旗取り④
血の気の引いた顔で走る1人のグラサンの男がいた。その右手には光る旗が握られている。おそらく4チームの内どれかのチームの主神の神候補なのだろう。
彼の数十メートル後ろには数人の列ができており、旗の奪取を試みている。
グラサンの男は少し後ろを見ると、頭に着けていたインカムに喋りかけた。
「くっそ。おい、知恵の神の候補!!おれが旗取ってから何分過ぎた!?」
「・・・・・およそ3分程度かと思われます。援軍、到着します。」
インカムからの声が途切れると同時にグラサンの男の真後ろに、いままでいなかった人間が突然現れ、並走を始めた。
「あんたが援軍か?なんの候補だ?」
「お待たせしました。戦闘の神の候補。カイザーレッドと申します。」
「はぁ?」
グラサンの男が顔をしかめながら後ろを向くと、小さい子供向けの特撮物でよくでてくる正義のヒーローのような格好をした人物がいた。大きめのヘルメットもお約束としてかぶっている。
(めんどくさそうなのは無視しておこう)
グラサンの男はひそかにそう思った。
「とりあえず、後ろの奴ら頼めるか?」
「了解です。」
カイザーレッドは足を軸にして180°回転し、向かってくる数人の敵に向かい合った。そのままボクシングのように、両手を顎の高さまで上げ構えた。
「式を展開。悪を滅ぼす。」
カイザーレッドはそう言うと向かってくる敵に向かってシャドウを放った。しかし、距離はまだ離れており届くことはなかった。
それを気にせずカイザーレッドは足を軸にして180°周り体の向きをグラサンの男の方にむけると、満足そうに「敵は倒した」とでも言いたそうな顔・・・というかマスクをグラサンの男に向けた。
「てめぇ。誰にも当たってないじゃねぇか!!」
グラサンの男は不機嫌そうな顔をしながら、カイザーレッドに向かって叫んだ。
するとカイザーレッドは首を振りながら右手の人差し指をたてながら横に振った。
「真のヒーローと言うのは敵の倒れる際を見ないものですよ。・・・・・終幕。」
カイザーレッドは指をパチンと鳴らした。するとカイザーレッドの真後ろ、つまり敵がいるほうで爆発が起きた。それは周りのビルをも巻き込み消し飛ばした。しかし、カイザーレッドもグラサンの男も無事で熱さすら感じていないようであった。
「悪を祓う炎です。私たちには効きません。」
「なんだいまのは・・・・?」
開いた口がふさがらないグラサンの男は尻もちをついた。
「式、ですよ。最近流行ってるんです。自己流で攻撃を簡略化する式を組み上げるのが。式は自分の頭の中に保存しておいていつでも使えるようにしておくんです。私の場合、爆発を起こすまでの式を保存してあって、その式を発動させるのに必要なのが先ほどのパンチと『終幕』という掛け声なんです。」
「まさか・・・最初に旗が出現した時にあった爆発が俺に聞かなかったのは・・・・」
「私の出した爆発だったんですよ。あの時は7人は倒しまして、今回は3人を倒しました。戦闘の神の候補になったら自分が倒した人数がわかるアビリティが備わるようですね。戦う頻度が高いが故でしょうか・・・。状況整理をしましょう。ゲームに参加している人数28人の内、私が10人消しまして、いまゲームに参加しているのは最高で18人。いまのところ私たちのチームで消えた人はいないようですし、敵は最高で11人。あと6分程の旗の死守で勝利。案外簡単な競技だったみたいですね。」
カイザーレッドはペラペラと言葉を続けるがグラサンの男は聞いておらず、ポカンとしていた。
カイザーレッドはそんなグラサンの男に手を差し伸べ、立たせた。
「敵が少なくなっているのは確かですが、先ほどの爆発で私たちの場所がわかってしまっているでしょう。敵が来る前に逃げましょう。」
「あ、あぁ。」
そう言いながらグラサンの男とカイザーレッドが走り出そうとした時、
「ちょっと待ってくれる?」
突然、背後から女の声が聞こえ、急いで後ろを振り返る。
そこには1人の少女がいた。ブラウンの髪色にカールミディ。上質なシルクのブラウスをネイビーの膝丈フレアスカートにインし、上からトレンチコートを羽織っていた。
スカートからスラッと伸びる足は太ももの真ん中より少し上の部分でなくなっており、異型な白い義足がついていた。膝までは人間と同じような形をしているが、膝から下はだんだん細くなる楕円形の棒状になっており、最終的には縦幅5~6cm、横幅2~3cmほどの断面となっている。ところどころに切れ込みのような物が入っており、そこからは赤い光が細々と放たれている。
「さっき爆発音がしたのはここでまちがいないみたい。・・・・ちなみに、その光ってるのってなに?」
その少女はグラサンの男が持っている光る旗を指差しながら聞いた。
グラサンの男は少し構えたが、すぐにカイザーレッドが間に入ってきて制した。
「主神候補さん。ここは足止めします。のこり5分と少し。逃げ切ってください。」
「・・・お言葉に甘える。」
グラサンの男は光る旗をしっかり右手に握り、少女のいるほうと真逆を向き逃げ出した。
その瞬間、少女の両手が黄色く輝き、アサルトライフル2丁が現れた。少女はグラサンの男を狙い、両手のライフルの引き金を引いたが、避けられ、ビルの向こうへと逃げられた。
「逃がしたって事はあれが旗だったってことなんでしょ?敵は1人だから自分が足止め、か。・・・・・当然の手法だよね。」
少女は引き金を引くのをやめると今度はカイザーレッドに銃口を向けた。
「あたし恵子。よろしく。」
「・・・・・カイザーレッドだ。」
「そう。・・・・・でも、もうお別れだね。カイザーレッド。」
そう言いながら自らを恵子と名乗る少女の目線がチラつくのをカイザーレッドはマスクごしでも見逃さなかった。が、遅かった。
「ヘイ!マイ アーモリー。エストックくれ。」
その声と共に真後ろから青い光が現れ、同時にカイザーレッドの腹部が貫かれた。
「グッ!ガァッ!!」
「戦闘の神候補らしいけど、戦況把握のアビリティは持ってないみたいだな。見方が通っていった道が安全だとは限らないぜ。」
将也は刺したエストックを引き抜き、カイザーレッドは地面に崩れ落ちた。
「不意打ちとは卑怯だぞ。」
「戦法の1つだよ敵さん。恵子。こいつは俺がカタつけとく。さっきの奴を追え。追うのだったら俺より早いだろ。」
「そうだね。了解。」
そう言うと恵子はグラサンの男が逃げていった方へ走り出した。
「行かせん!!」
カイザーレッドは腹部を抑えながら立ち上がり、恵子を追おうとした。しかし、将也が足を引っ掛け邪魔をした。カイザーレッドは頬をすり、掌を打ち付け、その後、腹、膝、足と落ちていった。さらに・・・
「赤い敵さんに対して式を4重展開。刺す。実行。」
将也が式を展開し、カイザーレッドの両手、両足に青白いエストックが突き刺さった。
「グガァァ!!貴様あァァァアアァアアア!!」
「ハハッ。そこまでひどい傷にはならないから安心しろよ。俺だってほんとはこんなことしたくねぇって。・・・・まぁ、ずっとあんたらの話を聞いてたからな。あんたの式も知ってる。だから手は封じさせてもらった訳だ。」
「貴様・・の式は、なんだ?・・・こんなもの・・・・・見たことはない。」
「俺のは完全に自己流だからな。みんなに教えても理解はされなかった。俺が式として保存してあるのは『武器職人の思考』だ。武器職人がその武器をどういう役割で使いたいのかを式として保存してあるんだよ。さらに俺は発動する役割を選択して実行する。・・・・・まあ簡単に言えばその武器の特徴を具現化するって感じだ。」
喋りながら将也はカイザーレッドに近寄りしゃがみこみ言った。
「恵子はさ、鬼ごっこがメチャ強いんだよね。だから多分捕まえられるよ。だから悪いね。この競技に勝つのは俺たちのチームだ。」
将也はカイザーレッドに対してそう言うと、ある違和感を感じた。先ほどまで苦しそうにしていたカイザーレッドがなにも言わなくなったのだ。
「どうかしたか?」
そう言いながら将也はカイザーレッドのマスクを覗くとうっすらなかで笑っているのが見えた。
「なにがおかしい?」
カイザーマスクはしばらく黙ったが、やがて口を開いた。
「・・・・私は爆発を起こすまでの式を保存してある。と言ったよね?そんでパンチして終幕って言えば爆発が起きるって。」
「その辺なら俺も聞いた。」
「・・・・・でも、パンチって言うのはあくまで一例なんだよ。空気にでも、人間にでも、地面にでも打ちつければ条件クリアなんだ。」
それを聞いた瞬間将也はカイザーレッドから離れた。が、こんどは将也が一歩遅かった。
周りは炎に飲まれ、その業火に身を焼いた。その爆発には将也も巻き込まれた。
なんか雑になってしまった気がする。堪忍して下さい。今回の話では「式」について理解していただければ・・・・と思います。
将也たちが悪役みたいになってますが、次にはどうにかします。