6/2まとめ
【消せない傷】
もう耐えきれない。そう思った。まるでいなくてもいいかのように扱われるのには飽きたのだ。
きっと気付かれないだろう。ここから自分がいなくなっても。荷物が一人分減ったとしても。そもそも、同棲を始めると言って喜び勇んで家具たちを買いそろえたのは向こうだ。……あの時はあんなに嬉しそうに選んでいたというのに、今となっては。
でも気付いてほしかった。あんな奴でもいなくなったら寂しいなくらいは思ってほしかった。だから分かりやすく、あの人からもらった指輪をいつもだったら食べられる事の無い食事の皿を置く場所に。
まるで飾り気の無かった自分には過ぎたものだったんだ。それをただ返すだけ。
それなのになんでこんなに涙が込み上げてくるんだろうか。
一頻り泣いて。それを知っているのはカチコチと音を立てる時計だけだろう。
そこで一つ悪戯を思いついた。
あの人の部屋に向かうと、ピアスが乱雑に置いてあった。色々と着飾って、色々と集めるクセにそういうところはだらしないのだ。それが愛おしいと思った時期もあった。今はただ、いつも通りにしか感じないのだけれども。
そこからそれまた乱雑に置いてあるピアッサーを手に取った。震える手で耳にそれを添え、そして。
「……サヨナラ」
涙はとうに涸れ果てた。泣いている間もあの人は帰ってこなかった。いつもそうだ。帰ってくると言っている時間に間に合わないのだ。
そっと左耳に触れる。じんわりとした痛みが襲ってきた。きっと自分には似合わない色の石が光っている。
「サヨナラ」
もう一回、ケジメのように呟いた。
自分はこの消えない傷と共に生きていこうと決めた。だから貴方も、貴方も、できることならば。このことを傷として、生きていってほしい。
……それもまあ、無理かもしれないけれども。