もっと一緒に居たい
―――僕は今、ずっと恋い焦がれた人を目の前にしている。
夢のような状況に、時間が止まればいいのにと願った。
映画館のエンドロール中、こそこそと他愛ない話をしたあと、夏海先輩が何もなかったかのように立ち上がった。
「じゃあ私行くわ」
気が付けば、誰もいなくなった映画館に二人だけになっていた。
「夏海先輩、このあと少し時間もらえませんか?」
(このまま、行かせたくない…ーーー)
つい、そんな名残惜しさから僕は先輩を引き留めた。
「え、いや…無いよね?」
先輩が、何言ってるのという顔で僕を見る。
「あ…そっか。そう、ですよね」
時計は0時を過ぎていた。
(彼女は社会人なのだから、遅くまで付き合わせることなんて出来るはずがない)
僕は自分でも驚いていた。
そんな、少し考えれば分かることすら思い付かなかった自分に。
「どうかしたの?」
僕が引き留めたことを気にして、先輩が心配そうに尋ねる。
(どうかしたのは、先輩じゃないんですか…ーー?)
僕はその言葉を呑み込み、同時に“後輩への気遣い”に寂しさを覚える。
(僕には…何でも話して欲しい…辛いときには辛いって吐き出して欲しいのに…ーーー)
でも自分が辛くても人を気遣える夏海先輩の対応は、切ないほど優しくて…、あぁ僕は先輩にとって“只の後輩”なんだなと思い知らされる。
しかし、彼女の僕への対応は当然と言えば当然だった。
何故なら彼女は、僕のことを何も知らないから…ーーー。
“高岸太一の親友”ということ以外は、何も…ーーー。
だから僕は、彼女に頼んだ。ただ、彼女と一緒に居る時間が欲しくて…。
「今夜、泊めてもらえませんか?」
彼女が困っている人を見捨てることがない優しい性格だということも、僕のことを“無害だ”と思っていることも、僕は知っていたから。
―――ずっと、見ていたから。




