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SSまとめ  作者: 黒尾流牙
3/5

6/4まとめ

【サボテン】


 面倒臭がりでなんでも放置するような子なのに、サボテンだけはしっかり育っている。聞いたところによると花まで咲かせたらしい。なかなかに個性的な形をしているそれに名前までつけて育てているのを見ると可愛らしいところもあるものだなと自分でも似合わないことを思ってしまうものだ。


「え?知らないの?」


 飲み会の時に共通の友人にぽつりとそのことを話したら意外そうな声を発せられた。何をそんなに意外そうにしているんだろうと思ったら。


「あれ、別れた恋人から贈られたものなんだって」


 それを聞いた瞬間、あのちょっと捻くれた形をしているサボテンが憎らしくなった。

 メッセージの返信も授業の提出物も忘れがちなあの子なのに、元恋人からもらったサボテンにだけはしっかりと水をあげているってことだろう?もう別れた人からの贈り物なんてすぐに捨ててしまってもおかしくないはずなのに。


「あれ?今日はうちに寄っていかないの?」

「……うん」


 きっと今、君の家に上がってしまったら。何かしら理由をつけて君の大事にしているサボテンを捨ててしまうかもしれない。そんなことを思っている自分が自分じゃないかのように思えてしまって少し怖くなったから。そんなこと口が裂けても言えるはずもなくて。


「ああ、そういえばあのサボテン」

「うん?あの子がどうしたの?」


 でもこれくらいは許してほしい。ごめんね、と心のなかで謝りながら。


「恋愛運を下げるみたいだから、そういうのが気になるんだったら、他の人に譲っちゃった方がいいかも、しれない」

「そうなの?」


 純真無垢な瞳がこちらを見る。口から出任せを言ったのがバレてしまっているような感覚に陥った。なんでこんなことを言ってしまったんだろう。こんなことまるで、君のことが好きだと言っているようなもので。


「でも捨てられないんだよ」

「そう、なんだ」


 なんとなく遠回しに振られたような感じになってしまって一人でへこむ。でもしょうがないか、こんなこと急に言う奴なんて……。


「おぼえてないの?」

「え?」

「この子がいたおかげで君に会えたっていうのに」



【額縁】


 自由な君が好き。自由な君が好きなんだけど、たまに思うんだ。

 この蝶の標本みたいに君をピンで留めて飾ってしまえたらって。

 額縁の中の君が何を考えているかを考えながら、私はいつも君の前で紅茶を飲むのが日課になるはずだ。ああ、そう考えるだけでたまらない。本当にそうしたくてたまらなくなる。ああ、でもダメだ。自由に待っている君が好きなんだよ。それは本当のことで。

 でも、網で捕まえられて誰かのモノになってしまうくらいなら……。

 捕まえちゃっても、いいよね?



【賭け】


「僕は君が僕を好きになってくれることに賭けるよ」

「うん?」

 わざとそう声に出した。だってそうすれば君は嫌でも僕のことを意識しないといけなくなるだろう?そうすればきっとこの叶わない恋にだって光明が見えてくるはず。叶うはずなんてないこの恋にも。

「それって、こっちは好きにならないに賭けてるってことになるのかな」

「さて、どうだろうね。でもそうなるんじゃないかい?これは賭けなんだから」

「そっか」

 そんな風に素っ気ない返事をして君はスマホに視線を向ける。ああ、やっぱり脈無しだったんだな。じゃあこの賭けは紛れもなく僕の負け。分かっていたことだけど、分かっていたことだったけれども。俯く僕を掬う誰かの指。

 ちゅ。そんな音がして唇と唇が離れた。

「じゃあまず賭けにならないよ」

「…………え?」

 その意味に気付くのは数秒後。



【薬】


『いるのあと何?薬とスポドリとゼリーは買ってく』

 もういいよ、大丈夫。

 そんな簡単な返信ですら打てないくらいに熱の籠もった頭はぐらぐらと揺れる。スマホを見たせいで頭痛が酷くなった気がする。いや、あの子のせいではないんだけど。あの子はこっちを心配してくれているだけなんだから。それにそのことが嬉しいと思っている自分だっている。

 一人暮らしだからやっぱり弱っている時は寂しくなる。そこにあの子がいてくれたら。それだけで熱が下がっちゃいそうだ。それこそあの子自身が薬みたいな。……熱で変なことを考えている自覚はある。本当に変なことを考えている。でもそう思っちゃうんだから仕方無いじゃないか。

 ピンポーンと簡素なインターホンが鳴って、あの子が来たことを告げる。

「大丈夫?ってすごい熱いじゃん!すぐ帰るからこれだけちゃんと受け取って!」

「え、でも、お金……」

「そういうのいいから!ほら、はやく寝てね!」

 ガチャン。お薬との対面はほんの数十秒で終了。それを残念に思う自分もいるけれど。

 ドッドッドッと跳ねる心臓は熱のせい?それともあの子が額に触れたせい?

 惚れた病に薬無しとはよく言ったものだ!



【眼鏡】


 ひょいと眼鏡が外された。眼鏡を外した超本人は俺の眼鏡をかけて「うわっ」っと声を出していた。

「こんなに度数強いのかけてて逆に目が悪くならない?」

「……俺にはそれが合ってるの」

 返せと言う代わりに手を差し出すが、それを無視される。

「返せって」

「やだ」

 生憎、眼鏡がなければ何も見えやしない。溜息を吐いて立ち上がり、距離を詰めて眼鏡を取り返してやる。

「……なんだ」

「なんでも……」

 数分ぶりに見たそいつは何故か真っ赤な顔をしていた。



【お呪い】


「これ、お守り。持っとくといいことあるかもよ」

「え?ありがとう。……ってなんか硬い?何が入ってるの?」

「あー!見ないで!お守りは中身見たら効力無くなっちゃうんだから」

「え~?じゃあ中身は見ないでおくかぁ……」

 よかった、あんなものを入れたなんて知られたら恥ずかしくて死んでしまう。でもなんか探るように指でお守りの袋を触ってるからどういう形かは気付いちゃうんじゃないかな……?

「あー、もう!中身何か探らないの!」

「はいはい」

 そうやって渡して帰ってきたのはいいけれど、本当に中身開けてないよね、あの子。もし開けてたら……そんなの恥ずかしすぎて、恥ずかしすぎて。

 チャラリと自分の胸元に光るものを見る。それは簡素なチェーンに通されたリング。あの袋の中にはこれと揃いのものが入っているのだ。

「……あの子が誰のモノにもならないように、お呪い」



【姿見】


「うーん……やっぱこの組み合わせだとな~」

 持ってた服をポイとベッドに放り投げる。ベッドの上には服の山ができてしまっている。

「でもこっちはこっちでこどもっぽい……うーん……」

「だからってこっちは大人っぽいっていうか狙いすぎ……?」

「あーもう分かんないー!」

 ああでもないこうでもないとうんうん唸り、時間だけが過ぎていく。早く寝ないといけないっていうのに。

 なんで明日が初デートなんだ?というかなんで前日までデートに着て行く服を考えてなかったワケ?天気とかは一週間前からチェックしてたっていうのになんで服まで考えつかなかったんだろう。ああもう、自分の馬鹿……って思ってももう遅い。姿見には自分の情けない姿しか映ってない。泣きたくなってきた。折角の初デート、幸せなことしかないはずなのに……!

「うう……」

 デートプランは完璧。それなのに、それなのに……!

 今までずっと楽しみにしてて、早く明日になればいいと思ってたっていうのに。今は少しでも時間が経つのが遅くなればいいのにって思ってる。

 ああ、自分はワガママだ。でも、でも、やっぱり好きな人には可愛いって思われたいじゃん……?

「……もう少し考えよ」

 そして姿見との格闘は夕飯の準備が出来たと親が呼びにくるまで続いたのであった。



【オルゴール】


 素朴なオルゴールの音が流れる。リン、リンと鳴る旋律はいつか流行ったもの。誰もがその曲を知っていて、誰もがその歌を口ずさんでいた。

 しかし時は流れてその曲を知る者も少なくなった今、そのオルゴールは持ち主の孫娘が手にしていた。彼女は全く知らないメロディが流れ出すそれをまるで魔法の箱のように大事に大事に手の内に隠した。これを持っていることを誰にも知られてはならないと思ったのだ。

 そして孫娘は祖母にそのオルゴールを鳴らしてみせた。魔法の箱を見つけたんだよ、すごいでしょと。すると途端に祖母は泣き出した。きっと喜ぶと思って音を鳴らした孫娘はびっくりしてさっきまで大事に持っていた箱を置いて祖母を慰めた。

 孫娘が知らなかったのも無理はない。その曲は若くして亡くなった祖父の作った曲であったことを。それは最初は祖母にプレゼントとして贈られたものであったことを。

 祖母はそれを涙を浮かべつつも穏やかな表情で説明した。孫娘は聡かったのもあり、しっかりと内容を理解し改めて祖父の話を祖母に聞くことにした。

 自分の知らない人の話。でも大切な家族の話。それが紡がれる間、しっとりとその旋律は流れ続けていた。



【配信者】


 機材の準備をする。電源を入れてマイクのスイッチを入れてメーターを確認。ゲインをあげて自分の声が入っているかを確認する。

 今日はどんな人が来てくれるだろう。その人とどんな話をしようか。そう考えながら喉を潤して時間を待つ。

 この時間はいつも緊張する。何度やっても慣れることはない。でもその反面楽しくてしょうがない。

 自分はこれが好きなんだろう。間違いない。

 さあ時間だ。俺は口角を上げてボタンを押した。

「いらっしゃい。今日はどんな話をしようか」



【古傷】


 雨が降る音がする。低気圧で頭が痛むが、今日はピアスの穴まで痛む。古傷が痛む、というやつだろうか。そんなことをされるとこのピアスの穴を開けた日のことを思い出してしまう。

『かっこいいところに開けてよ』

『任せて』

 そう言って開けてもらったんだっけ。最初の彼氏に。今彼が何をしているのかは分からないけど……こうやって雨の度に傷が痛み出すって言うんだったら。

「……呪い、みたいだ」



【お風呂】


 ちゃぷんと湯船に水が落ちる。お気に入りの入浴剤の香りに心地よい湯加減。この広くもなく狭くもない湯船が幸せに満ちる時間が私は大好きだ。それに浸っていると、少し遠くからその時間を壊すものが近づいてくる音がした。

「もう!お風呂くらい一人でゆっくり入らせてよ!」

 そう言ったって君は聞かない。脱衣所に居座って、私がドアを開けるのを今か今かと待っている。自分から開けてこないのはまだマシだけど、そこに居られるだけで一人のゆったりとした時間は壊れてしまう。

 私はざばりと湯船から立ち上がり、ドアを開けた。

「何回も言ってるでしょ?」

 それに君はなんの返事もしない。都合の悪いことは聞こえないふりをしてることだって分かってるんだからね?

「出たらご飯にするから待ってて」

 ご飯。そう言った瞬間にピクリと君は反応を示す。ああ単純だなあ。そこが可愛いところでもあるんだけど。

「ね?だから待ってて」

「なーん」

 仕方が無い分かったよと言いたげに1匹の猫はトコトコといつも座っている場所に歩いて行った。



【指輪】


「これあげる」

「なに?うわーきれい!」

 そうやってもらったオモチャの指輪がずっとずっと宝物だった。小さい時から使っている宝物を入れる箱に大事に大事にしまって、時々取り出して見てはニヤニヤしていた。我ながら気持ち悪いと思う。

 でも君はもうそれはいらないと言う。この思い出がいっぱい詰まったオモチャの指輪を取り上げようとする。なんで、どうして。

「だから!もっとちゃんとしたの買いに行こうって!」

「……ちゃんとしたのって?」


「……結婚、しよ?」



【いつかのきみに聞いてごらん】


 俺にやけに構ってくる友人がいる。いつも隣にいるのが当たり前と錯覚してしまうくらいに。別のクラスのはずなのに、昼ご飯を食べようとするとそこにいる。クラスメイトもそれに慣れきって普通にそいつと会話している。慣れてどうするんだ、慣れて。

 どうしても気になってその日の帰りに肩を並べて歩くそいつに聞いてみることにした。

「どうしてお前はそんなに俺に構ってくるんだ」

「え?」

 きょとんと。なんでそんな当たり前のことをきくんだろうって顔で。いや、俺も半ば当たり前と思いかけていたんだけれども。理由くらいは知っててもいいだろう。

「いつかの君に聞いてごらん」

「え?」

 今度は俺はきょとんとする番だった。俺は何かをこいつに言ったのだろうか。

「ふふ、内緒」

「内緒ってなんだ内緒って!」


 ○ ○ ○


『俺たちずっと一緒にいような!』

 そう言った本人が忘れていても自分は、自分だけは。

 ずっと、ずっと、覚えてる。



【舞台】


 人生は舞台のようなものだと思う。誰にでも役が与えられ、その役を演じて一生を過ごす。そして死んでその舞台から退場するんだ。

 自分に与えられた役はきっとモブ役。人生誰もが主人公とか誰かが言ってた気がするけどそんなワケない。そんな自分が選ばれた人間だって思い込むのは中学二年生くらいまででいいのだ。

「ねえ」

 そう声をかけてきたのは自分とはかけ離れた役を持った高嶺の花だった。そんな人がモブ役の自分に一体何の用だろうと訝しんでいたら。

「今度の球技大会のペア、ならない?」

 教室中の視線がこっちに集まった気がした。なんであいつが。そんな視線が突き刺さる。

「ダメ?」

「い、いや……ダメじゃないけど……」

 断れ、断れと皆の視線が自分を切り裂こうとする。でも、でも、この人の頼みを断るわけには……!

「わっ、わかりました!」

「やった、ありがと!」

 ぎゅっと握られた手は温かくて、舞台のど真ん中に引っ張り上げられたような気がした。




【タトゥー】


 好きな人の手首に小さくタトゥーがあるのを見つけた。

 タトゥーを入れるってどういう感覚なんだろう。そもそもなんで入れようと思ったんだろう。銭湯とか行けなくなるのになんで入れたんだろうとか思っちゃう自分はおかしいんだろうか。そもそもタトゥーってどうやっていれるんだろう。入れ墨とか言うよな。墨を入れるのか?いや、でも彫り師って言うよな。じゃあ彫るのか?どっちにしろ痛そう。なんでわざわざ痛い目を見ようとしたんだろう?ピアスすらあけていない自分は自分の体に傷を付けることの意味が分からない。本当に、なんで入れようと思ったんだろう。聞いてみたい。でもそんなところにタトゥーがあるのに気付いてるなんて知られたらなんかな……すっごい彼のことを見ているって自白するようで恥ずかしいし……。

「ねえ」

「ひゃ、ひゃいっ!?」

 そう思ってたら彼から声をかけられた。首を傾げたところからじゃらりと音が鳴りそうなくらいつけられたピアスがキラキラと光った。

「俺のこと、よく見てるよね」

「えっ」

 気付かれてた!?

「もしかして……タトゥーとかピアスとか興味あるの?」

「えっ」

 あっ、そういう?そういう感じ?むしろ貴方に興味があるんですけど!?

「う、うん……」

 無言の圧に負けて頷けば、彼はぱあっと表情を明るくした。

「マジで!?いやー話せる子いないと思ってたからめっちゃ嬉しい!これからあけるの?どこあけたいとかある?タトゥーは?」

 ど、どうしよう。こんなことになるなんて……!嬉しいけどこれからどうしよう……!?



【獣】


 その姿はまるで獣。ギラリとした眼光がこちらに向けられる。

「ねえっ、はやく頂戴……我慢とか無理なんだけど……!」

「わかった、わかったから……」

「お腹空いたって言ってるでしょ!」

「そんなすぐに料理はできないから座って待ってろ!」

 急かすように甘えるように俺に抱きついてきたそいつの頭を撫でてやる。というか料理してるヤツに抱きついてくるなんて危ないだろうが。火を使ってるワケでも包丁を使っているワケでもないし……でも大人しくしててほしいのは本音だ。料理を手伝うでもなくフラフラされるのは正直言って邪魔だし。

「待てない~」

「はいはい」

 ……まあいつも通りの風景と言えばそうなのだけれども。

 でも、あの目は何度見ても慣れない。

 ……いつも見る度にちょっとゾクゾクしてしまってる、なんていえないんだけれども!



【未亡人】


「ねえ。この靴下、未亡人になってるんだけど」

「は?」

 靴下にはおよそ似つかわしくないワードが出てきて驚く。未亡人って。いや、なんとなく意味は分かるんだけれども。

「どういう意味?」

「いや、相手がいなくなったんだから未亡人じゃん」

 じゃあ残された靴下は全部女になるのかとかそもそも靴下に性別があるのかとか色々なツッコミどころがあるんだけれども、なんとなく理解はできた。

「で、誰が未亡人だって?」

「えっと、この柄の……」

 こうやってその人特有の言い方とかがうつって、家族になっていくんだなって思うと……。

「どうしたの?顔赤いけど」

「いや、なんでもない」

 少し、いや、かなり嬉しい、な。

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