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彼は私の×××   作者: 夢呂
【第一章】夏海ゆりの恋
14/88

ずるい言葉

『先輩が、僕のこと好きになったら帰ります』

(そう言ったくせに…嘘つき…ーーー)


――――翌朝、目を覚ますと吹成の姿はなかった。

私は静かな部屋に違和感を覚える。

(この家ーーこんな広かったか…―――?)





「ちょっとゆり、どうしたの?」

翌日の昼休み、陽子が驚いたように声をかけてきた。


「何が?」


「何がって…今日ずっと上の空だし。」

呆れた顔で陽子が言う。



「なんかあったの?最近毎日お弁当持ってきたり、機嫌良く定時で帰っていったり、肌も艶々で…彼氏でもできたのかと思ってたんだけど?」


「彼氏…ーーー?」

(違う…吹成は…ーーーそんなんじゃ…ーーー)



「え、違うの?ゆりはこっちから聞かないと何も話してくれないもんねぇ…」


否定もしないで手元のお弁当箱を見つめたままフリーズした私に、わざとらしくため息をついて陽子が言う。


(彼氏ではないけど…ーーーーそんな関係ではないけど…)


「(…―――何だろう、すごく大切なものを無くしてしまった感じ…)」


(今さら気付くとか…バカみたい…ーーー)


「本当にゆり大丈夫…?」




その日、会社を出たところで幻を見た。

「先輩?」


「ふ…吹成…――――?」


幻かと思ったのは、吹成本人だった。


(どうして…帰ったはずじゃなかったの?)

――――喉の奥がぎゅっと締まって苦しくなった。


目の前に…失なった大切なものが在った。


「そう言えば先輩からまだ例の言葉貰えてなかったなと思いまして」


吹成が意地悪な微笑みを浮かべて、私に言った。


「……好き…だから帰るな、バカ!」

私がそう言って彼の胸を叩こうとすると、


「いえ、約束通り帰りますよ」

吹成は私の手首をそっと掴んで優しく言った。


(…――帰っちゃうんだ…)

私の目から涙が溢れた。

(離れたくないと思っているのは…私だけなの?)


私の涙をそっと拭いながら、吹成が私の頬に優しく触れる。

そして笑顔で言った。


「―――でも、お互い“別に好きなら関係ない”んですよね?“距離とか”?」


それは、私が…吹成に「遠距離をどう思うか?」と聞かれたときに言った言葉だった。


「…遠距離でも、僕はあなたを諦めたくない」


(本当…吹成は…会話のテンポがずれてるわ…)

私は涙を流しながら、フッと笑ってしまった。


「夏海…ゆりさん。僕と付き合ってください」


吹成が、私を抱き締めて耳元で囁いた。


「…―――はい…」


だから私も、背伸びして吹成の耳元でそう返事をしてやった。




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