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転生したは良いけれど

転生して主人公に出会ったけれど

作者: aaa_rabit

いよいよ、例の王子が登場です。

 好きな人に介抱してもらうためにわざと怪我をしてみたり、嫌いな相手が通る際に素知らぬ顔をして足を出して引っかけてみたり、偶然を装った確信犯はどこにでもいるものだ。内心わざとだと理解していても、中々相手の真意を問い質しがたいのが世の常である。


「そういうのってよくないと思います!ちゃんと王子の話も聞いてあげてください」


 …………うん?


 この子、電波系女子か?と疑うのも無理はないと思う。両手で行き先を塞ぐなりいきなりそう切り出されたら、首を傾げるしかないだろう。しかもよく見れば、この子はもしかして主人公ではなかろうか?初めて対峙したが、流石ヒロインというだけあってそれなりに可愛い顔をしている。乙女ゲーのヒロインなんて平凡な〜とか心の中で独白していても、実際のところ攻略対象者ばりに整った容姿をしているものだ。逆に不細工だと色々問題だろう。主にスチルとか、囁きボイスの台詞とかで。お前ブスだなと言われて喜ぶのは一部のM属性を拗らせた方々だけである。


 しかし、自信を持って言おう。ユーリリアの方が断然綺麗可愛いと!自画自賛だと笑いたければ笑うが良い。あの両親、更には王城や公爵家の回廊に並ぶご先祖様達の立ち絵を見れば、余程遺伝子が誤作動を起こさない限り、美少女が生まれないわけがないのだ。高貴なる血筋万歳。


「ねえ君。ちゃんとホノカの話聞いてる?」

「こんな女がフロルの趣味?最悪じゃん」


 男にしては高い声に振り向けば、髪型を除けば対称的な青年が二人並んでいた。ネクタイピンを飾る石は緑、つまり同じ1年である。そして青年達の持つ黄を帯びたライムグリーンの瞳は木の国の王族である証、となれば彼等が末の双子王子か。この2人も確か攻略対象だったはずなので、ヒロインは着々と王子達を垂らし込んでいるらしい。


「初対面で意味の分からない発言と暴言を吐く方々に付き合う暇はありませんわ」


 にっこり微笑みヒロインの手が届かない廊下の端を通り抜けようとするが。

「待て、女。ホノカを無視するのは許さん」

「ちょっとだけ僕達と付き合ってくれるよね?」


 届かない部分を補うように、それまでヒロインの背後にいた二人が立ち塞がる。片や薄水色の長い髪を首の後ろで束ね、もう片方は黒髪に鮮やかな紅の目をした青年。同じく攻略対象で水と火の国の王子だ。


 男四人、それも全員が王族に囲まれれば、気の弱い人間ならば卒倒してもおかしくない光景だ。そもそも声を掛けられているだけなのに、この包囲網は一体何なのか。一歩間違えば虐めと取られかねない状況だ。


「お断りします」

「は?」

「同行をお断りします、と申し上げました。そこを通していただけますか、先輩?」


 まさか断られるとは思わなかったらしい水の国の王子の様子に呆れ果ててしまう。こういう脅すようなやり方も気に入らなければ、彼等の要求を聞く理由もない。冷やかに見つめながら、そこを退けと目で訴える。


「貴様……」

「あれ。みんなこんなところで何をしているんだい?」

「……大丈夫か?」


 気の抜けた声と共に視界には眩い金色が映り込み、腕を後ろに引かれた拍子によろけた体は力強く支えられる。見上げれば心配の色を宿した濃藍の瞳とぶつかり、思わずご馳走様ですと叫びそうになったが心の中に留めておいた。


「ハイルーク様。……ありがとうございます」

「ん……」


 一つ一つの仕草や表情に萌え心がキュンキュンしてしょうがないのだが、表では平静を装って背けていた正面を向く。そこではヒロインが馬鹿王子ことフロヴァル王子に一生懸命説明していた。その会話を聞いていれば、何となくそんな気はしていたが、やはり元凶はこの馬鹿だったらしい。ヒロインの言い分を要約すれば、日頃からユーリリアに話し掛けては華麗に無視される馬鹿が不憫で、せめて話だけでも聞くよう直談判しようとしたのだとか。


 馬鹿王子にとってもユーリリアにとっても余計なお節介だ。第一、部外者になんと言われようと、ユーリリアは馬鹿王子と関わる気は全くない。心底くだらない上に時間の無駄だ。


「ハイルーク様、ここは王子に任せて行きましょう」

「……良いのか?」

「ええ。これ以上巻き込まれるのは嫌ですもの」


 ユーリリアがにっこり微笑めば、ハイルークもそうかと納得し、二人はその場を離れた。


 この後?勿論デートに決まっている。そもそもハイルークが都合良くやって来たのは約束の時間を過ぎてもユーリリアが現れなかったからだ。ハイルークはユーリリアが馬鹿王子関連で度々絡まれるのを知っているので、予定時刻に来なければこうやってわざわざ探しに来てくれる。この優しさに惚れるなというのが無理だ。


 だが安心してほしい。ヒロインへのフラグはすべて叩き折り、シナリオイベントはすべて代わりにこなしておいた。勿論それ以外にもアピールを欠かさず、最近漸くハイルークを射止めたユーリリアに死角はない。しかし、このことが切欠で火の国の王子に目をつけられることになろうとは、さしものユーリリアも想定していなかった。


いつの間にか主人公がくっついていました。



〜その舞台裏2〜

 フロヴァルを思っての行動だと言い訳を連ねる彼女に、内心うんざりとしてくる。彼は彼女にそんなことを頼んだ覚えはないし、本人達にその気がなかったとしても明らかにユーリリアを追い詰めているような状況だったことも気にくわない。


「もう分かったから、ホノカ。君を責めるつもりはないけれど、二度とユーリィには近づかないでくれないかな」

「どうしてですか!納得できません」

「君を守るためだよ」


 僕の手から、ね。


 ぽっと頬を赤らめる彼女は明らかに誤解しているようだが、それでユーリリアを守れるのなら構わなかった。何故ならユーリリアはフロヴァルにとっての大切なお姫様だからだ。


 幼いフロヴァルにとって、母親の寝物語に出てくる登場人物は憧れで、彼らのようになるのが夢だった。いつか強くて優しくてカッコいい男になって、大好きなお姫様を守るような人になりたい。その一心でフロヴァルは努力した。そんなとき出会ったユーリリアを見て、フロヴァルは彼女こそが自分の運命のお姫様だと悟った。何処までも澄んだ青空色の瞳は穢れを知らず、この子を彼の一生をかけて守っていくのだと幼心に誓ったものだ。


 しかし、フロヴァルが良かれと思って行動するほどユーリリアの気持ちは離れていく。彼女が好きだという生き物を渡したり、嫌いな食べ物を代わりに食べてあげるなど、彼なりに優しく接していたつもりだが、その想いとは裏腹にとうとうユーリリアに会うことも許されず遠くから見守ることしか出来なかった。


 成長し、慣例に従って入学したプレナテス学園でフロヴァルはユーリリアと再会した。話しかけても相変わらずつれない態度だが、それでも公爵やリーディウスの妨害によって視界に入ることすら許されなかったことを思えば大きな進歩だ。だが、ここでもまた邪魔をしようとする者達がいる。しかもそういう者達に限ってフロヴァルを建前に使うから、益々ユーリリアから嫌われることになり、余計に腹立たしい。六大国の出身者はほぼ例外なく初代王を信仰しているからまだいいが、六大国以外、つまり島国の出身者達は違う。その筆頭が目の前にいる彼女で、王族に対する馴れ馴れしい態度に、方々から怒りを買っていることに当人は気づいているのかいないのか。


 その気さくな人柄が他国の王子達にとっては好ましいらしいが、正直フロヴァルには理解しがたいことである。臣下や国民に逆らう程の価値を見いだせないのだ。実際、王位に近いハイルーク(月の国の王子)アーデル・ラヒム(金の国の王子)友人達(他国の王子達)の手前あからさまに拒絶する態度は見せないが、彼女が出席するサロンには参加を控えているようだった。フロヴァルも出来ればそうしたいが、ユーリリアを守るためには彼女を犠牲にするのが一番手っ取り早い。既に三国から敵視されているのだからそこにもう一国加わったところで大差ないだろう。最近ユーリリアへの接触を控えて彼女の側にいるのもそのためだ。彼女を害する者は誰をも許さない。例えそれが己であっても、だ。


(君を守るのは僕の役目だ)


 その為ならば偽りの愛を囁くことに躊躇いなどあるはずがない。

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― 新着の感想 ―
[一言] ヒロインの名前は、ホノカ?それとも、ジュリア?←舞台裏2の王子視点で。 このヒロインも転生者ですかねぇ? で。逆ハー狙いで対象王子達を攻略していった結果、一点集中(笑)の主人公に双璧の月の…
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