旗取り②
人には感じられない別次元には沢山の異世界が存在していて、それぞれ別々の神様が統治している。しかし、統治された世界はいずれ支配された世界として見られるようになり、その世界に住んでいる生物に不満を与え、その不満は武器となりいずれ『ラグナロク』が発生する。こうなってしまってはその世界にすむ生物も神もただでは済まない。神がすべて死んでしまった場合はその世界は再起するまでに時間がかかる。
ラグナロクが起こるのは仕方のない事。定めなのだ。不満があればなくしたい。そう思うのは知能を持った生物の、いわゆる性なのだから。
こうなると手を打つことができるのはラグナロクが終わった後の世界の再起促進。そのためにはやはり神がいる。新しい世界に必要な神が。
このような理由でいずれかの世界で『ラグナロク』が発生する前兆が見受けられると、異世界の中の1つである『神子界』という神の子供と言われる神子が住む世界で選手権が行われる。この選手権で勝ち上がり優勝した団体は、ラグナロクが終結した後の世界で神になることができることからその選手権を『神様選手権』とよぶ。
しかし神様選手権はすでに最後の選手権から数百年が経っておりもはや神話となり、神子界に住む神子たちは「自分たちは神になれる可能性のある神子だ」という自覚すらなくなるものが大多数であった。しかし・・・・。
〚第一競技旗取りは4チーム計28名で行う競技です。また、4チーム28名は既に召喚済みです。各チームは競技開始30秒後にこの空間に出現する『旗』を奪い合います。旗を取ることのできたチームは10分間逃げ回ってください。10分間別のチームの奪取が確認されなければ逃げ切ったチームの勝利となります。また、旗に触れる事ができるのは主神の神候補のみとなっており、旗がどれかのチームの手に取られたとき、逃げ回る時間のカウントは主神が右手で旗を握っている間のみとなります。それ以外の場合はカウントされません。最後に、各チームを平等にするため、旗の出現場所は各チームの主神の神候補の召喚場所から同じ距離となっております。それでは競技を開始致します。5・4・3・2・1。競技、開始。〛
数百年ぶりに神様選手権は開始された。
夜の都市。立ちそびえるビル。煌びやかな電飾。それらを見下ろすかのように天空で光り輝く物体。その物体から神様選手権の開始が宣言され、それと同時に街にいた数人の人間が動き出した。おそらく選手権の参加者なのだろう。
航空障害灯が光る高いビルの上には2人の影があった。その内男の方は聖人。女の方を真理子だ。彼らもまた選手権の参加者であるが、彼らはまだ動き出さずに立っていた。
「旗の出現は各チームの主神の神候補の召喚場所から同じ距離、か。」
「動き出したチームが確信をもって動いているかはわかりませんが、もしそうなら敵のステータスでも覗ける能力を持っているということになりますね。どうしましょうか?聖人さん。」
「どうせ僕たちにはどの人間が主神の神候補かなんてわかりゃしないし、わかったとしても召喚場所がわからなきゃ意味がない。それにもし最初に旗を取れたとしてもそのあと10分は逃げなければならない。その間に奪い取れば勝てる。今動かなかったからって負ける確率が増大するわけでもないし。いまはこうして控えているのがちょうどいいんだよ。」
そう言いながらその場に座る聖人を見て真理子は驚いた。
「しかし、私たちはいまビルの屋上ですし、周りのビルはさらに高い上に間が開きすぎているので飛ぶのには無理があります。せめて下に降りるぐらいはした方がいいんじゃないでしょうか?」
真理子が言い終わるのと同時にアナウンスが流れた。
〚ゲーム開始から30秒まで5・4・3・2・1。旗、出現します。〛
そのアナウンスが終わると同時に聖人達のいる方から向かって右側から爆発音がなった。
すこし驚く真理子に対して顔色一つ変えなかった。すぐに右を向いたがそこには聖人達がいるビルよりさらに高い超高層ビルがそびえたっており、なにが起きたかを見る事は出来なかった。
邪魔なビルを忌々しそうに見つめながら。聖人は言った。
「降りる必要はないさ。向かって右側なら将也か恵ちゃんがいるんだろ?」
「はい。発信機の場所は変わっていないので。」
真理子がタブレットを確認し頷いたのを見ると聖人も頷き返し言った。
「僕はそれが将也だと思うんだ。同じように表示されている2つの青い丸でも僕たちの近くにあるのは将也の力強さを、離れているのからは恵ちゃんの可憐さを醸し出している気がする。」
「完全に『気がする』だけですね。根拠はないんですよ。」
「でも僕にはわかるんだ。なんとなくだけど。・・・あの頃、秘密基地に行く途中に雑草を叩き切っていた将也が、あの時のように目的地に行くための道を作ってくれるはずだって。」
聖人がそう言うと、突然大きな音と衝撃波が辺りに迸り、右側に壁のように立っていた超高層ビルが大きな音を立て崩れ始めた。
ポカンと小さな口を開ける真理子に向かって聖人は言った。
「ほらね、やっぱり将也は・・・すごい。俺たちに道を作ってくれる。」
完全に崩壊はせず、ビルの残骸は聖人達のいるビルより数メートル下ぐらいの高さになり止まった。
いままで見えなかったものが見えるようになり、確認すると爆発音がした場所と思われる場所から煙が上がっていた。
「聖人さん!あれっ!」
真理子がある一点を指差すと聖人をそっちに向かって目を凝らした。すると、小さな光が空中で右に行ったり上に飛んだり、不規則に動いているのが見えた。
「恐らくあれが旗です。周りに人影が見えます。既に旗はどれかのチームに渡り、奪い合いが開始しているようです。」
真理子がそう言うと、突然ビルの下の方から叫ぶような声がした。
「聖人!いるんだろ!道は作った。先に行っているぞ!!」
その声に反応した聖人は先ほど崩壊したビルを見た。
いまいるビルより低くなり数メートル下がった元超高層ビル。距離はあるが飛んで届かない距離ではない。その先にあるビルもそこそこの高さでなんとか移動できそうだ。
旗と思われる光は空中を移動していた。恐らくビルの上を飛び移りながら逃げているのだろう。なら、やはり一回したに降りるよりもこのままビルの上を飛び移っていった方がいいはずだ。
「いまの声で確信できたね、真理ちゃん。やっぱり将也だったよ。」
「そうみたいですね。それより早く行かないと・・・・。」
そう言いながら車椅子に乗ったまま移動しようとする真理子を聖人が止めた。
「おっと。真理ちゃんはここにいなって。車椅子じゃいろいろ不便だろうし。・・・・それに知恵の神の候補なら体は使わずに頭脳で勝負しなくちゃ。」
「しかし・・・・・。別に私は足が悪いわけじゃ・・・。」
言葉を続けようとする真理子の口を塞ぎ「いいっていいって。大丈夫。」と言うと聖人は、ビルを飛び移る準備に入った。
真理子はついていくのを諦めたようで、車椅子に付いている袋を漁るとインカムのような機械を取り出して聖人に差し出した。
「聖人さん。これを持っていってください。通信機です。なにかあったら報告しあいましょう。」
それを受け取った聖人は早速付けて見せ、具合を確かめた。
「ありがとね。」
「いいえ。今回はサポートに回らせていただきます。よろしくお願いします。」
「こちらこそ!」
聖人は最後にそう言うと勢いよく走りだし隣のビルに飛び移る為にジャンプをし、姿は見えなくなった。
この回でようやく声だけの出演を果たした将也君。実は今作の主人公となるはずでした。主人公落ちの最終判断は「出てくるタイミング」ですね。しかし、彼も主人公格の一人であることは理解しておいて頂きたい。
この話にかんする細かい話はナレーションや回想などで説明していきたいと思っています。