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―12―

 九月末には衣替えの移行期間となり、この時期になると生徒会の忙しさは今まで以上のものとなった。これまでも充分過ぎる程に忙しかった筈なのだが、次から次へとよくもこう仕事があるものだという感心すら覚える程に忙しい。


 最近は皆を帰した後に久遠寺が一人で残って仕事をしている、という状況もたまに出てくるようになった。勿論、帰る段階で皆はそれに気付かない。翌日になって、仕事の進行具合を改めて確かめた時に初めて気付くのだ。


 何故、帰る段階で気付かないかと言うと、久遠寺は毎日車の送迎があるからだ。その為、この間のファーストフード店のように何処かへ寄り道するという事が無い限り、彼女は大抵他の生徒会役員よりも遅めに退室する。だから、久遠寺が一人で生徒会室に残っていても、誰も特に疑問を抱かないのだ。


「迎えの車が遅くなりそうだったのでな。少しだけ進めておいた」


 そんな事をさらりと言うが、後付けの理由だというのはすぐに分かる。


 そしてこの頃には、久遠寺は物事を一人で背負いこむ癖がある、という事に俺も気付いていた。

 久遠寺は別に他の役員を信用していない訳じゃない。寧ろ、メンバーの腕を信用しているからこそ生徒会に引き入れている。だが、忙しさから彼らの体調や精神が参ってしまわないようにという気遣いからか、彼女が仕事を一人で片付けようとするというパターンは確かに存在していた。久遠寺の場合、実際に自分一人で仕事をこなせるだけの力があるのが、逆に困りものなのかも知れない。



「じゃあ、スタンプラリーの設置場所はこれで決まりだな。よし、今日はこれで終わりにしよう。皆、お疲れ様」


 学園祭で生徒会主催のスタンプラリーをやる事になり、その設置場所や方法についての話し合いは長く続いていた。その日、キリの良い所まで業務を終えて下校する事になったのは、最終下校時刻を一時間もオーバーした頃だった。


「砺波、帰るでー」


 帰り支度を済ませた朝霞に声をかけられる。六条と吉国も鞄を手に取り、今すぐにでも帰れる状態のようだ。


「あ、俺ちょっとゴミ出して帰るから、先に帰ってくれ」

「ゴミ? 今からか?」

「ああ。明日の朝、回収が来るだろ。今やっとけば明日持ってって貰えるから」


 何だかんだで俺もすっかり雑用係に慣れてしまったな、と思う。

 朝霞は「そうか」と短く言うと、今度は久遠寺の方に向き直った。ピシ、と久遠寺を指差して目を細める。


「さっちゃん、今日はちゃんと早よ帰りぃや?」

「分かってる。大丈夫だ、もう今日の分は終わってるからな」


 久遠寺が一人で残って仕事をしていた事について、朝霞はあまりいい印象を持っていないらしかった。それは他の二人も同じようで、同様に早く帰るようにと念を押している。


「ほんじゃあなー」

「お疲れ様です。また明日」

「……お先に」


 それぞれ別れの挨拶を告げて三人は先に退室していく。俺も室内のゴミを一ヶ所に纏めてゴミ箱を手に取ると、久遠寺を一人残して生徒会室を出ていった。




 ひと気のない夜の校舎の階段を、ゴミ箱を片手に下りていく。最終下校時刻を過ぎているだけあって、廊下の電気は消えている所が殆どだ。生徒会室の手前は俺たちがまだ居たからか煌々と明かりが灯っていたが、ワンフロア下に降りるとそこには漆黒の闇が広がっていた。


「やっぱ夜の学校ってちょっと不気味だな。さっさと捨ててこよ……」


 階段の最後は一段飛ばしで着地し、校舎裏のゴミ捨て場に向かう。


 榊学園のゴミ処理については、各教室のゴミはゴミ捨て場のポリバケツの中に入れ、最終的にそのポリバケツの中身を収集して貰う、という流れだ。ポリバケツの中にはゴミ袋がセットされており、口の部分で結べばいいだけになっている。


 ゴミ捨て場に着くと、暗がりの中、ポリバケツの手前に積まれたダンボールがあった。もう少し奥に置いてくれればいいものを、こんな手前に置いてあってはゴミを入れるのに邪魔なだけだ。

 いっそゴミ箱の中身をこのダンボールの中に入れてしまおうか、と考え、ダンボールの蓋を開くと、そこには重ねられたプリントが入っていた。


「……あれ?」


 外灯に照らされ、俺自身の頭が影を作ってダンボールの中に落とす。その中は暗くて良く見えない。


 だけど、まさか、これは。


 俺は携帯を取り出すと、カメラ機能を作動させてフラッシュを点灯させた。懐中電灯代わりのそれをダンボールの中のプリントに向かって照らしつける。

 そこには。


「おいおい、マジかよ……」




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