訳ありお嬢様と洗練された立ち振る舞いですわ!
「は、はじめまして、本日は神楽坂家の御当主様直々にお出迎え頂き恐悦至極でございます。わたくし、伊津佳メイカと申します。横の者は私の……姉のような存在の宇狩レイナさんですわ」
「本日は付き添いの許可、ありがとうございます。よかったら、レイナとお呼びください」
「ふふっ、メイカさんにレイナさんですね。お二人も、私の事は小雪とお呼びください……でも、講習中は先生でもいいですよ?」
そう言って舌をちょこっと出す小雪さん。
(かかか可愛すぎですわ!?清楚なお嬢様の、はにかんだテヘペロ?破壊力強すぎですわ!?!?)
挨拶直前まで警戒心全開だった心が、彼女の仕草にメロメロになってしまう。
「それでは応接間へご案内します。お二人とも付いてきて下さいね」
「「は、はい(ですわ)」」
こうして小雪さんに案内され、私たちは屋敷の奥へと足を踏み入れました。
神楽坂家の邸宅は、門の外から見上げた時よりもずっと広大で、圧倒されるような威容を誇っていました。磨き抜かれた大理石の床、歴史を感じさせる重厚な調度品、そして高い天井からぶら下がるシャンデリア。まさに私が憧れる『理想のお嬢様生活』がそこにはありました。
だからこそ、他の気配を感じない現状の異常さが浮き彫りになります。
「あの、お聞きしてもいいでしょうか?」
「なにかしら?」
「先程から誰ともすれ違いませんが、使用人の方々はいらっしゃらないのでしょうか?」
我慢の限界に達した私は、とうとう疑問を小雪さんにぶつけてしまいます。
「……お気付きになられましたか? メイカさん達に言うのもお恥ずかしい限りなのですが、我が家は今、少々立て込んでおりまして。お見苦しいところをお見せしております」
私の視線に気づいたのか、小雪さんは寂しげに微笑みました。
その影のある表情に、私は反射的に『これぞ訳ありのお嬢様!』と魂の【お嬢様手帳】に力強くメモを書き込んでしまいました。
「こちらこそ、不躾な質問をしてしまい申し訳ございませんわ。これまでの所作から小雪さんは立派なお嬢様に間違いないですもの。使用人の多寡など関係ないですわよね」
「お気遣いありがとうございます」
そこで話は終わったんですが、それ以降テンポが狂ってしまい、少しぎこちない会話が応接室に到着するまで続きました。
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「さて、講習のお話も気になるかと思いますが、まずはティータイムを体験してみませんか?」
「ほ、本物の豪邸でのティータイム……ぜ、是非ともお願いしますわ」
「お気遣いありがとうございます。私も頂きます」
応接室に到着早々、チグハグになりかけた心を解きほぐすべく、ティータイムに誘われた私たち。喜んで受け入れたところ、小雪さんは自ら、慣れた手つきで紅茶を淹れてくださいました。
(はぁ〜。仕草のひとつひとつが洗練されて美しいですわ。……本来メイドさんがするお仕事の気もしますが、今はスルーしましょう)
本来ならあり得ない光景ですが、その所作は芸術品のように美しく、私はすっかり魅了されてしまいます。
それから小雪さんお手製のクッキーも頂きながら、今回【お嬢様講習】に参加した経緯などを冗談混じりで話していきます。
途中レイナさんの天然ボケも加わり、どこか影のある面持ちだった小雪さんのお顔が、すっかりと年相応(と言っても私より歳上ですが)の可愛らしさを覗かせるようになりました。
「ふふふ、お二人とも面白いですね。こんなに笑ったのは久しぶりかもしれません」
「小雪さんに楽しんで頂けたなら、赤裸々にお話しした甲斐がありましたわ」
「講習の生徒が、ヘンテコなお嬢様言葉を使うなんて小雪さんも驚いたでしょ」
「ま、まあ少し……」
「ひ、酷いですわ!?」
エレナさんの言葉に苦笑いをする小雪さん。
「では、そろそろ緊張も解れた事ですし、講習の説明と参りましょうか」
「は、はい。よろしくお願いしますわ」
まだまだ気がかりな点は多いですが、彼女の優雅な所作や清らかな人柄にすっかり魅せられた私は、せめて【お嬢様講習】の説明中だけは、お嬢様に憧れるただの女の子に徹しようと心に決めました。
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だからこそ気づかなかったのです。数名の無粋な輩が門扉をこじ開け、影のように迫っている事に……。
tips
【神楽坂家】
かつては鉄鋼業界で「上の下」と揶揄される中堅企業に過ぎなかった神楽坂家だが、百年前のダンジョン出現がその運命を劇変させた。
未曾有の混乱期、彼らは魔素と鉄を融合させる革新的な新技術を確立し、世界を席巻する魔導合金の供給源として君臨したのである。この技術革新を足掛かりに莫大な富を築き、ダンジョン名家のひとつとして数えられるようになった。
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