映画館
「大輔、愛してる…ーー」
「俺も、愛してるよ澪……――――」
でかいスクリーンで繰り広げられる濃厚なラブシーン。
(あぁ、失敗した…ーーー)
内容も確認せずに、ちょうど始まる映画のレイトショーの開始時間に足を踏み入れたことに、私は後悔していた。
スクリーンの主人公とその恋人の二人はお互いの気持ちに素直になり、幸せそうに愛を確かめ合っているというのに。
『ごめん、別れよう…―――』
彼氏に先程そう言われたばかりの、
まさに現実で失恋したての私には、自ら傷口に塩、いやハバネロをすり込みに来たようなものだった。
(何やってるんだろう…私は…―)
―――暗い映画館で、独り。
感動のシーンでもないのに、私は涙を流していた。
(好き…だったのにな…ーーー)
私の気持ちは、変わらないのに。
彼の気持ちは、変わってしまった。
そんな私が彼に出来ることは、“別れ”を受け入れることだけだった。
(これで明日も会社とか…ーーーきつすぎる…ーー)
「あのこれ、使ってください」
スクリーンを見ながら静かに涙を流していると、
突然左隣からこそっと耳元で囁かれ、目の前に白いハンカチを差し出された。
(泣いてるの、気付かれた…!!?
というか、他人に気を遣われている私…――――)
驚いた私は、慌てて涙を素手で拭い、隣を向く。
(え…ーーーー)
「吹成…―――?」
隣に座っていた人の顔を見て、私は思わず呟いた。
それは、高校時代の後輩、吹成泉だった。




