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神様選手権  作者: 古来通
旗取り
7/8

旗取り⑤

 暗い裏路地をグラサンの男が走っていた。カイザーレッドに敵の相手を任せとにかく逃げていた。


「ハァ・・・ハァ・・・。あと、2分ちょい。イケる。」


 息を荒げながら走り続けた。この競技は主神候補が旗を持っていなければ時間のカウントがない。その上、持っている旗からは光が溢れるように出てくるので、ライトアップされた夜の街の中でも相当目立つ。目立たないほど周りに光があるのは開けた場所しかないため、見つかる可能性もある。なので、周りに見方がいない限りこうして逃げ回らなくてはならない。

 競技開始からは9分程、グラサンの男に旗が渡ってからはおよそ8分が経っており、残り2分程逃げ回れば勝利することができる。


「楽勝だ。コラァ。」


 走りながら呟き、前を向いた。すると、十数メートル先に気配を感じ止まった。すると向こう側から話しかけてきた。


「やあ。明るい夜だね。」

「誰だ?テメェ」


 その気配は徐々に近寄ってきて、姿を現した。白い髪が印象的な青年であった。


「真理ちゃんの指示は的確だなぁ。ほんとに来たよ。」

「敵かよ。・・・あと少しなのに・・・・。」


 グラサンの男は苦悶の表情を浮かべると、真逆を向き白い髪の青年から逃げようとした。しかし、後ろには先ほど会った少女がいた。


「やっと追いついた。・・・およ?もしかして聖人?」

「おおっ!恵ちゃん!久しぶり。」


 なにやらうれしそうな2人に挟まれ、絶望的な状況に陥ったグラサンの男は光る旗を一層強く握りしめ、守る様にうずくまった。

 すると、両側の2人は徐々に近づいてきた。もう目前に迫っているであろう頃に声が聞こえた。


「じゃあ旗。取ろうか。」


 グラサンの男は恐怖のあまり、そこからの記憶を有することはできなかった。




 数分前、グラサンの男とカイザーレッドがわかれた場所では、2度目の爆発が起き、煙が晴れた時、カイザーレッドが1人でうずくまっていた。

 爆発には巻き込まれない細工がしてあるようだが、その前に受けた将也からの傷のせいで動けないようだ。

 なんとか腰のベルトに引っかけていた通信機を手に取ると、話しかけた。


「こちら、カイザーレッド。応答してくれ」


 そういうと、通信機のスピーカーから荒い通信音と共に声が聞こえてきた。


『こちら知恵の神候補、エリス。ご用件は?』

「敵と出会い、主神様を逃がしました。しかし後から来たもう1人の敵と交戦中に1人を逃がしてしまいました。私は残った敵との交戦の末に負傷、現在歩くこともできない状況です。・・・主神様が1人で逃げている状況です。」

『・・・・了解です。私たちのチーム全員を総動員して助けましょう。』

「ありがとう。ちなみにいま戦局はどうなっている?」

『私たちチームは私を除いた2人1組を2組作って行動中です。あなたは10人倒しました。他の組の倒した人数は把握していませんが、現在参加しているのは14人。私たちのチームは7人全員参加中ですが、実質6名となってしまいますね。敵は7人。となっていますね。』

「・・・・・すまん。主神候補さんを頼む。」

『はい。』


 最後の返事を聞くとカイザーレッドは通信を切った。そして、うつ伏せになっていたのを仰向けにして、溜息をついた。そして言った


「気付いてたよ生きてるのを。まったく、火薬を全部使ったっていうのに。」


 喋るながらカイザーレッドが向けた視線の向こうには将也がいた。


「ギリギリな。式は展開できなかったから、あの爆発のなかただの盾一つで防ぐことになっちまった。」


 そう言いながら手に持っていた鉄製の盾を放った。片足を怪我して引きずっており、盾を持っていた方の腕は完全に脱力していた。

 そんな将也にカイザーレッドは語りかけた。


「休戦・・・・ですか?」

「・・・・そうだな。」


 そう言いあうと、将也は地べたに座りどちらもしばらく黙っていた。

 先に沈黙をやぶったのは将也だった。


「俺、将也っていうんだ。あんた、名前は?」

「そういえばあなたには言ってませんでしたね。カイザーレッドです。」

「偽名かよ。・・・・戦闘の神候補なんだろ?どんぐらいアビリティに目覚めてんだ?」

「恥ずかしながら、自分が倒した人数をしることができるぐらいです。」

「そうか。俺、さっき新しいアビリティ目覚めたんだ。近くにいる味方の顔がわかるのと異常が発生した時に場所がわかるだけだったんだけどさ。競技参加人数と味方の数がわかる様になった。」

「それはおめでとうございます。」

「あぁ。自慢みたいで悪いけどよ。いま参加している16人の内俺のチームはまだ誰も死んでねぇ。これって相当いいと思うよな?・・・・・どうした?」


 将也は反応がないカイザーレッドを不審に思った。しかし「自慢されてうるさい」と思っているわけではないことはマスクで顔が見えなくてもわかった。もっと不安というか、疑心があるような、そんな感じだった。


「大丈夫か?カイザー」

「・・・・・すみません。現在競技に参加している人数は何人ですか?」

「あん?16人だけど。」

「ありがとうございます。」


 カイザーレッドはそう言うと、通信機を取り出した。


「こちらカイザーレッド。応答してくれ。」


 しばらくして返答が返ってきた。


『こちらエリス。どうかしましたか?』

「いや、もう一回参加人数を聞いておこうと思ってな。」

『そうですか。・・・・さっきと変りません。16人です。』

「そうか、それだけだありがとう」


 カイザーレッドは通信を切った。

 将也はなにかおかしいと思いカイザーレッドに聞いた。


「どうした?」

「変わってるんです・・・・」

「は?」

「競技参加人数が変わっているんです。最初にエリスさんに聞いた時は14人って言ってて、将也さんが16人って言うからおかしいと思ってもう一度エリスさんに聞いたら、さっきと変らず16人だって・・・・。」

「2人違うのか。」

「はい。」

「・・・・なあ、なんでエリスってのは残り人数なんてわかるんだ?カイザーが戦闘の神候補なら、そのエリスってのはそれ以外の神候補なんだろ?」

「はい。自分では知恵の神候補だって言ってましたよ。人数がわかるのは倒した敵の人数を報告するように言われたからで・・・・・あっ・・・。」


 カイザーレッドは喋るのをやめ、なにかを考え出した。


「どうした?」

「報告してないんですよ。私が教えたの最初に倒した7人だけ。その後に倒した3人はあなた達に襲撃されて報告してないんです。なのにエリスさんは私が倒したのは10人だって知ってた。」

「・・・・・そもそもお前達ってみんな通信機持ってんの?誰が味方かわからない状況なのに、どうやって配ったんだろうな。」

「配っていたのはエリスさんでした。『やっと仲間に会えた』っていいながら渡してきて、倒した敵の人数は教えてって・・・。」


 将也もカイザーレッドもしばらく困惑したように黙っていたが、なにかを理解したように口を開いたのカイザーレッドだった。


「敵・・・・なんだ。」

「エリスって奴がか?」

「私とは違うチームなんですよ。たぶんそのチームの戦闘の神候補なんです。おそらくグラサンの主神候補もエリスさんのチームの主神候補じゃない。私は敵を減らすのと、別の主神候補に旗が渡るのを防ぐ道具だったんです。そしてグラサンの主神候補は敵が減るまでの餌だったんですよ。敵が多い内に自分のチームの主神候補に旗を取らせたら狙われる危険はでかい。旗は10分経つギリギリに奪い返せばいい。10分間逃げ回って疲弊した人間から旗を取るなんて簡単ですし、そのとき私が傍にいたとしても10分も戦い続けた人間では数で攻めれば倒すのも容易い。・・・・最初に人数を聞いた時に14人と言ったのは疲弊して敵ではなくなった、脱落確定の私とグラサンの主神候補を抜いた数字だったんです。将也さんのチームも7人全員参加中で、エリスさんのチームも7人全員参加中だったら足して14人です。」


 それを聞いた将也はなにか考えるように黙ったが、やがて口を開いた。


「憶測にすぎないかもしれないが、すじは通ってる。・・・・ちょっと行ってくるわ。」


 そう言いながら立ち上がろうとする将也をなにかを察したカイザーレッドは止めた。


「どこに行くつもりですか?」

「エリスってやつのところだ。」

「彼女は戦闘の神候補かもしれないんですよ?その傷では負けに行くようなものです。」


 そう言いながら足を掴み動きを止めるカイザーレッドに将也は言った。


「お前な!お前は利用されて仲間かもしれないやつを攻撃させられたかもしれないんだぞ!?騙されて!!」

「だとしてもいまの状態の私たちには嘆くことしかできません。」

「俺は利用するようなやり方は気に食わん。だからそいつには一発ぐらい殴らなきゃ気が済まん。行かせてくれ。」

「無理なんですよ!!そんなこと!!」


 突然大声を上げたカイザーレッドに驚きながらも、将也は負けずに言葉を発した。


「・・・・・なあ、カイザーレッド。お前のそのヒーロースーツとマスクは何のためにあんだよ?」

「・・・・・・・・」

「悪を倒すためだろ!?正すためだろ!?行かせてくれ。じゃなきゃそのスーツ脱げ!!」


 将也は諦めるつもりはないようだ。そんな将也の顔、目をみてカイザーレッドはなにかに気付き決心した。


「まったく、この下にはパンツしか穿いていないというのに・・・・。まぁ、もちろん脱ぐつもりはありませんが。」

「じゃあ離せよ。俺は行くんだ。」

「あなたが行くなら私も行きましょう。」


 そう言いながら足を離したカイザーレッドを見ながら困惑する表情の将也に、カイザーレッドは言った。


「あなたを見て、私のヒーロー魂に再び熱く火がつきました。行かせてください。」


 そう言ってきたカイザーレッドを見た。自分が開けた両手両足に開く傷跡も見た。手は力を入れる事もできそうにない。足は腱が貫通しており、立つことすらできないだろう。だが、将也がカイザーレッドのその顔を見た時、とても真剣だった。

 将也はそんなカイザーレッドを前に少し考え、決断をした。


「そうだな。お前が行かなきゃ意味ないもんな。・・・・2人で行こう。」


 そう言うと、まず2人はどうやって立ち上がるかの議論から始めた。


疑問点は教えてください。改善したいと思います。

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