「ママの方が可愛いから婚約破棄ね」と本名アホに王都追放された私。 行き着いた神一家の長男に一目惚れされ幸せになりました。 名前の通りあんたはザマァされてください。
「ママの方が可愛いし、お前はブスだから婚約破棄ね!」
王都の夜会。
きらびやかなシャンデリアの下で、婚約者だった男は大まじめな顔でそう言い放った。
——ザマァサレール=アホ
このバカみたいな名前……それが目の前の男の本名だ。
「僕ちゃんのママが世界で一番可愛いからね! 早く署名してさっさと帰って。」
……おい。
実名どおりアホであることに違わず、見事なアホっぷりだった。
周囲の貴族たちも突然の暴論にドン引きしていた。
「よく言ったわ。私のザマァちゃん。あんな女に嫁がせたのが間違いだったのよ。」
そう言うのは、マザコンが私より愛するゴミアツカイ=アホ。なんてひどい名前、名付け親の顔を見てみたいわ。
そう、私の名前はエリーヌ=ラザーニ。このアホとは違って、まともな姓をゲットした……。
——これが当たり前か。
「わかりました。婚約破棄、喜んでお受けします。」
私は、ドレスをたくし上げてさっさと署名を済ませ、夜会を去った。
軽く、このバカたちの過ちを話しておこう。
私の住む国——スペイントは、常任理事国の一つで、世界有数の魔法国家なのだが……。
何を隠そう、このザマァサレールは魔法の才能がゼロに等しかった。
努力すればいいだけなのに——
「お嬢さん、どちらまで?」
「隣国まで。」
私は馬車に久しぶりに乗り込む。
さてさて、話を続けよう。そのアホは、まったく努力の「ド」の字もせず……
魔法の発動。
アホの動きに合わせて緻密に操作。
ぜ〜んぶ私になすりつけて、国の力を見せつけていた。
——これは、僕ちゃんの魔力! すごいだろ!
だってさ。全部私の力だけどね。
「ウフフ。私を追い出したことを永遠に後悔させてあげる。」
私は夜風に消えるように小さく言って、そのまま眠ることにした。
——翌日。
「おらぁ! 有り金を出せ!」
私は外の騒がしい声に目を覚ます。
山賊かぁ……山賊!?
あぁ……なんで運が悪い、隣国にはめっちゃ美味しいリンゴのクレープがあるのよ?
ここはさっさと払って退いてもらった方が……。
「おや、何をしているんですか?」
山賊の後ろからサラッとしたハンサムな男が現れる。
アホの何億倍もハンサムなんだけど?
いや、アホと比べるのは可哀想か。
「見たらわかるだろ? 金を要求してんの!」
「そうですか。」
——ヒュ!
え? え? 山賊が一人消えた!?
「どうなってんだ!? 一人消えたぞ?」
「野蛮なんで牢にぶち込みました。帰らないとあなたも仲良くぶち込みますよ?」
いや、笑顔で言うことじゃないって、転移魔法ってちょっと詠唱が必要なはずだよ?
なんで無詠唱で普通にやってるの?
「ウルセェ! お前っ、イケメンすぎて精神すり減るんだよぉおおお!」
山賊はサバイバルナイフをイケメンに振りかざした。
私は反射的に目をつむる
——だって血、怖いもん。
——ドッ!
鈍い音が真正面から聞こえたけど平気かな。
私は恐る恐る目を開ける。
そこには、白目を剥いて気絶している山賊と、右手の甲がほんの少し切れてしまったイケメンが凛として立っていた。
ザマァサレールとは天と地の差だ。このかっこよさはゼロだったよなぁ。
「大丈夫ですか? お嬢さん。」
手! 手!し、自然とエスコート!? 何、この人!? こんな素敵な人いるんだ。
私は人生初めてのエスコートを受け取り、初めて胸の奥がキュッと締まった。
「情けないことにちょっと怪我しちゃいましたが、馬車とあなたが無事でよかったです。」
イケメンはちょっと痛そうに立ち上がり、その場を去ろうとする。
「ま、待って!」
緊張で声が掠れちゃった、聞こえているかな?
どうやら私の願いは通じたようで少し進んで止まる。
「その手、手当てしないと……。」
「あぁそれならいいです。一人で……。」
「わ、私に手当させてください。」
はい。終わった。絶対“なんだこいつ?”つてなってますよね〜?絶対イケメン目当てだと思われるよね〜
——ちょっと否定はできないけど
「ありがとうございます。いやぁ素敵な女性に手当してもらえるなんて私は幸せだなぁ。」
「あ、ありがとうございます。」
やばいよ〜この人平気で女の子が喜ぶこと言ってくるじゃん。あいつなんて“お前は僕ちゃんに従ってればいい。”とか言ってたよ?
「ハンカチしかないですけど……。」
私は手際よくハンカチを巻く。
こう言うのは得意だしね。ちょっと待って?めっちゃ香水の匂いする! やべ、余計疑われ——
「素敵な香水ですね。これは、ヴァルチーナでしょうか?」
うん。見事……じゃない!?この香水貴族の周りでしか出回ってないはず、え? この人……?
「そうだ、この機会だし、お名前を……私はチャールズ=ウィーンランド。イギリス帝国ウィーンランド領の次期当主と一応言われてます。」
チャールズさんは私に丁寧にお辞儀する。
……じゃなくて、ウィーンランド!?あ、あの!?
ウィーンランド家はイギリス帝国の中でも政府にならぶ権力を持つ一家。
アホ家よりも財産、カリスマ性が圧倒的に上でアホがいっつも憎んでいたあの?
「わ、私は、アホ——」
いや違う。こんなクソみたいな姓は名乗る必要はない。
「私はエリーヌ。ちょっと色々あってイギリス帝国まで行こうかなって思ってたの。」
「そうですか。宿とかは取ってるのですか?」
宿……宿!やべ、追放の支度全くしてなかったテヘペロ☆じゃなくて、あ〜ぁ絶対予約埋まってるよこれ……。
「いいえ……。」
「そんな寂しい顔しないで?私の家に泊めてあげますから。魔法陣に乗ってください。」
「ふぇ!?」
ふぇって言っちゃった。恥ずかしい……。
泊めてもらうまでのステップハショリすぎ……古文書で見た“ドパガキ”にそっくり。
いや……私、チャールズさんにドパガキなんて失礼な……。
「ほら。」
チャールズさんはそっと手を取って魔法陣に連れ込む。
私の体温が上がるのを感じる。
「遠慮せずに手を取って。」
チャールズさんは太陽のような爆裂スマイルを私に向ける。
うん。無理☆これでついて行かない女の人いる?
私はチャールズさんに甘えて手を取り、お姫様抱っこされて魔法陣に入った。
次に目を開けると豪邸が目の前にどーんと鎮座していた。
す、凄い。アホの屋敷なんてどんな形かも覚えてないや。
まぁ脳のメモリーの無駄消費だから関係ないか。
「さぁ上がって。母上今戻りました。」
チャールズさんは大きな扉を開けて中に入る。
私は一応一礼して入る。
「ただいま、おにい!って……え!?」
チャールズさんの妹らしき女性が私が入ってきたことに驚いている。
あれ?意外と女性経験ないのかな?
「あわわわ!!!た、大変だぁぁあああ!!!おにいが女の人連れてる!?結婚?結婚?」
――ゴン
「いたぁああ!!!」
妹さんは慌てふためてタンスに小指をぶつけクルクル回る。
妹さんの可愛い姿に思わずクスッと笑う。
「あ、あ、あ、自己紹介。私はイーダ=ウィーンランド。チャールズの妹だよ!」
イーダさんはくるっと一回転し、スカートをひらひらとなびかせた。
「じゃあ!おっ母に会わないとね!あと兄弟も!」
イーダさんはずっと元気だ。
私にもその元気分けてほしいなぁ……。最近は揚げ物を食べると胃が……。
いかん、私はまだ若い。若い。若いんだ。
「おかえりなさいませ……ってえ!?」
チャールズさんより少し背の低い弟さんが、こちらを見て固まった。
髪は筆のように一直線に伸びている。
そして、コーヒーに入れようとしていた角砂糖を——
一個。二個。三個……。
「……十個?」
驚きで全部、床に落とした。
10個ってなに!? 多すぎでしょ??
「わ、私は決して変人ではない。髪の毛で習字をしたり、実は砂糖じゃなくて塩の塊をコーヒーに入れてるが変人じゃない。」
――変人すぎる。
絶対ギャグマンガだとネタキャラだよ?スペックが高すぎるよ?いろいろと。
あと飲み込み早くない?もうさと……塩入コーヒーを冷静に飲んでるし。
「私は、へンジ=ウィーンランド。筋トレが好きな変人ではないぞ。」
”変人ではない”ことどんだけ強調するの?もうそういうことにしておくか?
「ヘンジ。あまり私の大切な女性にこってり要素をもってこないでくれないか?」
チャールズさんは呆れたようにいって握手を交わした。
兄弟の仲はいいんだな……。
――癖は半端ないけど。
「さて、お母様に挨拶しないと。」
私はお姫様抱っこされたまま二階に上がる。
ちょっと恥ずかしいけど悪い気はしないなぁ。
私は踊り場にあった鏡で顔を見る。
そこには、頬を真っ赤にして、目が宝石のように潤んでいる私の顔……。
悪い、自分でも思う。可愛すぎだろ?過去一?過去一こんな顔見たことない。
「お母様。ただいま戻りました。」
チャールズさんは扉越しにお母様に話しかける。
「おかえりチャールズ。なに?そんなにかしこまっちゃって?また大怪我して申し訳なく思ってるの?まぁいいから早く入って。」
——ガチャ
チャールズさんがよいしょと私を持ち直して開ける
私重かったかな?心当たりは大有り……。
——甘いもの制限しまーす。
「……っ!?」
お母様は目を丸くしてフリーズする。
「お母様。今日はこの人を泊めて……。」
——ゴフ
お母様は急に泡を吹いて床に倒れた……ってえぇええええ!!!
私はスタッと降りてお母様を仰向けにしてゆする。
「大丈夫ですか!?」
「……あ……ここは……家。ありがとう……。あなただれ?」
お母様は寝起きのような目で私を見つめる。
「私はエリーヌ。えっとチャールズさんが泊めていただけると……。」
「え゛?女の子?」
——ゴフ
またお母様は泡を吹いて気絶した。
この人大丈夫かな?
チャールズさんは慣れた手つきで立たせ頬をバシバシ叩いて意識を呼び戻す。
——なんで失神に慣れてるのよ……。
「ハァ……ハァ。も、もう大丈夫……よ。で、どう言う関係?」
いやいや。大丈夫な顔してないよ?むしろヤバそうだよ?
「それは……お嫁さんですかね?」
うんうん。お嫁さん、お嫁……え?今サラッとなんて言った?
お嫁さん!?婚約!?ちょっと待てぇええ!
次に目を覚ますとチャールズさんの膝で……え?
膝枕!?
「あ、起きました、すみませんね。エリーヌさん、突然のことで気絶しちゃいましたか。お母様も同時に失神したので運ぶの大変でしたよ?」
——ガチで心臓止まるかと思ったよ?
――ガチャ。
扉が開くとチャールズさんがそのまま年を取ったような男性が入ってくる。
「私は絶対認めないからな!婚約は!お前にお父さんという筋合いはないからな!!」
まぁ……ですよね。急に家に押し掛けた人が急に婚約者って頭おかしいよね……。
「お父様、知ってますよ?書斎でコソコソ私が婚約者を連れてきたときに言うように……。」
お父様はチャールズさんに耳打ちする……。
――けどなんか聞こえる
「おい。バレてたのかよ。恥ずいやんけ。泳がさないで……。」
「すみません……。ちょっと遊びたくなっちゃって。」
いやいや全部聞こえてるよ?めっちゃ可愛いじゃないですか。
「まぁ、バレてたなら仕方ない。」
お父様は咳払いをする。
「私の名前はクルーズ=ウィーンランド。ウィーンランド家の当主をしてる。あ、さっきのやつは本当にやりたかっただけだから本心じゃないよ。えっと?婚約だっけ?OK、OKいや逆にチャールズが結婚とかに全然興味なくてお見合いしまくってもいまいちとかいうしね――」
クルーズさんのありとあらゆる話は5時間くらい続いた……ごめんなさい。内容が全然入ってこない☆
「って少ししゃべりすぎたな。夕食にしよう。」
クルーズさんは杖を使って立ち上がって私たちの部屋を出た。
「そうでした……エリーヌさんの部屋はここです。」
「あ、あの……。」
私は顔を真っ赤にしてチャールズさんに話しかける。
「エリーヌさんじゃなくて……エリって呼んでください。家族からもそう呼ばれてて……。」
「わかりましたエリ。じゃあ私はチャールズで。」
「はい!チャールズ。」
二人は不自然さにクスクスと笑いあった。
チャールズさんの手をそっとつないで、私たちが晩餐室に入ると、ウィーンランド家の人たちから黄色い声が一斉に上がった。
恥ずかしい~。アホ家ではそんなことなかったんだけどなぁ~?
――アホ家って、貴族じゃなかったのか?
私がチャールズさんの向かいに座る。
え?料理エグ――思わず内心の言葉遣いまでちょっと汚くなってしまった……。
――やっぱり料理エグ!?
ポテトサラダに骨付き肉(私が食べられるかは不安だが)アホ家では、貴族の癖に料理をかなりケチってた……冷凍食品ってなによ?
それに比べたら、こっちは全部手作り……匂いが私の食欲にバイオテロをしている。
私抑えるのよ……幻滅されちゃう。
「さぁさぁ。たくさん食べてください。」
私がチラチラ周りを見ていると、ウィーンランド家の人たちは食らいついている。
本当においしそうに食べますね……。
「おねぇも食べて?」
イーダさんはつぶらな瞳を向け、自分の分のお肉を私の皿にのせる。
おねぇ……?キャア~まって尊死する。こんなの食べるしかない!
私はザマァに嫌というほど習った食べ方のマナーをフルに活用して丁寧に食べる。
「お、おいしい……。」
私はあまりの衝撃で一瞬思考が止まってしまった。
「そうでしたか。お口にあってよかったです。エリ。」
チャールズさんは優しく笑った。
――王都を出て、最初に出会ったのがこの人でよかった。
この人たちと、これからを生きていける、そう思えたことが……何よりも、幸せだった。
――スペイント国内、エリーヌを追放した翌日の夜。
――スペイント国内、エリーヌを追放した翌日の夜。
「ふん。あのブスが消えて、せいせいする。ブスにはな? シンデレラみたいにチャンスはねーんだよ」
ザマァサレールは、新しい婚約者とともに自由気ままな生活を送っていた。
もともとエリーヌを追放した理由は、「ママの方が可愛いし、お前はブスだから婚約破棄ね!」
という、あまりにもくだらないものだった。
――だが、本当の理由は別にある。
エリーヌに、税金の不正使用がバレたのだ。
それを隠ぺいするために、ザマァサレールは彼女を追放した。
「国は僕ちゃんとママのためにある!国民みたいなゴミは魔族にも土下座しとけばいいだろ。アーハハハハ!!!」
――コツコツ
「誰だ?」
「私は七冠π。あなたの国は私の支配下になるでしょう。」
は?何言ってんだ?七冠なんだそれ?なんか知らねぇが?僕ちゃんの国を渡すわけねぇ~だろ?はいさようなら。
「帰って?僕ちゃんはママと国民から巻き上げた税金でパチンコするから。」
「そうですか……π軍全軍出陣。」
πは無慈悲に言い放った。
は?出陣?ちょっと待って?え、これやばい?
「ちょ。ちょっと待って?今なんて言った?」
「?出陣ですよ?言葉の意味が分からないんですか?」
πはずっと落ち着いている。
――ザマァサレールは、ようやく理解した。これは、いつもの脅しではない。
「ママ!世界政府に神星護衛団を呼んで!!早く!!」
ゴミアツカイは慌てて魔道通話をつないだ。
「神星護衛団との全面戦争ですか……いいですね。あ、東部と西部の制圧が完了したようですね。仕事が早くて助かります。」
なんだ?おかしい魔族ってこんなに強かったけ?僕ちゃんには敵なし……兵士はなにサボってんだ!?
「ママ早くして!もう制圧されたよ!」
「ザマァ待って今……え?御宅の息子さんがかなり強力な魔法使いでしょ?だから神星護衛団を呼ぶほどではない?いやいや。」
し、しまった……国民の税金を搾り取るためにエリーヌの力を借りて強いふりをしてたんだった……。
属性魔法すらロクに練習してない……剣も、弓も……。
――ドタドタ
今度は何?敵の増援?
「ウフフ。いい光景が見えそう。」
πは隠蔽魔法を使って姿を消した。
「「「アホ様!!お助けください!!」」」
僕ちゃんの周りで土下座する国民たち……。
し、しまった……このケースのことを考えてなかった……。
「最強魔法―—世界破壊光線を撃って魔族との戦いを一瞬で終わらせてください……名前の通り魔族を”ザマァ”させてください。」
終わった。名前の通り魔族を”ザマァ”できるわけねぇだろ?雑魚だぞ……。
そうだ……。
「そこにいるんだろ?π」
「あら。見つかってしまったわ。」
僕ちゃんは剣を向ける……。
――そして剣を投げ捨て全力で土下座をする。
「僕ちゃんはこの通り魔法も、剣も、弓もさぼってきたチャランポラン―—雑魚です!今までのやつは……エリーヌの力です。だから、婚約者の……だれだっけ?まぁいっか……と国民全員の命を差し上げますので、僕ちゃんとママを配下にさせてください。」
「……。」
πは黙る。
――ドグシャ
ザマァサレールとゴミアツカイの周りの命が一瞬で消える。
「実に面白い。こんなに情けないやつが国を治めていたのか?」
π様が長い髪をかき上げておっしゃる。
「いいだろう。私の配下にしてやる。ついてこい。」
――一夜にして常任理事国が崩壊した事件は後世にも受け継がれる伝説となった。
——ウィーンランド領
「エリ。正式に結婚が決まったからもう、式の準備は出来てるよ?」
速くない?昨日来たばっかりだよ?
「ドレスを選びましょう。」
チャールズさん、広すぎます。
なんでドレスが何万着もあるんですか?そんなに着ないよ?
「エリには、黄色い菊のドレスが似合うかと……。」
可愛い〜♡このドレスチャールズさんはやっぱり人を見ているなぁ。
私は早速着てみる。
「似合ってますね。あなたのためにこのドレスがあるようだ。」
なんでチャールズさんは女の子が言われて嬉しいことをこんなにサラッと言えるんだろう?
アホも見習ってほしいね。
「ありがとう、チャールズ。」
うっ、この呼び方全然慣れなくて恥ずかしいよ〜。
「さて、まだ時間はあるし、外で紅茶でもどう?」
私はコクっと頷いてウィーンランド領が一望できるテラスに行く。
「今日は少し高級な紅茶にしました。エリ、お口に合わなかったら言ってね?」
「そ、そんな、すっごく美味しいです!」
「そう?ならよかった。」
チャールズさんは優しく微笑んで紅茶を飲む。
「チャールズ!大変だ……。」
クルーズさんが切羽詰まった声で言う。
——大丈夫かなぁ?
「政府からだ。イギリス帝国最大の貿易相手スペイントが魔族に滅ぼされた。」
「「……!?」」
「いつだ?」
「昨日の夜、国王が国民全員の命を差し出して自分とその母が魔族の下についたらしい——」
私は、クルーズさんの話が頭に入らなかった。
あの男が国民の税金を自分に使ったり、国民を財布としか思っていないのはわかってた。
——わかってたはずなのに!
あの男は私の祖国を、国民を……裏切ってのうのうと生きてる。
「——ヒッグ。」
私は、祖国を失った悲しみ、あの男への怒り、そして憎しみ全てが結晶となってこぼれ落ちる。
「エリ!」
チャールズさんは私をギュッと抱きしめる。
「あなたが名乗ろうとした時“アホ”の言いかけてやめたこと気づいてました。」
ば、バレてたのぉ……。
「あの男は、こんな宝を自ら投げ出し自分の利害しか考えない男……。」
チャールズはそのまま私の頬に唇を合わせた。
初キスがこんな寂しいなんて……。
「そんな男は忘れて、私と幸せになろう。私は二度とエリにそんな思いをさせないよ。」
私はチャールズさんの優しさに甘えて胸の中で泣き続けた。
「……この世界には綺麗な人間だけでいい。」
チャールズさんが何か言ったようだけど私には関係ないことだろう。
きっとそうだ。
私は胸のものを全て出して少し気が楽になる。
「ありがとうございます。すいません。こんな見苦しい姿を……。」
「いえ。あなたを泣かせた男が悪いのです。丁度いい時間ですね。挙式に行きましょう。」
私はまたチャールズさんにお姫様抱っこをされて挙式場に行った。
大聖堂の大きな扉が開くと、そこにはウィーンランド家のみんなの笑顔が広がっていた。
「おにい!おねぇ!おめでとー!」
イーダさんは花びらをいっぱい散らす。
ヘンジさんは……特技の頭習字を披露している。
——字綺麗なんかい!
お母様とお父様も、どこか誇らしげに私たちを見守ってくれていた。
誓いの言葉を交わし、チャールズさんが私のベールをそっと上げる。
「エリ。君を世界で一番幸せにすると誓うよ」
「……はい! チャールズさん!」
あ、思わず心の中の呼び方が出ちゃった。
でもチャールズさんは嬉しそうに目を細めて、今度は温かな、優しいキスを私に贈ってくれた。
——私を追い出し、国と国民を捨てて魔族に命乞いをしたあのアホ。
彼がこれからどんな惨めな末路を辿ろうと、もう私には関係ない。
必ず魔族に落ちたあの男は誰かに討たれる。
人の命を蔑んだ奴が正しい世界なんてあり得ないもの。
——それに私には私を心から愛してくれる、世界一かっこいい旦那様と、最高の家族がいるのだから。
「ふふっ……」
「どうしたの、エリ?」
「ううん。なんだか『ザマァ』な展開になっちゃったなって思って」
「『ザマァ』?」
「うん!――『ママの方が可愛いから婚約破棄ね』と本名アホに王都追放された私。行き着いた神一家の長男に一目惚れされ幸せになりました。名前の通り、あんたはザマァされてください」
――あの日、私は一つの国を失った。
けれど同時に。
私の人生で、何よりも大切な人たちを手に入れた。
だから私は、後悔しない。
この人たちと生きていく。
――それが、私の新しい人生の始まりだった。
(完)
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