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彼は私の×××   作者: 夢呂
【第二章】吹成泉の恋
18/88

朝です

『俺、ゆりと別れた…』

太一が言った言葉に、僕は耳を疑った。


『どうしてっ!?』

思わず太一のブレザーに掴みかかってしまった。


『ゆり、東京の短大に進学するだと。あいつ美人だし、東京行ったらすぐ他に男できそうじゃん?』


『なんだよ、それ…』

(先輩がどんだけ太一(おまえ)のこと好きだったのか…お前はあれだけ一緒にいたくせに気付いてなかったのか?)


『てか、なんでそんなに泉が熱くなってんの?』

掴みかかった俺の手を乱暴に振り払って、太一が言う。


『もしかしてお前、ずっとゆりのこと狙ってたのかよ!?』







「んん…ーーーーっ」

無防備に寝返りを打つ、夏海先輩を見つめながら、僕はため息をついた。


もうすぐ7時になる…―――出社時間は何時なのだろう?


朝ごはんの材料を近くのコンビニで買ってきたものの、

先輩がいつまで経っても部屋から出てこないので、

僕は心配になってそっとドアを開けた。


「先輩、朝ですよーっ」


「………。」


「会社、良いんですかー?」


「………。」


何を言っても全く起きる気配がない。


「ゆりさん…朝ですよ…―――?」

起きないことを良いことに、僕は小さくそう呟いてみた。

普段名前で呼ぶことなんて…今の僕には出来るはずがない。

だから、一度そう呼んでみたかった。


「………」

スヤスヤと眠っている夏海先輩の長い睫毛に、長く肩まで伸びた絹のような髪に、触れたくても我慢しながら僕は先程より大きめの声で起こす。


「――夏海先輩…!先輩、良いんですか?」


ようやくダルそうに身体を起こした先輩が、僕のすぐ近くに顔を寄せる。


(どうやら先輩は、朝が弱いらしい…ーー)

寝惚け眼で僕を睨むようにして見る先輩が、可愛らしくて愛おしい。


(でも、今はそんなことより…ーーー)

僕は気になっていたことを先輩に尋ねる。

「先輩、今日仕事なんですよね?良いんですか?」


「え…?」


「時間。…―――もうすぐ7時ですけど?」

僕が、先輩の家にあった掛け時計をそっと指差す。


「――――っ!やば…っ」


先輩はそう言うや否や、僕の顔を見ることなく家を飛び出して行った。



(朝ごはん…ーーー折角作ったんだけどな…ーーー)


一緒に食べようと思っていた朝食も、無駄になってしまった。


ふと、食卓へ戻ると机の上に置き手紙があった。

乱雑な字だけど、先輩の字だった。

「鍵は閉めたらポストへ」

――――家の鍵を先輩は僕に託してくれた。


(僕が悪人だったら、先輩どうするんだろう…ーーー)


先輩の純粋で、底抜けに優しいところに、僕は苦笑した。


(やっぱり好きだな…ーーー夏海先輩。)



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