表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
CIPHER N0X : NEMIRAX  作者: Thya Ngo
5/5

第5章 : OVERRIDE: GENESIS

本作品は著作権で保護されています。

※無断転載・AI学習・商用利用・改変などを固く禁じます。


Copyright © Thya Ngo. All rights reserved.

✦ 前セクション – データ余震


空気は冷たく、重く張りつめていた。

データがノイズに侵されたあと、Hae-Rin はまだ動揺していた。

彼女は静かに座り、Kael が隠し部屋から持ち出した金属製のデータドライブを見つめていた。


HAE-RIN(データドライブを手に取り、首を小さく振りながら):

「これ…何? どうしてシステムが変な信号を発したの?」


KAEL(周囲の信号を探知しながら、緊張した声で):

「あれが逆位相の波を発した…

記憶分離実験のステーションで使われていたタイプだ。

もうずっと前に禁止されたはずの。」


HAE-RIN(声を低くして):

「つまり、私が覚えてもいない頃…

誰かが私の脳に手を加えた、ってこと?」


KAEL(うなずき、表情を厳しくする):

「“誰か”じゃない…

闇の中で全てを操っていた組織だ。」


Kael はドライブを強く握りしめる。


KAEL:

「ここにはもう長くいられない。

この技術を理解できるとすれば――たった一人だけだ。

でも今すぐ離れないといけない。

この信号が“ハンター”を呼び寄せる前に。」


Hae-Rin は顔を上げた。疑念が渦巻いているが――

その奥底で、何かが目を覚ましたような気配があった。

それは “自分自身への恐怖” に近いものだった。


✦ 深夜のソウルを走る加圧ステルス車両


ステルス加圧車がソウルの細い路地を疾走する。

内部は薄暗く、制御盤には生き物のように踊るデータの光が揺れていた。


HAE-RIN(Kael を見て、小さく):

「私たちはどこへ向かっているの?」


KAEL(前方から目を離さず):

「ある人物に会いに行く。

俺が借りを作った相手で…

何もかも失ったとき、俺を救ってくれた人だ。」


HAE-RIN(小さな声で、闇に視線を落としながら):

「……私も、一度だけ救われたことがある。」


(短い沈黙。雨が車体にやさしく当たる。信号の光が彼女の横顔をかすめる。)


HAE-RIN(首を振り、外の闇を見つめたまま):

「でも今は…

その人がまだ存在しているかどうかさえ、わからない。」


(Kael は何も聞かない。車内には言葉にできない重さだけが満ちていく。)


HAE-RIN(自分に問いかけるように):

「時々、私は…ただ影を追いかけているだけなんじゃないかって思うの。

昔の記憶のかけら…

希望か、幻か、そのどちらか。」


稲妻が走り、青白い光が彼女の瞳に反射する。


HAE-RIN(低く):

「でも、それを手放したら…

私はもう、私が誰なのかさえ分からなくなる。」


彼女は窓越しに闇を見つめた。

稲光がビル群に突き刺さるように散り、

街はまるで巨大な生物のように、暗闇の中でうごめいていた。


車内では街灯の光が窓を流れ、途切れたデータの断片のようにちらつく。


HAE-RIN(唇を引き結び、前方を見つめながら):

(「もしこれを見ているなら……全てが始まったということだ。」)


その声が頭の中で繰り返される。

ノイズのように歪んだ、しかし聞き覚えのある男の声――

遠く、しかし“決して知らないはずがない”声。


(彼女は目を伏せ、コートの裾を無意識に握る。)

“気が狂うほど馴染み深い”

なのに名前が思い出せない。


KAEL(バックミラー越しに見ながら):

「……さっき、どうした?

何か…良くない反応があった。」


HAE-RIN(わずかに肩を跳ねさせ、すぐ落ち着き):

「何でもない。ただ…頭が痛いだけ。」


KAEL(道路を見つめたまま、声が少し硬くなる):

「ちょうどあのコードが画面に出た瞬間だった。」


Hae-Rin は答えない。肯定も否定もしない。

ただ冷たい窓に頭を預け、余震のような残響を振り払おうとしていた。


KAEL(低く、独り言のように):

「……あれに、身体が反応していた。

まるで…呼ばれているみたいに。」


HAE-RIN(かすかに笑うが、温度はない):

「もし本当に呼ばれているとして……

私は何て返せばいいの?」


✦ ソウル郊外 – 放棄された研究ステーション


車両は古いトンネルを抜け、錆びた研究施設の前に出た。

草が伸び、時間の層が積もっているが、地下の電源だけは微かに生きていた。


Kael が装置でロックを解除すると、

金属の扉が冷たい空気を吐き出しながら開いた。


KAEL:

「ここはかつて“量子脳波試験ステーション”だった。

“Delta Rung”事件後に閉鎖された…

少なくとも、公式記録では。」


HAE-RIN(半信半疑で):

「それをまだ信じてるの?」


KAEL(冷たく):

「俺は、“爆発しても生き残ったもの”だけを信じる。」


✦ コア室 – 研究ステーション地下


暗闇の中、ただ一筋の弱い光。

背を向けた銀髪の男が立っている。

片目には光学感応デバイスが装着されていた。


ORREN(振り向かずに、低い声で):

「Kael……とうとう“いちばん危険なもの”を連れてきたか。」


HAE-RIN(緊張して身構え):

「あなた……私を知ってるの?」


KAEL:

「Orren Vale。

Z-コアの初期開発者。

そして Genesis-0 の生き残りだ。」


Orren は静かに振り返り、鋭くも沈んだ目で彼女を見つめた。


ORREN:

「私が知っているんじゃない。

“あなたがかつて私を知っていた”。

とても深く。

今の名前は知らんが…

その顔は覚えている。

最後に会ったとき、あなたは“別の名前”を持っていた。」


Hae-Rin はわずかに後ずさる。


✦ 分析室 – 脳マップシステム


Orren が半機械式の操作盤を動かす。

青い光が彼の疲れた顔に反射する。


Hae-Rin はホログラムに映る脳波マップを見つめた。

それは“人の脳”としては異常なほど安定し過ぎていた。


警告表示が点灯し、Orren は別の端末に手を伸ばす。


ORREN(静かに):

「あなたの脳信号を確認したい。

最新のスキャンが更新されたばかりだ。」


Hae-Rin は一瞬ためらい、やがてうなずく。

装置が後頭部に装着され、青いデータ光が流れ出す。


✦ 制御室 – 脳マップ表示


脳構造のホログラムが浮かび上がる。

それは“凍結されたかのように安定しすぎた”活動パターンだった。


HAE-RIN(後ずさり、かすれ声で):

「……これは、何?」


胸の奥が詰まるような感覚。

恐怖でも不安でもない。

“名前のない悪夢”が蘇る気配。


ORREN(低く):

「活動脳波のマップだ。

だが普通の人間のものではない。」


彼女のこめかみに痛みが走る。


ORREN(画面を見つめながら):

「……あり得ない……」


KAEL:

「何があった?」


Orren は旋回構造のコードを拡大し、深く息を吐く。


ORREN:

「昔、二重暗号化されたデータ片で見た構造だ。

我々はそれを “Genesis-0” と呼んでいた。」


HAE-RIN:

「…Genesis?」


KAEL:

「Genesis はずっと前に破棄された人工神経網じゃなかったのか?」


ORREN(静かに頷きながら):

「ただの制御コアではない。

“再構築された人の脳”だ。

完全に管理された環境で作られた。

だが、原型は消えたとされていた。

唯一残った生体コードが…

この“螺旋構造”だった。」


HAE-RIN(低く):

「じゃあ……私が“原型”?」


ORREN(彼女を見る):

「複製ではない。模倣でもない。

これは“オリジナル”だ。

生きている、唯一の。」


HAE-RIN(息を乱しながら):

「どうして……私なの?」


ORREN(沈んだ声で):

「もし本当なら――

あなたは最初の一人だ。

Genesis が存在した理由であり…

消された理由でもある。」


胸の奥で冷たい空白が広がる。


KAEL(Orren に低く):

「本気で言ってるのか。」


ORREN:

「確信はない。

だが、この脳を“二度作ることは不可能だ”。

Genesis は消された。

残ったコードは――

“彼女の頭の中”にあった。」


KAEL(低声):

「でも、もし残っているなら…

なぜ彼女は覚えていない?

……それとも、忘れたがっている?」


Hae-Rin の肩がわずかに震えた。


HAE-RIN(かすれた声で):

「私自身も…理解したいの。」


沈黙。装置の光だけが脈打つ。


Orren の声が重く響く。


ORREN:

「深層抑制の波が植え込まれている。

おそらく――あなたがまだ“支配権”を持っていた頃に。

そして限界を超えた瞬間――」


映像がちらつく。


ORREN:

「あなた自身が“自己ロック”を起動した。

全てから――自分自身から逃れるために。」


KAEL:

「つまり…自分で“封印した”?」


ORREN:

「忘れたんじゃない。

“埋めた”んだ。

――思い出せば、自分を壊すものだったから。」


HAE-RIN(目を閉じ、囁く):

「私は……何なんだろう?」


アラートが鳴り、Kael が立ち上がる。


KAEL:

「外の信号が変動してる。見てくる。

二人はここに。」


彼は一瞬だけ Hae-Rin を見て、扉を出ていった。


HAE-RIN(かすれ声で):

「あなたは…どこまで知っているの?」


Orren はすぐには答えなかった。

重い沈黙のあと、ゆっくり口を開いた。


ORREN:

「データは欠けている。

多くは削除され、暗号化されている。

わずかな断片から…仮説を立てているにすぎない。

真実を知る者は――もう残っていない。」


彼はためらった。

そして、とても小さく呟く。


ORREN:

「…少なくとも、この場所には。

今この時には。」


Hae-Rin の手がかすかに震えた。


HAE-RIN(自分に言い聞かせるように):

「もしそれが本当なら……

私は、この物語の中で何者なの?」


ORREN:

「誰かが“核となる記憶領域”を封印した。

消したのではなく――“閉じた”のだ。」


ORREN(彼女をまっすぐ見て):

「あなたは部外者ではない。

残りは……あなた自身が思い出すしかない。」


Orren は壁の隠しロックを開いた。

磁気ケースに収められた、小さな銀色のチップが現れる。


HAE-RIN(息を呑む):

「それは……何?」


ORREN:

「記憶コアの断片。

旧コントロールコアから切り離された唯一の“解読可能な部分”だ。」


Hae-Rin は警戒しながら近づく。


HAE-RIN:

「どうしてあなたが持っているの?

誰から?」


Orren は一拍置いて答えた。


ORREN:

「私が見つけたんじゃない。

これを渡した人物は……

もういない。」


そして静かに言った。


ORREN:

「去る前にこう言った。

『もし Genesis が再び動き始めたなら――

彼女は“自分が誰か”を思い出すために、

この記憶が必要になる。』」


HAE-RIN(揺れる声で):

「その人は……誰?」


ORREN(声を低くして):

「確証はない。

だが――

Genesis 初期段階に関わった者で、

“唯一システムを裏切った人間”だ。」


Hae-Rin は銀色のチップを見つめる。

それは微かに脈動しているようにさえ感じられた。


HAE-RIN:

「残りの記憶は?」


ORREN(重く):

「すべては開かない。

だが――

忘れているものを目覚めさせる。

あるいは……

あなた自身が“思い出すことを拒んでいる部分”を。」



本作品は著作権で保護されています。

※無断転載・AI学習・商用利用・改変などを固く禁じます。


Copyright © Thya Ngo. All rights reserved.


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


この物語を楽しんでいただけたなら、とても嬉しいです。


もし気に入っていただけたら、ブックマークやご感想をぜひお寄せください。


今後も『CIPHER-N0X:NEMIRAX』の世界を一緒に歩んでいきましょう。


多言語版や設定資料は、下記のブログにて公開中です:


https://thyangostories.wordpress.com


本作品は著作権で保護されています。

※無断転載・AI学習・商用利用・改変などを固く禁じます。


Copyright © Thya Ngo. All rights reserved.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ