好き?」
先輩が話題を変えようとしたのか、突然そんな質問をして来た。
「え、あ、はい」
突拍子もない質問に、面食らった僕はぎこちなく頷いた。
「この先に美味しいところあるんだ、連れてってあげる」
先輩が優しく微笑んでそう言うので、僕は不覚にも喜んでしまった。
「はい。ありがとうございます」
(でもこうして、僕と向き合おうとしてくれるから…ーーー僕は貴女のことを諦めきれないでいるんです…先輩。)
時計を見ると、夕方の五時を過ぎたところだった。
「じゃあ私、そろそろ帰るね」
先輩は自宅へ帰ろうと近くの駅へと向かって歩きながら言う。
「分かりました、帰りましょう」
(だからまだ、一緒に居させてください…)
「え?」
僕の言葉に、先輩は思わず聞き返したようだ。
「帰りましょう?夏海先輩の家に」
僕はあえて爽やかな笑顔で言った。すると先輩はため息をついてから言った。
「―――…まさか、今日も泊まる気?」
「はい、ダメですか?―――夕御飯、作りますから」
「一体いつになったら帰るわけ?」
嫌そうに言うのは、先輩のいつものノリだと分かっていた。
だけど僕にはつらかった。このままでも幸せだと…思っていたはずなのにー―――。
いつの間にか独占欲が…抑えきれないところにまで達していた。
だから僕はその気持ちを、先輩に打ち明けることにした。
「先輩が、僕のこと好きになったら帰ります」
(例え、貴女が…僕のことを好きでなくても…ーーー僕は貴女の事が好きです。だから…もう少しだけ…ーーー居させてください。)




