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偶然の再会
「許して泉っ」
(“許して?”浮気しておいてよくそんなことを…ーーー)
僕は呆れてため息しか出なかった。
入りかけた彼女の部屋から踵を返すと、彼女が後ろから抱きついてきた。
「だって泉、ちっとも会いに来てくれないから…」
(―――この期に及んで、その台詞ですか?家に男連れ込んだ現場でよくそんなこと言えますね…)
「さようなら」
僕は顔も見ずに彼女の腕をそっと放す。
「やだっ、泉…―――私は泉のことが好きなの…っ」
そんな彼女の言葉は、全く心に響いてこなかった。
高校3年の夏に彼女から告白されて、なんとなく付き合い始めた。そんな薄っぺらい恋も、これでおしまいか。
宛もなく街を歩きながら、僕は思い出していた。
恋がどんなものか、教えてくれたあの女性のことを――――。
「え…」
目の前をふらっと横切るその人の横顔に、僕は驚いて声が漏れた。
(―――夏海…先輩?)
つい先ほど思い出していたその人に、そっくりな女性だった。
ひどく気落ちした表情で彼女は、一人で映画館へと入っていった。
――――…気が付けば僕は、半信半疑なまま彼女の後を追っていた。




