僕は俺を殺した
吹き抜ける風、荒れ狂う海。俺はその海の果て、ただ延々と繋がる地平線を眺めていた。
背後から漂ってくる腐臭にも似た焼土の臭いが鼻孔を灼く。
本当は分かっていた。この町が狙われていることくらい、それくらい子供の俺でも分かっていた。けれど大人達はそれを知りながら抗おうとはしなかった、ただ王の命ずるままに、と。
俺には分からなかった。どうして王は軍を送ってはくれなかったのだろうか、そうすれば町の被害はもっと抑えられた筈だ。
何故、どうして。俺の思考は深い闇を探るように何も掴めない。
俺は生まれ育った町を背に海に吼えた。
オオオと自分の声が耳を劈く。それが誰の声なのか、もうよく分からなくなった。
ああ、日が沈む。けれど背中からは太陽の様な温もりが伝わってくる。
叫んでいるのは誰だろうか。もうそんな事はどうでもよかった。叫び声が止んだ時、俺は思った。もうこの国は腐っている。こんな国は滅ぼしてしまわないといけない。だから俺は僕になった。勢いだけじゃ駄目だと思ったから、賢こいことを装った。
僕は俺を殺した。
そして僕は僕の道を歩むことにした。
二度と後には引けない、茨の道を、どこまでも。