習作4
※他サイトより転載
世間ではクリスマス前日のその日、私はお休みをもらった。偶然だった。
いただいたものは有効活用しよう。気になっていた展覧会を見に美術館に向かい、オシャレなカフェで和牛がメインディッシュのランチとフルーツたっぷりのケーキに舌鼓をうつ。折角なので買う予定のなかったワインをクリスマス仕様の包装紙に包んでもらい、駅まではイルミネーションで金と銀に彩られた通りをあえて選んだ。
そうして一人楽しいクリスマス・イブを過ごした帰りの電車は、退勤ラッシュとぶつかっていた。ホームに停車中の電車はもうドアぎりぎりまで乗客で埋まっていた。待ち人が家に灯りを点してくれるわけでもなし、一本見送ることを即決する。
出発するのとは反対の列に並ぼうとして、ひときわ鮮やかで華やかな色が視界の端を踊った。
真っ赤な、ばらの花。
ネイビーのロングダッフルコートに身を包んだサラリーマンが、満員電車の中花束を大事そうに抱えている。会社帰りで寒色の服を着た人が多い中、その色彩はよく目立った。自分の体は押しくらまんじゅうに巻き込まれ不自由そうなのに、真紅の贈り物は潰されないよう余白を作って大事に回された腕でしっかりガードされている。
今宵あの花束の受け取る人は、心底愛されている。
見ず知らずの二人につい思いを馳せながら、閉まる扉を見つめた。
クリスマスなので。この二人に幸あれ!の気持ちで書きました。