旗取り⑥
競技旗取りが行われている異世界のビルに囲まれた通り。
街灯によって照らし出される道着を着た男がいた。金髪の混じった濃い黒色のソフトモヒカンで、真っ白い道着には黒帯をつけ、その風貌からしても実力者であることが見て取れた。
競技開始からはもうじき10分が経とうというところであるが、その男は召喚された場所からピクリとも動こうとはせず、ただ一点を見つめていた。
その方向にはただビルが立ち並んでおり、なにかあるようには見えない。
だが、その男はただ無関心に眺めている訳ではなく、なにかがあると確信し、見つめていた。
男はしばらくして右手に握り拳を作り、素早い動きでさっきまで見つめていたビルに近づきその拳を放った。
ビルの壁は大きく抉れ、半径3、4メートルほどの穴が開いた。
しかし、ビルが抉れる直前に、影のようなものが動きその拳をよけた。
「おのれ!この俺を誰だと思って見ている!」
振り向きざまに裏拳を繰り出し、そばに建っていた電柱にぶつけ破壊した。
「貴様からはなかなか強い気を感じるぞ!コソコソ逃げ回ってなどおらんで正面からかかってこい!」
男は言いたい事が終わると、一回だけ震脚を繰り出した。
とてつもない地響きと共に地面が割れ、強い振動が地面を這った。それに耐えられなくなった周りにあったビルは崩れだし一掃された。
男はどっしりと構えありったけの空気を吸い込むと、辺りに叫び散らした。
「これで隠れる場所はないぞ!大人しく出てこい!」
その叫びが辺りから完全に聞こえなくなり、数秒が経つと、男はなにかに気付き後ろを向いた。
そこにはなにもいない。しかし月の光がなにかを照らし地面にはその影が映し出されていた。
「なんともまぁ、妙な技だな。姿くらましってやつか?もう意味ないからやめたらどうだ?」
男が影に向かって声をかけると、影はそれに応えるようにして揺らいだ。
そしてやがて影の持ち主が現れた。髪を後ろで結って、口は布で隠しているくノ一のような身軽な格好をした女であった。
「ただの姿くらましじゃない。伊颯流忍術・幻姿。だ。」
布で覆われた口から発せられた第一声であった。
それを聞いた男はニヤリと笑い言った。
「その痛々しいネーミングセンス。声。風貌。数年顔を会わせずともわかるぞ。久しいな伊颯!!」
「ハハッ!そういうあんたは随分変わっちまったな。まさかそこまで精進するとはね。龍彦。」
互いに言うことを言うとズカズカと近寄って行った。
しかし、互いに残り一歩の所で伊颯は握手を交わそうと手を差し伸べたのに対し、龍彦は拳を振りかぶった。
ドゴォォォオオ!!
龍彦は拳を振り切ったが伊颯は寸前で避け当たることはなく地面にあたり、伊颯はそのまま勢いで距離をとった。
「なっ、なにすんだよ!昔っからバカだったけどこの状況で仲間かどうかぐらいわかんでしょ!?」
伊颯がそう訴えると龍彦は地面に当たった拳を胸元まで持って行き見つめ、その後に伊颯に向き直った。
「この一番最初の戦いで名前を当てられるものもそうおらんからな。今回ばかりはお前が仲間だと分かる。」
「ならなんでたよ!?」
伊颯の問いに龍彦は少し黙った。
「・・・・・なぁ。ちょいちょい爆発とか起こってるけどさ。俺たちは負けてると思うか?」
「え?負けてるとは思わないけど・・・・そういうのはずっと一緒にいれた龍彦のほうがわかるんじゃない?」
「だろう。少なくとも将也がいれば負けることはないと俺は思ってる。」
「だから?どうしたの?」
「・・・・・ほんとうにお前は強くなった。覇気が滲み出るほどに。」
「それはどうも。・・・・・で?」
「・・・・・・わからんか?この戦いは俺たちが出向かなくても勝てる。そしてお前は強くなった。そして・・・」
「ごめん全然分からないから簡単に言っ・・・・」
ドゴォォォオオン!!
伊颯が言葉を言い切る前に再び龍彦は拳を振るった。
案の定、伊颯は再び拳を避け、龍彦の拳は瓦礫に当たった。
困惑の表情を浮かべる伊颯に向かって龍彦は叫んだ。
「俺と戦えと言っているんだ!!」