不自然な豪邸と神楽坂様ですわ!
「す〜は〜、す〜は〜。それでは押しますわ」
「が、頑張って、メイカちゃん!」
豪邸の厳つい門前に到着した私たちは、車から降りて深呼吸。そしてエレナさんの応援を背に受け、震える指でチャイムを押しました。
リンゴーン
「どちら様でしょうか?」
「わたくし、【お嬢様講習】の受講予定の伊都華メイカと申します。付き添いの者と車で来訪したのですが、どちらに停車すればよろしいでしょうか?」
「メイカ様ですね。お待ち申し上げておりました。お車での長旅、さぞお疲れでございましょう。門扉を開けさせていただきますので、向かって左側の道沿いに駐車場がございます。そのままお進み下さい」
その言葉の直後、全てを拒絶しているように見えた鋼鉄の門がズズっと左右に開く。エレナさんには先に進んでもらい、私は無事に入れた事を伝えました。
「お気遣いありがとうございます。無事に邸内に入れましたわ」
「かしこまりました。それではもてなしの準備をさせて頂きますね」
「はい。こちらも庭園を見学しながら向かいますね」
インターフォンの応答が終わり、門はゆっくりと閉まる。完全に閉まりきったのを確認した私は、車に乗り込み、ようやく一安心。緊張を外へ追い出すために、大きく息をはき出しました。
「……はぁ〜〜〜。なんとか第一関門突破ですわ……」
「お疲れ様、メイカちゃん。話す前のぷるぷるしてたのに、いざ本番になるとちゃんと話せるなんて、さすがはS級冒険者、本番に強いのね」
「揶揄わないでくださいまし……。正直ドラゴンとタイマンする方がよっぽどマシな心境でしたわ」
「それは多分メイカちゃんだけだよ……」
正直な気持ちを伝えたのに、呆れたような声色で呟いたエレナさん。
「少し気になったのですが、こんな大豪邸でもインターフォンがあるのですね」
「メイカちゃん、豪邸をなんだと思っているの?インターフォンがないと来客に気付けないじゃない」
「でも、これほど大きな豪邸の場合、フィクションの世界なら、門番というか守衛様が必ずいるものじゃないですか」
「そう考えると、確かに変ね。こんなの大豪邸にインターフォンが一つだけとか、泥棒に入ってくれって言ってる様なもんじゃない」
「ですわよね。それに……」
ゆっくりと変化する景色を見ながら、私はある事実に気がつきました。
(どう言う事ですの?人が少なすぎるというか、気配が2つしかありませんわ。大豪邸ですし、私でも探りきれないほど気配を断ち切れる手練れの執事も数人はいらっしゃるかもしれませんが、それでも少なすぎます。それに……)
「メイカちゃん、着いたわよ」
「あっ、もう着いたんですの?」
「結構ゆっくり走ってたんだけど、豪邸に夢中で気付かなかったかな?でも本番はこれからなんだし、お互いシャキッとしましょうね」
「そ、そうですわね」
私の懸念に全く気付いていないエレナさんは、これから相対する大物を恐れ、震える声で鼓舞しています。
(これ以上考えても無駄ですわね。こうなったら当たって砕けろ。お嬢様のために突き進みますわ!)
私はエレナさんの言葉に頷き、意を決して車を降りました。そして目の前にそびえ立つ玄関口へと歩いて行ったのですが、近づくほどにその威容を増していきます。様々なモチーフの彫刻が点在し、それら全てが私たちを威圧してきます。
(これが本当の豪邸のお庭!……でも、やはり変ですわ。どう考えても変ですわ!)
一瞬見惚れてしまいましたが、直後やはり異常だと気を取り直す。
私の知識(少女マンガ)が正しいのであれば、これほどの屋敷なら整列した使用人が出迎えてもおかしくないはずです。ですが私の感知に引っかかるのは、先ほどインターフォン越しに話した主らしき人物と、もう一人。私の想像が正しければ、その存在は……。
「……メイカちゃん、顔色が悪いよ?」
「いえ、なんでもありませんわ。少し、空気が澄み渡りすぎていて……」
「庶民の私たちには居るだけでHPが減ってくもの。気持ちはわかるわ」
「はは、そうですわね」
既に色々と限界を迎えている彼女を気遣い、異変を隠し相槌を打つ。
「あちらにいらっしゃるのが、出迎えの方なのでしょうか?」
「ですね。メイカちゃん、ここからは出来る限りお上品に行きましょう」
「わかりましたわ」
豪邸に対しての緊張で硬くなる体と、異常事態に困惑する頭。そんな最悪のコンディションだとしても、歩く限り状況は進み続ける。
やがて、お互いの顔がはっきり見えるところまで近付いた時、広大な屋敷の扉を背に一人の少女がにっこりと笑い、清流のせせらぎのような綺麗な声で語りかけてきました。
「お待ちしておりました。私は神楽坂家の現当主、神楽坂 小雪と申します」
白く透き通った肌の彼女はペコリとお辞儀をして、自己紹介をするのでした。
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