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後輩の彼
「夏海先輩とまさかこんなところで再会するなんて、驚きました」
ふんわりやんわり、
…―――虫も殺せない、いやあえて殺さないような…―――
仏心に溢れる雰囲気の彼、吹成は、映画のエンドロールが流れ出した映画館で、そう言った。
「吹成は、変わらないね」
私の口から素直な感想がこぼれる。
「ありがとうございます」
「…―――」
(こいつには、褒め言葉になるのか…ーー?)
この、会話のテンポがずれた感じも変わってない。
「じゃあ私行くわ」
ガタッと立ち上がり、人のなくなった映画館から出ようとすると、
「夏海先輩、このあと少し時間もらえませんか?」
――――彼が私を引き留めた。
「え、いや…無いよね?」
(だってもう、0時ですよ?シンデレラなら魔法とけてますから)
「あ…そっか。そう、ですよね」
吹成が人懐こい顔に、残念そうな表情を浮かべる。
「どうかしたの?」
(どうかしたの?なんて、フラれて悲しいのは私なんだけどね…)
吹成の寂しげな表情に、そう私が思わず声をかけると、
吹成が私を見上げて…潤んだ瞳で見つめた。
「今夜、泊めてもらえませんか?」




