不正の代償
翌日さっそく私達はその汚職政治家のとこへ行くことになった。
だが普通に言っても通して貰えるわけがない。
じゃあ、どうするかというと隠形の術である。呪術に秀でた力があるとこれくらいの障害は大したことなくて助かる。
私とタマはなんなく汚職政治家の事務所へ侵入した。
対象の汚職政治家は彼の執務室にいた。
私とタマは隠形を解いた。
「なっ!? 誰だ貴様ら!」
「警告よ、今あなたが犯してる不正を今直ぐやめなさい!」
「ふざけたことを言うな! 罪を犯してるのは貴様らだ! 不法侵入だぞ!」
「妹華少し脅かしてやったら?」
「そうね」
タマの提案に私は頷く。
「オン・エンマヤ・ソワカ!」
閻魔天印を組んで真言を唱える。
その瞬間、後方で不気味な歯と歯を打ち鳴らす音が聞えた。私の位置からでは姿は見えないが、何かは分かってる。地獄門、文字通り地獄へと通じる門だ。歯を打ち鳴らすような音は門に埋め込まれた髑髏が歯を打ち鳴らしてるものだ。
「どう? 罪を悔い改める気にはなったかしら?」
「……」
汚職政治家は顔を真っ青にして、口をぱくぱくしながら何も言えずに怯えていた。
「後日答えを聞かせてもらうわ」
私とタマは再び隠形し、姿を消した。
だが直ぐに帰らず、少し目の前の汚職政治家の様子を見る。
彼が心を入れ替えるかは一人の時に断定できるだろう。
「……何だったんだ、今の……幻覚か?」
汚職政治家は頭を抱えて呟く。
「いやしかし、リアルすぎるし、意識ははっきりしている。それに私が不正をしてることは誰も知らないはず。賄賂も一部の人間だけが知ってるものだし」
私たちがまだいるとも知らずに汚職政治家はぼやく。
今の台詞はしっかり録音させてもらった。
「気のせいってことにしとくか。あんな非現実的なこと幻覚以外何物でもない」
どうやら更生の余地はないようだな。
その後、丸一日式紙を飛ばしたりして汚職政治家の様子を見てみたが、賄賂や不正をやめる気配は見られなかった。
再び私とタマは汚職政治家の元へ行く。
「ひっ!?」
顔面蒼白で汚職政治家が恐怖で怯える。
「あなたの様子を一日見させてもらったわ、更生の余地なしと私達は判断した」
「侵入者だあ!?」
汚職政治家は大声で叫んだ。
「話を聞く気もなしか。無駄よ、防音の術もかけてるから」
「なんなんだ、お前ら!?」
「死神代行者」
「地獄の使い、火車の極卒」
汚職政治家の言葉に答え私とタマが名乗る。
「私服を肥えやすクズには民衆の苦しみを味わってもらうわ」
私は再び閻魔天真言を唱え、地獄門を顕現させた。
「今回はわたしの出番は無しぽいね」
タマが両手を頭の上で組んで言った。
タマが言った通り、今回の件はタマが直ぐにかかるものではなかった。
今必要なのはこれから地獄門から現れる者だった。地獄門が徐々に開いてく。髑髏の扉から姿を現したのは襤褸布を纏ったみすぼらしい姿をしたやせ細った少年だった。
「なんだこのみすぼらしい汚い子供は?」
汚職政治家が汚物を見るような目で襤褸布を纏った少年を見て言った。
あーあ、最後のチャンスだったのに。
襤褸布を纏った少年が汚職政治家の態度に怒りを露わにする。
寧ろこんなことにつきあわせてしまっていることに彼に申し訳なさが出てくる。
襤褸布を纏った少年は怒りを呪いへと変える。
呪いの正体は、一生貧困になる呪い。
この呪いを受けた者は一生貧困に悩まされ、自分の暮らしが豊かになることは一切ない。妖精や座敷童の類も一切憑くことはない。
襤褸布を纏った少年の正体は貧乏神で他人に貧困にさせる呪いを持っている。
私とタマは端に避けて結界を張ったうえで、疫除けの呪法をかけて退避していた。
しかし、汚職政治家は貧乏神の呪いをもろに受けた。
だが汚職政治家の彼はその呪いがすぐにはわからないだろう。身体に直ぐ変化が現れる呪いと違ってこういう類の呪いは時間を経つごとにわかってくるものだ。
一回地獄を味わった上で犯罪に手を染めるのならもう救いようがないが、さてどうなることか。
汚職政治家の件が終わって私とタマは篁神社へ帰って来た。
「疲れた……」
「お疲れ」
自室で大の字になって私は寝転がった。
そんな私にタマが私の頭を自分の膝上に乗せた。
「珍しい」
いつもは逆に私がタマを膝枕することは多いが、今回は逆だった。
「今回わたしなにもしてないからねえ」
生きてる人間が相手の場合、一度現世で罪を裁いてから地獄へ送る必要がある。そのため実際に彼らを地獄へ送るのは基本的に少し先になる。もっとも例外はある。生きてる限り害悪になるような存在は即座に地獄へ送ることもあるからだ。タマの仕事は私が罪を犯した者へ更生の機会を与え、その気配がない場合、呪いをかけて生き地獄を味合わせる。それでも行いを改めない場合にようやくタマが地獄へ送る、というのが生きている人間に対する対処法だ。そのためどうしてもタマの仕事は時間が経ってからになることが多い。今回のようなケースも結構多いのだ。
「タマ枕の感想は?」
「うん、気持ちいいよ」
〇
その後、汚職政治家はどんどんと落ちぶれて行った。落ちぶれてなお金遣いが荒く、挙句借金を作り、遂には妻子にも逃げられたという。
数年後に再び彼に会った。
「無様ね」
再び私が汚職政治家だった彼に会った時には既に彼はこの世の者ではなくなっていたが、まだ現世に留まってはいた。ようは幽霊になっていた。
死してなおこの世に未練があるようだ。
「お前たちは、あの時の」
「久しぶりですね。汚職政治家さん」
私とタマの姿を見て言う汚職政治家の霊に、私は答える。
「いつまでもこの世いないでさっさと地獄へ行って下さい」
「断る」
私の忠告に汚職政治家の霊は拒否した。
「まったく……まあ、拒否したところで意味はないけど」
「私は地獄なんか行かないぞ!」
汚職政治家の霊が甲高い声で強がる。
そんな彼を尻目に私はタマに視線を向けた。
「タマ、手伝う?」
「今日はいいかな。悪霊化してるわけでもないし。戦闘は必要ない」
「了解」
タマの言葉に私は頷く。
タマが呪力を込めて汚職政治家の霊のところに火車を顕現させた。
「な、なんだ!?」
汚職政治家の霊は火車に囚われた。
火車は結界が張られていて、一度捕まると中々脱出は厳しい。
危険な悪霊や妖怪なら強度的に多少心配であるものの、危険な奴らはこんな簡単に倒すことは出来ないので、大体戦闘後に突っ込むのであんまり関係ない。
まあ、汚職やら詐欺の霊如きでは脱出は不可能である。
「じゃあ、行ってくる」
「うん、行ってらっしゃい」
私は汚職政治家の霊を火車へ突っ込んだタマに挨拶して、送り出した。