変態のせいです
勇者、賢者、英雄、世界各地で逸話になる人物達。
例えば、エルヴィン国の初代国王で光の精霊の守護を得た建国の英雄エルヴィン=レバイラフ。人族と激突していた獣人族をまとめ上げ、一つの国に仕立て上げた獣王ジェノバ。魔王と戦い封印を遂げたゼノフ国の王子で勇者フリードと一緒に戦った賢者ベルルート、魔女リビエラミア、騎士ガンゼル、光輝教の聖女メリッサ。
偉人達の話は受け継がれ、世間に広がっていく。
そんな世界の常に辟易としている女がここに一人。
魔獣が溢れるエシュバの森の中程。日も暮れた森の中で夜営している。エシュバで夜営することがどれほど凄い事なのかは、魔獣を狩ることを生業とする者達が誰もが信じない、デマにも程があるとそんな事を言えば顰蹙しかかわないぐらいの事なのだが、女は魔獣溢れる森で呑気に火まで焚いている。
魔獣をわざわざ呼ぶような事をと、もしこの場に彼女以外の人が居たのなら、真っ先に火を消した事だろう。
彼女には魔獣を五十、六十、なんなら百と呼び寄せたとしても、屁でもなく、何のこともない。だから、彼女はエシュバの森で平気で一人で夜営をするのだ。
ガサガサと茂みがなる。
耳をピクリとさせただけで彼女は動かない。
更に言うなら、気が置けない友が現れるかの様に彼女は待つ。
この魔獣溢れるエシュバの森であまりに呑気と言える。やがて、音の主が現れた。茂みが鳴る音の他に音もさせずに近寄ってきたのは一頭の魔獣。
それでも、彼女は動かない。
「息災か。そろそろ」
「嫁にはならないよ」
魔獣の言語での話しかけを途中で途切れさせた彼女は隣に来いと自らが座る隣を叩いて示した。
「リビ」
「なに?」
「今日は一段と機嫌が悪いな。耳が」
「うるさい」
黙って枕になっていろとばかりに彼女は魔獣の艶やかな毛並みに背中を埋めた。
魔獣はまぁ良いかと甘やかすように体勢を崩して、それを受け入れる。
「また子どもに見られた」
「難儀な。そろそろ生まれて二ひ」
「年を言わないで」
女は魔獣の脇にぐりぐりと頭を押しつけた。
悔しさの表れに魔獣は牙が並ぶ口の端を器用に上げる。自分に甘える彼女が可愛いらしい。
「耳が赤くなっているな。可愛いらしい。私はいつでもリビを欲している」
頬と白く長い耳が赤く染まり、耳はヘニョっと下に曲がる。
「魔獣のくせに男前な」
「ふっ。もっと誉めるがいい」
ざらざらした舌で頬を舐めた。
「リビ。私と共に悠久を過ごして欲しい。出会いから百を数えた。もう良かろう。私と共に居て欲しい」
リビネラミア、通称リビ。二つ名を正式なものは獣賢者
またの名を合法ロリ兎
兎人の魔法使いとして、勇者フリードについて魔王と戦ったのが彼女が十の年。幼くはあったが、兎人族の族長の娘として、また兎人族一の魔法の使い手として、勇者フリードに着いていった。
魔王との熾烈な戦い。
その最中リビをチラチラとだが熱い眼差しで盗み見る魔王。
リビエラミアは最中は首を傾げるだけに留めていた。今は戦いの最中だ。集中しろと。
そして、魔王と雌雄が決したその瞬間だった。
魔王がリビエラミアを見てこう言った。
「うさ耳ロリとか永久ほぞ……ぐぁぁぁぁぁぁ」
魔王は消えた。
ダメダメな発言だけ残して。
「変態だな」
「変態だったね」
「変態でしたわね」
「リビちゃん見ないように」
「ふえっ」
勇者一行が魔王を扱き下ろす中、騎士ガンゼルは汚物を見せないようにとリビの耳を使って彼女の眼を閉ざした。
だめすぎる魔王討伐が終わった一行は各々帰るべき国へと戻った。めでたしめでたしとここで終われなかった。
魔王を討って五年ぐらいはまだ、まだ良かった。
それから更に十年が過ぎ、リビは自分の体が成長しないことを知った。
魔王の呪い。否、変態の執念がリビに与えた影響。これがリビを周りから孤立させ、魔王討伐から二百年経った今でもお子ちゃま扱いされる事態を起こしたのだった。