序章
「一年B組、砺波凌、か」
亜麻色の長い髪を靡かせて、彼女は床から腰を上げられない俺を値踏みするように見下ろした。
取り上げられた生徒手帳の中身と俺を交互に見つめていた蒼い瞳が、より一層その色を増して冷え込んだように思えた。絶対零度の視線というのはこういう眼差しの事を言うのだろうか。
「あの……?」
「それじゃあ砺波」
「は、はいッ!」
緊張のあまり、返事をする声が裏返ってしまった。彼女の表情は一切変わらぬまま、まるで死刑宣告のようにその言葉が紡がれる。
「今日から無期限で、高等部生徒会執行部の雑用係を命じる」
「え? ざ、雑用?」
「何だ、お前雑用の意味も分からないのか?」
「いや、それは流石に分かる、けど……」
「部活動に入っているかどうかは知らないが、やっていたとしても生徒会の方が優先だ。授業が終わったら速攻でここへ来るように」
生徒手帳がそっと俺の元に戻された。
戻された、と言っても正確には座り込んでいる俺の前にポンと置かれただけだ。無数の書類が散らばる中に膝をつく俺の、その前に。
「――以上。榊学園高等部生徒会長、久遠寺咲良、直々の命令だ。言っておくが、お前に拒否権は無い」
久遠寺咲良の名前を知らない者は、この榊学園には存在しない。
――らしい。