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―2― ピエロ


 ―――そよ風とはまた別の、髪が揺れる感覚で目覚める。


 「……………ん?……………なんだ、ここは?……………」


 目覚めが良いか悪いかならば、悪いだろう。


 前回と言っていいかは分からないが、丘の上で目覚めたときはとても心地よかった。

 しかし、今回は真反対の感覚だった。なんせ、水の動きが全身に触れている状態で目が覚めたのだ。

 上半身を起こすと分かる、後ろ髪から背中を伝って水が流れて行く感覚があった。どんなに透き通った水だとしても咄嗟に拒絶反応を起こすくらいには気持ち悪い。あぁ、気持ち悪くて仕方がない。


 濡れた髪を絞るために両手を頭の後ろまで持ってくる動作をした。しかし、左手が途中で止まり代わりに、そのままの意味で鎖が伸びきった音がした。視線を向けると、左肘から第二関節まで鉄の手枷のようなものが嵌められていた。これのせいで一定の距離までしか移動できないようになっているが、7人もいれば窮屈になってしまいそうなこの部屋では無意味になってしまっている。


 要は、この部屋から出ることが出来ないようにと、そんな理由で付けられていると考えるのが妥当であろう……………それならば、鍵が掛かっていない可能性がありそうだ。


 右手だけで髪に付いていた水を落とし、そのまま扉に向けて体を前に動かす……………ドアノブに手を掛け、回せることを確認したその瞬間、思い出してしまった。


 「ぁ……………あぁ……………」


 行動パターンが完全に一致したことでフラッシュバックを起こした。


 後悔した。気付けば、顔面に付いていた水滴が完全になくなってしまう程に時間が経っていた。その間指先と、唇と、瞳だけがずっと震えていた。


 ようやく血液や神経が再稼働し始め、恐怖が脳裏に焼き付き、身体が後ろへと倒れこんだ。


 「ぜぇ……………はぁ……………ぜぇ」


 浅く思うような深呼吸をする。トラウマを感じ取ったが、ドアノブ以外の事は何一つ思い出せなかった。ドアノブがこのトラウマの原因だとは考えにくい。


 「はぁ……………はぁ、あくまで……………トリガーだった……………訳か」


 息を切らしているにも拘わらず、考えが自然と言葉として漏れていた。だがそのおかげか、少し落ち着くことが出来た。



 「仮に、〈トラウマ部屋〉と名付けよう。このトラウマ部屋を何らかの手段、恐らくは扉を出た瞬間に記憶操作なるものをさせられてここに来る仕掛けになっているようだ」


 不確定要素からの推測ではあるが、それでも俺を自己納得させるような推測ならば今はいい。出なければ、自身を保つことが出来ないと強く感じていた。


 「同じようにドアノブに触れると再来するかもしれない。ここは大人しく誰かが来るのを待つしかないようだな」


 扉の前にある石の足場に座り込み、右手だけ降ろして待つことにした。

 ………………………… …………………………


 しかし、待っても待っても気配すら感じ取ることが出来なかった。叫んで助けを呼ぼうかとも考えたが、普通に考えて離れ小屋か、地下室と見ていたから体力温存のために叫ぶことはしてない。仮に叫んでいたとしても、手枷までしてくれた奴だ、そう簡単に「はい、行っていいよ~」みたいな狂人行為はしないだろうな。


 「……………まぁ、何とかなるか……………」


 最善だが最悪な選択肢が突如として浮かんできた。


 【左腕を切り落とせ】


 腰には生前も使っていたナイフがあることを確認している。当然だが、手枷が専用の鍵でないと外すことも、破壊することも出来ないことも確認済みだ。


 「覚悟……………今、この瞬間だけ考えることをやめて」


 右手でナイフを持ち、左肘の関節辺りを狙って近づけた。

 多少ではあるが医学の知識はある。切り落とした後の処理は何とかなるさ。


 「ぅ!……………」


 ナイフの先端が皮膚に当たり、血が滲み出てくる。


 痛い。


 それでもゆっくりと押す。


 「もっと……………もっと、力を入れて」


 ……………遂に、



 扉が勢いよく開かれ光が差し込んできた。


 その眩しい光を助かったとも思った、邪魔だとも思った。その光の中心には、白衣を着こなす男性が居た。

 ………………………… …………………………


 「では、最初の質問だ」


 突然ではあるが、俺は今、水攻めに遭おうとしている。


 順を追って説明しよう。




 「はぁ……………危ないことはしないで頂きたい。君には聞きたいことが山のようにあるんだ。」


 白衣の男がそう淡々と言ったのは、扉を開けた後、急ぎでナイフを取り上げてすぐだった。その時、ナイフを強く掴んでいたか、咄嗟の判断で取り戻そうとしていればよかったなと今になって思う。


 その後は、素早い動きで首の裏をたたかれ気絶をした。次目覚めたときには、両手両足に手枷が嵌められていた。ついでにさっきの部屋とは違っていたことに気付いたのも、この時だった。


 その後は上から変な形状をしたネットから声が聞こえた。


 「あーあー、マイクテスト。大丈夫そうだね……………さてと、今の君には拒否権が無いことは自覚しているかな?今から私の質問に答えてもらう。この質問に嘘をついたり黙秘をすると、水を放流するからね。代わりに、正しい事を言ったときに君が知りたいことを答えることを約束する」


 天井からザラザラとした中世的な男性の声が響き渡る。

 どうやって声を出しているのか、果たしてこっちの声は聞こえているのか、色々と疑問こそあるが受け入れて行くしかないようだ。


 「わかった。早速始めてくれピエロ。」




 「ピエロとは少し酷い言い草だが、まぁいいよ。では、最初の質問だ、君の名前を言ってくれ。ぼそぼそと喋ると聞き取れないかもしれないから、気を付けてくれよ」


 「そんなことでいいのか……………俺の名前は『アラストル』だ!」


 そう言って5秒後、天井から水が勢いよく落下してきた。咄嗟に端へ走ったが、直撃していたらきっと気絶していただろう。

 それよりも……………


 「おい!、一体どういう事だ!、何故水を流した!」


 ”嘘をついてはいけない”その言葉に従って答えたはずなのにこの有様か。ふざけんじゃねぇ


 「なるほどね~、君は嘘を付いていないと思っているみたいだけど、君が忘れた”本当の名前”があるように思うな」


 「”本当の名前”だと……………」


 分からない。脳がこれ以上は駄目と拒絶を起こして考える事すらできない。


 「はぁ……………これ以上は駄目そうだね。それじゃぁ、次の質問だ。この世界に来て起こったことをできるだけ話してくれ。答え終わった時に水を止めてあげるよ」


 脳の整理が終わり切ってないにも関わらず、容赦なく続けるのは狂気だ。他人の事を言える立場ではないが……………


 「こんな拷問早く終わらせてやる、最初目覚めたのは草原だ、その後森林っぽい徒に向って歩いて行った。その中に湖があって中央に女の子が居て、居たんだ!その後は……………自分の腹を枝で刺して自害した」


 「ふ~む、最後なんで自害をしたのか、その理由を答えてくれ。あ!、約束通り水は一回止めておくよ!」


 確かに水の流れが止まった。が、やはり聞かれたか。こうなった以上は仕方がない。


 クソったれが……………


 「その女の子の姿が見えなくなった事で、助けられなかった自分に絶望して自害した!これで満足か」


 我武者羅な怒りの籠った解答に対しての返答は、嘲笑と喜びの含まれた悪質な声だった。


 「なるほどね~。大体わかってきたよ、一度水を抜くから気を付けたまえ」


 最高にウザい。


 いちいちその口調が演技臭くて気分が悪くなる。そんなことを考えている間に水は抜かれた。


 しばらく待ったが何の声も聞こえない。物申そうと声を出そうとしたその瞬間、見ただけでわかる、鉄製の大扉が開いて少しずつ光が舞い込んできた。そしてさっきも見た白衣の男がしゃべりだした。


 「改めて失礼するよ。私の名は『シンシャ・リビッド』以後、よろしく頼むよ。」


 肩まで伸びている金髪が特徴の男が、ピエロの仮面で顔を半分隠しながら言った。

 仮にもこれからお世話になるんだ。しっかりと挨拶はしなければならない。


 「こちらこそよろしく、ピエロのクソったれさん」


 そう、言いながら手を交わした。これから束縛されるかもとわかってはいたが。


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