「なるほど? これね、魔道具」
こんな聖女もいるかもしれない…?
「ふんふんふん、なるほど? これね、魔道具」
聖女を呼び出した面々は、あんぐりと開けた口を悲鳴に変えた。
このユースリーム国は、だんだんと濃くなる瘴気に、そしてそれより生まれ出る魔物の存在に悩んでいた。
そして彼らはその伝承に助けを求めることに。
満を持して。
そして少しの下心で。
聖女の召喚を。
この国に伝わる秘術だ。異世界より「聖女」なる存在を呼び出し、瘴気を払ってもらうのだ。
反対意見ももちろんあった。
自分たちの問題を、他所の、しかも異世界の人間に任せるつもりか、と。
とくに王太子の婚約者の公爵令嬢から。
彼女は王太子が瘴気や魔物退治以外の理由で聖女を呼ぼうとしていると見抜いていた。
数百年もの昔。かつて同じように聖女を呼んだことがあった。それが今にも伝承となり残っている。
その聖女は多彩な知識をもち。そして何よりも平民や誰にでも分け隔てない態度な優しい――美少女、であったらしい。
美少女。
これ大事。
大事だがそれを目的にしてしまうのはいけない。
「……お待ちください」
コルンターク公爵令嬢アレクサンドラは何度目かの静止の声をあげた。
「それは……それは、誘拐でございます」
後に聖女が「まともな人もいたのに」とつぶやいたほどに。
アレクサンドラはカイロス王太子の婚約者だった。
幼い頃より決められたその関係。
そう、彼女は幼い頃からカイロスに振り回され、彼の尻拭いをして生きてきた。
祖母が降嫁してきた王女でもあり、王家の血を引く彼女の身分は決して低くない。だが婚約者であり王太子であるカイロスに蔑ろにされる彼女をいつしか周りは嘲るようになった。
「お兄様に振り向いてもらえないからって必死になって」
きゃははと声高く笑うのは王女ヘルミオネ。
彼女は王女である己より民たちに人気のあるアレクサンドラを嫌っていた。
カイロスがアレクサンドラを嫌うのは、妹からもあれこれ言われているのもあるかもしれない。
曰く、己より優秀な婚約者だから――……。
カイロスは銀の髪に紫色の瞳をした美しいアレクサンドラを心底からは嫌ってはいなかった。むしろ惚れていた。
ただ、己より優秀だと言われて調子に乗っているのを懲らしめてやろうと思っていた。
聖女召喚という偉業をもって
伝承にもある黒い美少女も気になる。
それを……。
「考えてください。聖女にも住まう世界があります。家族や友も、もしかしたら好いた相手をも。それを勝手にこちらの都合で呼んで、瘴気のかたをつけよと押しつけるのは……」
嫉妬からの言葉でなく。
そんな正論を。
正面から叩きつけてくる。まるで言葉で殴るように。
その真摯な言葉が届かないのは相手に受け止める度量がないためだ。決してアレクサンドラが悪いわけではない。
カイロスは逆にむきになって――召喚を実行した。
アレクサンドラの言う、聖女の都合など考えずに。
もしも現れたら――本当に美少女ならば自分の側に置き愛でてやろう。アレクサンドラも嫉妬するならばたまに可愛がってやる。
両手に銀と黒の美少女を抱くことをカイロスは夢にまでみて――。
そして輝く魔法陣の中に――黒髪に黒い瞳の美少女が現れた。
伝承の通りに。
そして伝承では、彼女は素晴らしい知識をももたらしてくれる――と。
「ふんふん、なるほど……この世界も瘴気が大変なんですねー」
高杉未知瑠と名乗った彼女は、すぐに状況を察してくれた。
そして。
「え、瘴気だけ? 魔物だけ? え、魔王は? その前の四天王とかその配下の五人衆とか三人衆とかはいないの?」
と。
「ええ……その程度で聖女召喚したのぉ……」
と。
「他力本願すぎない?」
と。
説明を受けてだんだんと目つきが。
顎をあげてこちらを「やばくね? 情けなくね?」と見下ろす――蔑むように。
美少女にそんな態度をとられて。
今まで見下ろされたことがないカイロスをはじめとした王族はあんぐりと口を開けてしまった。
あまりの怒りに言葉がでなかったのだ。
「こ、この無礼者が――」
「ふんふんふん、なるほど? これね、魔道具」
カイロスがようやく怒りに至り顔を赤くして叫びかけたときだった。
「ここに、王子様とお姫様とそこのおっさんと……あ、そこの坊っちゃんたちとお嬢さんたちとおじさんも、はい、しまっちゃいましょうね~」
「……は?」
そしてカイロスとヘルミオネ、そして玉座でふんぞり返りながら同じように叫びかけた二人の父親の王。
そして彼の腰巾着で聖女の召喚を止めなかった宰相と。
他に王太子や王女の取り巻きの何人か。
聖女は瞬時に見抜いたのだろう。
怒りをあらわそうとした人間ばかりを――その魔道具は。
まさに、しまっちゃった――吸い込んだ。
静寂に包まれる広間で、聖女は「良い仕事した」とばかりに良い笑顔。その魔道具だというペンダントを手に持って。
「あ、あの……聖女、さま? いったい何を……?」
この場に以前から息子たちのことで頭を悩ませているあまりに療養中の王妃がいないことから。宰相もいないでは一番身分高いのは公爵令嬢であり王太子の婚約者であったアレクサンドラであったから。
彼女が質問した。まわりと目配せしあって「どうぞどうぞ」と彼女に押しつけられたともいう。
そして聖女は彼女の質問にあっさりて答えてくれた。
「いやだから、人質。あ、バッテリー?」
人質。
まさに。
一瞬で王族とその取り巻きが吸い込まれた。
「うん、私がケガするたびこの人らの生命エネルギー使って回復するから」
バッテリーとはそういう代物であるらしい。
そして彼らは理解した。
さらに聖女からの話をきいて。
「えー、あんたら勝手に私を誘拐してきて魔王倒せってんでしょお? 危険を押し付けるのって、誘拐犯が図々しいーくなあーい? ……あ、魔王いなかったっけ。その程度の世界だっけ?」
伝承でもあったではないか、聖女はこの世界にはない知識ももたらしてくれると。
彼女のいた世界は高度な文明にあふれていた。
海の氷すら割って進む鉄の船や、人を乗せ空を飛ぶ鉄の箱。しかも月にさえ届くと……。
その世界だけでなく。
「私。先に別の世界に呼び出されてるの」
高杉未知瑠。彼女は幼い頃より科学に魅了された少女であった。
そして半年ほど前に別の世界に聖女として、先に召喚されていた。
「科学者が聖女って……」
科学とは魔法のようだがと思いながら、その世界には本当に魔法が存在していたことに驚いて。
しかして呼び出された世界で。
魔王や魔族と戦う、大変な世界で。
彼女は正しく――聖女として。その世界で行動し始めていたところだった。
その世界にて彼女は魔法文明にも触れていた。その科学者らしくない――いや、とてつもなく科学者らしいかもだが――柔軟さで魔法も受け入れてしまった。
「そもそも魔法があるから呼び出されたのよね」
もともとの世界でも科学者として大成したであろう彼女は、その世界の文明や技術にもとても興味をもった。
科学と魔法、それを合わせたことで彼女はさらに発明をした。
それが彼女がこの世界にいた時に白衣のポケットに入れていたペンダントだ。
それの本来の使い方は――。
「では、聖女さまが呼び出されていた世界は、魔王なるさらに恐ろしい存在がいると……」
この世界をぬるいと彼女が思うのは仕方ない。
しかもその世界は限界なあまりに呼び出したのだ――その誘拐行為を。
そしてきちんと謝って頼んだのだ。
皆が頭を下げたのだ。
この大きな違いよ。
聖女が真っ先に人質を取るだなんて、己の身を守る行動をとったのは仕方がなかったのだ。
それでも聖女は瘴気を払う装置を作り出してくれた。
聖女とは優しい少女だという伝承も、やはり正しく。
国の要所や砦などに設置すれば、それであっさりと問題は解決した。
「維持ぐらいは頑張んなさいねー」
と。本当にあっさり。
こんな程度なら、と。
ならば聖女が呼び出された世界はどれほど大変なのか。
アレクサンドラだけならず、あの召喚の場に居合わせてすべてを見て聞いていた者たちは恐れと恥ずかしさで。
他力本願、まさに。
もっと頑張れば己たちでもなんとかできたのではないか。
聖女は、装置の材料はすべてこの世界にあったものを使われたくらいだったのだから。
「そうそう。だから勇者と聖女が呼び出されてね」
始めは誘拐だと、この世界と同じように勇者と一緒に騒いだのだけど。
けれども傷ついた人々を。
それでも自ら先頭に立って魔物と戦い民を鼓舞するその国の王子や、汚れるのも構わず人々の手当てや炊き出しをする王女や王子の婚約者たちをみたら。
自分たちの世界の問題なのに違う世界の勇者と聖女に頼るところまで来てしまったと――頭を下げる王様に。
「ほっとけなくなった」
幼馴染の勇者――霧島優輝と。
そして聖女は――未知瑠は、魔法も何も使えない自分が呼び出された理由を。
もとの世界ではマッドサイエンティストと呼ばれて幼馴染しか親しい人間がいなかった自分を、その世界は歓迎してくれたことに。
それにおそらく優輝は未知瑠の巻き添えだ。高校からの帰り道、地面が光ったときに「危ないみっちゃん!?」と叫んで駆け寄って抱きしめてくれて……ついてきちゃった。
それでも優しい幼馴染もこの世界を放っておけないと、未知瑠と同じように。
もともとその偏りがちな頭脳で虐められがちだった未知瑠を物理的に守るためにと、近くの道場に通って鍛えていたくらいの彼は。その世界にあった魔法のかかった武具でまさに勇者と讃えられるほど――戦い方が、どうにもタンク役だけど。仲良くなった王子と良いコンビだからもしかしたら召喚もそうあれかしであったのだろうけども。
だから未知瑠はペンダントを開発中で。
幼馴染――愛する優輝を守りたくて。
未知瑠が聖女というのを受け入れたのは、けっきょくは――愛。
マッドサイエンティストと呼ばれていても、彼女だって恋する乙女の一人だからだ。
巻き添えにしてしまった優輝を護るために、その頭脳を。
瘴気を払う装置などはその国でとっくに、先んじて製作してきていたのだった。
聖女とは異世界の知識を。
それはもしかしたらこの世界の伝承とおりかもしれないが――ちょっと弩級過ぎる知識持ち聖女だ。
それになにより。
戦いの最中でも、王女たちと恋バナ楽しい。もとの世界では得られなかったそういうところも、未知瑠が誘拐を許したのもあろうか。
もとの世界は彼女という頭脳を失った損失を、いつか緩やかに知るだろう。けれども見捨てられても仕方がない現時点だった。
ちなみに優輝も未知瑠のことを好いていた。幼馴染としてだけでなく。
でなければ「頭脳労働はみっちゃんに任せたから!」と鍛えようとしなかったであろうし。怪しい光の中に飛び込んで一緒に誘拐されるほどに。
彼は彼で。
「この世界の方がみっちゃんを大事にして必要としてくれるや……それなら戻らなくても良いかなぁ……」
と……。
なんとも似た幼馴染で恋人である。狂った人間の近くにいる人間がまともばかりなはずもなく。
「ふんふん……ふん、逆回り、ね……」
そうして未知瑠は、またあっさりと自分で帰還方法を見つけて。
彼女はアレクサンドラにこっそりと。
「あのね、これ試作品だから。あげるね」
試作品。
本来の使い方は民の皆から少しずつ力をわけてもらって、勇者や王子たちの戦闘中の回復が目的だった。
けれどもこの試作品は――失敗作。
少しずつもらうはずが、まるっと頂戴することになってしまった。
強すぎる魔道具って呪いの魔道具じゃん……。
やり過ぎたと優輝たちにバレる前に処分しようとポケットに入れていて。でもまあ未知瑠に甘い優輝は怒りはしなかったろうが。
「みっちゃんが皆に怒られたらかわいそう」
そんなくらいだっただろうが。
そろそろ勇者と聖女の扱いに慣れてきた王子の方が「おいいっ!?」と突っ込んだだろう。
……だから、あげるね。
ちょうど良い処分先ができて一石二鳥。
アレクサンドラにこっそりと。
装置の設置中に魔物とかに襲われて何人か消費したが、まだ王子や王女などは残っている。作り主の彼女にはわかる。その魔道具の中で泣き叫んでいることまで。
「残機、まだまだあるから。あ、使い方はオート……えーと、自動だから。残機なくなるまで」
残機。その言葉の意味をアレクサンドラは――察した。
この聖女のことだからきっと抜かりなく、入れたのならば本当は取り出すことだってできるのだと――その目に。
知識と好奇心と――そのためなら何でもという狂ったあまりに美しく輝く瞳に。
アレクサンドラはその狂気を、礼を言って受け入れた。これからはその狂気を手本にしなければ。
「これから大変でしょ?」
そうだ。聖女の言う通りこれからアレクサンドラは大変だ。
何せ彼女が女王に即位する。
王子が、王女が、ペンダントの中に入って出てこられないから。
王家の血を引く者たちの話し合いで、王太子の婚約者であったアレクサンドラこそ一番混乱少なく政務を回せるとなった。王太子の代わりに、すでにいくつもこなしていたのだから。
すなわち玉座に相応しい。
けれども夫と子らを無くした王妃や、他にも様々なしがらみがまだまだ彼女にのしかかるだろう。どうしてその気力を我が子らがまだいるときに発揮なされなかったのか。
きっとペンダントは役に立つ。
王妃はまさか残機を――自分で減らしたことになったといつか知るだろう。
だが、アレクサンドラの世は今はまだ始まったばかり。
聖女とはやはり救い主なのだ。
この国の問題であった瘴気より、さらにやっかいな奴らを一掃してくださったことを――彼女だけは理解を。
「聖女さまに恥じない世界にしなければ……」
誘拐など、二度と――。
「みっちゃんどこ行ってたの!? 心配してたんだからね! 置いてかないでっていつも言ってるでしょ!?」
「いやぁ、ごめんごめん」
頭二つ分は背が高い幼馴染にぎゅうぎゅう抱きしめられて。頭脳労働専門で鍛えてない自分の骨が軋むが、今日ばかりは愛の重さと甘んじるか。
三ヶ月ぶりの抱擁が心地良いだなんて、まさか。
背が高くて鍛えていて。しかも顔も良い優輝だ。未知瑠は自分が虐められていたのはこいつのせいもあるんだろうなと薄っすら察し。
まあ、もうこの世界なら関係ないかと、自分とてかなりの美少女だという自覚がない未知瑠だ。変人な自覚だけ。
「あなたを心配して、この三日間優輝が大変でした」
王子に言われてその差異の方が気になったほどに。
「ありゃ、時間ずれた。もとの時間に戻ってくるつもりが」
だから幼馴染がこの様子であるのか。
やはり今日ばかりは愛の重さと甘んじるしかない。
「……ただいま」
三ヶ月ほどでまた別の異世界を救ってきたとんでもない聖女は、改めてこの世界の――救いたい人たちがいる世界を――……。
呼び出す聖女が斜め上じゃないとは限らないわけで。こうした方向に斜め上に…。
理系に強い女の子て素敵ですよね!
魔法と科学が合わさったFFみたいな世界観です。
こういう正しい方向(?)に気が狂っている相思相愛カップルが好き。互いに得意分野で護り守られ。
皆の元気をちょっとずつな元気玉ペンダント…ができるはずが危ない方向に失敗に。マッドサイエンティスト聖女がやり過ぎたのでしたというお話。
本当にやり過ぎ人間電池や…。
ジャンル悩みつつ、行動が愛だからこちらで大丈夫かしら…愛も様々…。
ペンダントの中で消費されるまで生きているのでこうした表現に。でもアレクサンドラには出し方はわかりません。もちろん入れ方も。彼女が消費することがなければ、いつか、もしかしたら…この世界の魔法技術の発展によっては…です。




