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彼は私の×××   作者: 夢呂
【第一章】夏海ゆりの恋
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土曜の付添いデート

(わ!何気にここ、初めて来た…)

スカイツリーの天望デッキから見える景色に私はつい目を輝かせていた。


「何よ?」

隣にいた吹成が、景色ではなく私を見ていたことに気付いた私は、はしゃいでしまったのを見られたのが恥ずかしくてつい不機嫌な態度になる。


「いえ、何も?」

相変わらず吹成は、そんな私の態度にも全く構わずにふわりと微笑む。



――――こうやって景色を見ていると、ビルも人も、すごく小さく見えて。

…ーーーつい先日終わったあの恋なんて、本当にちっぽけに思えてきた。


「他にも色々行ってみますか?」


私がそんなことを思いながらじっと景色を見ていると、

吹成が言った。


(あ、そっか…。吹成はきっと、本当は別れた彼女と来たかったのかもしれない)


そう言えば全く落ち込んだところを見せないから忘れていたが、つい先日…彼も別れたばかりだった。

彼女に会いに来たのに浮気されていて…。

本当にかわいそうだ。

(こんなに良いやつなのに、なんで…浮気なんかーーー)


吹成の元カノは馬鹿だな…と思いながら、私は吹成を見る。

「先輩?」

私の哀れみを含んだ表情に、吹成がキョトンとして見つめる。


(―――東京観光ぐらい、付き合ってあげても良いか。)


「うん、行こ」

私は吹成に微笑んでそう言った。




「東京見物もなかなか面白かったですね」

あれこれ歩きながら、結局夕方まで、二人で観光を楽しんだ。


「良かった!」


(私も、観光なんてしたことなかったから新鮮だったな)

住んでいればいつか行くだろうと、結局行っていなかったところばかりで自分でも驚いた。

(それに…ーーー)


「吹成の気分転換になったなら」

はしゃいでいた私は、心の声を口にして伝えてしまった。

気が緩んでいたせいで、考えるより前に。


すると、吹成の表情が曇った。

「―――…」


「や、ごめん。何でもない…」

(思い出させてどうするんだよ、ばか!)

私は心の中で自分を叱る。



「あ、吹成!アイスクリーム好き?」

話題を変えようと、私は近くに美味しいアイスクリーム屋さんがあることに気がついて咄嗟に思い付く。


「え、あ、はい」

私の突拍子もない質問に、面食らったような表情で吹成が頷いた。


「この先に美味しいところあるんだ、連れてってあげる」

(思い出させちゃったお詫びに、奢ってあげるか)


私がそう言うと、吹成は喜んだ。


「はい。ありがとうございます」

そして私たちはアイスクリーム屋さんに寄ることになった。




時計を見ると、夕方の五時を過ぎたところだった。


「じゃあ私、そろそろ帰るね」

私は近くの駅へと向かって歩きながら言う。


「分かりました、帰りましょう」

「え?」

(“帰りましょう”?―――日本語おかしくない?)

その言い方だとまるで私の家に一緒に帰るみたいに聞こえる。


「帰りましょう?夏海先輩の家に」

吹成の笑顔に、私は毒気を抜かれてため息をついた。


「―――…まさか、今日も泊まる気?」


「はい、ダメですか?―――夕御飯、作りますから」


「一体いつになったら帰るわけ?」

何気なく、いつものノリで私がそう言うと、吹成が切ない表情で私を見つめた。


そして、苦しそうに微笑んで一言、私に言った。


「先輩が、僕のこと好きになったら帰ります」



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