おにぎり屋ふくふく|ミケのすきなもの
朝のふくふくは、いつもいいにおいです。
ふくさんが、おにぎりを握っています。
ふわり、ふわりと立ちのぼる湯気。
その横で――
「じー……」
ミケが見つめていました。
「ミケ、また見てるのかい?」
ふくさんが笑います。
「だって、タラコのタイミングがあるのよ」
ミケは真剣です。
まぐろがくすっと笑います。
「タイミングってなにさ」
「いい?タラコはね、ちょっとだけ火が通ったくらいが一番なの」
ミケはえらそうに言いました。
トラが首をかしげます。
「全部うまいよ?」
「それじゃだめなの!」
ミケはぴしっと言います。
シロはくすくす。
「ミケは、こだわり屋さんね」
そのとき、お客さんが来ました。
「すみません……元気が出るやつ、ありますか」
少しだけ、疲れた声でした。
ふくさんはやさしく言います。
「あるよ。今日はどんな元気がほしいんだい?」
「……ほっとするやつがいいです」
ふくさんは、うなずきました。
そして――
タラコのおにぎりを、ひとつ。
「これ、ミケのおすすめだよ」
ミケは、ぴんと背筋を伸ばします。
「まかせて」
そう言って、おにぎりをそっと差し出しました。
お客さんは、少し驚いた顔をして、
でもすぐに笑います。
「ありがとう」
ひとくち、ぱくり。
「……おいしい」
その声は、さっきより少しやわらかくなっていました。
ミケは、満足そうにしっぽを揺らします。
「でしょ?」
その日、ミケはずっとごきげんでした。
ふくさんは、そっとつぶやきます。
「すきなものって、不思議だねぇ」
ミケは言いました。
「すきなものは、ちゃんと元気になるの」
その日、たしかに元気がひとつ、増えました。




