世界渡りの覇王 第一章 世界のクリエイター4
翌日、俺は六堂絆に呼び出された場所に来ていた。
どうしても六道絆の言葉が無視できなかったのだ。
俺の中のどこかに六道絆が言った内容を考えている自分がいたのかもしれない。
六道絆に呼び出された場所は、普通の喫茶店だった。
他に誰かを連れてくることも考えたが、一人の方が向こうも話しやすいだろう。
俺がダニエルくん達をあんな風にした六堂絆に気を使うなんてどうかしている。
いや、もしかしたら、話の内容を他の人に聞かれたくないだけかもしれない。
この世界が俺の書いた小説の世界だなんて……。
六堂絆がなかなか来ないので、仕方なく店の中に入ると、入口から見える席に居た。
俺は席に座り、コーヒーを注文して、口を開く。
「それで、どういうことだ? この世界が小説の中の世界だなんて?」
「そうだな。
できるだけ話を要約すると、お前はお前の小説でダニエルとラインヒルデが昏睡状態になる話を書いてしまった。
そうしたら、二人が本当に昏睡状態になったから焦った。
そして、自分が書いた小説が現実になることに気付き、世界を殺し屋の特殊な力でフィクションにしようとした。
結果、それは半分しか成功しなかった。
世界は分離し、お前の小説の中の世界と外の世界に別れたんだ」
「そんな話……」
「信じられないとは言えないだろう?」
「……」
その通りだった。信じられないわけではない。
だが、どこか、その話を真実だとは思えなかった。少なくとも全てが真実とは……。
「仮にその話が本当だとして……いや、本当かどうか、検証してみよう。
大前提として、そうだとしたら何故、お前はそんなことがわかるんだ?」
「わかって当然だろう?
俺は絆の殺し屋だ。この世界との絆に関することならわかる。
それに他にも気付いているヤツはいるんじゃないか?
俺が思っていたよりは気付いているヤツは少なそうだが……。
政府が五橋の能力で見える未来を運命と呼び、信じていたのは覚えているだろう?」
「覚えているってどういう表現だよ? 忘れるわけがないだろう?
五橋さんの能力で見える運命に執着して、その通りにことを運べば危険がないと思い込み、結果、俺達と戦わせ、運命が変わり、慌てることになった」
そう、五橋さんは殺し屋の力で未来が見える。
戦いでは『未来の(ア)眼』という技で相手の回避先を見て銃撃を叩き込む。
それが彼女の戦闘スタイルだ。
だが、それは戦い以外でもいくらか使えるらしい。
彼女は昔、その未来を信じ、自分が見た未来のように、俺の告白を断り、他の人から俺を奪う未来を実現させようとした。
一度、告白を断らないと未来が変わると思ったのだ。
だが結果は、俺の気持ちを変えられず、俺は光ちゃんのことが好きなままだ。
「まあ、そういうことだ。他に質問は?」
本当はまず、小説の中の世界かどうかの検証をしようかと思ったが、話が上手く変わった。
六堂絆が信用できるか調べよう。
「お前は何が目的で、それを俺に教えるんだ?」
「ん? いい質問だ。鋭い。だが、俺が信用できるかどうか調べようとしているのが丸分かりだ。もう少し上手く隠せ」
「いいんだよ。信用しているわけがないのは当たり前だろう?」
「まあいい。全く信用しないからその検証をする程度には変わったということにしておこう。
俺はお前の運命を変えた力を見込んで、この世界を殺し屋の存在しない世界に戻して欲しいだけだ」
「殺し屋の……存在……しない世界? お前はそれだけの殺し屋の力を持っていて不満なのか?」
俺は驚きを隠せない。
俺は六堂絆を力におぼれる人間だと思っていた。
力を使って世界を自分の思い通りにする悪いヤツだと……。
だが実際は違った。
コイツはもしかしたら……。
俺はコイツの気持ちが少しわかったかもしれない。
「怖いのか? 殺し屋の力が?」
「ハッ、そこまで教えるか? お前に……」
「なら、ダニエルくん達を元に戻せ」
「わかっていないな?
俺の立場になってみろ? 俺だってお前達を信用できると思うか?
ただでさえ危険な殺し屋が四人もいるグループに、その上、二人、一人と殺し屋が増え、しかも未来を見られるヤツと運命を変えたヤツまで居る。
おまけにこの世界を作ったヤツがその中にいるとわかる。
俺を危険視しているかもしれないが、お前達の方が危険だ。
それに俺はお前の書いた話通りにことを進めてしまったに過ぎない。まあ、話として当然の流れだが……」
「なるほど。お前も怖がっているわけか?
・・・・・・少し安心した。
だが、能力的に一番危険なのはお前の方だろう?
殺し屋は人の想いしか殺さない。
実害は何もないはずが、この世界との絆を殺す? しかも、スナイパー? ただでさえ、危ない銃に、さらに殺し屋の力が危険なんて反則だろう?」
「そんなの、運命を変え世界を作った人と、未来を見る女がいれば話にもならない。
まあ、言い合っていてもキリがない。
小説の中の世界ということに関する検証だ。他に何か質問はあるか?
それとも、もう信じるか?」
俺は考えて口を開く。
「そうだな……。まず、世界をフィクションにしようとしたとはどういうことだ?」
「まあ、さすがにそうくるよな?」
六堂絆は少し考えた。
考える必要があるのか? 事実を伝えるだけだろう? どこまで話そうかを迷っている?
「話すとまずいことでもあるのか?」
「いや、まあ、俺も完全には理解していないかもしれないだけだ。
たしか、ある条件を満たすとお前の書いた事実が作り話だけの話――つまり、フィクションになり、その能力を知らない人々の記憶から消えるんだったと思う」
「なんで、その時の俺はそんなことがわかったんだ」
「そりゃ、前例がいたからだ」
「えっ? どういうことだ?」
俺は驚く。前にもこんなことがあったのか?
だとしたら、何故、俺がそれを知ったんだ?
まさか、俺の知り合い?
「聞くのか?
お前にとって聞きたくないことかもしれないぞ?
いや、もっと言うとお前の大切な人を巻き込み、傷付ける事実かもしれないぞ?
まあ、俺にとってはどうでもいいが……」
「聞く。どんな事実を知っても、俺達は揺るがない。少なくともそう在りたい」
「そうか、なら言おう。殺し屋の力があらわれたのは、最初は二乃部光のイラストを現実にする力によってあらわれたんだ」
「光ちゃんの……力……?」
「そうだ。
それで、ダニエル達が昏睡状態に陥った時、助けたいと強く願うことによって、お前への愛を思い出し、力について知った。
そしてお前にも力があることに気付き、お前にも強く助けたいと思わせることで、お前にもお前の力の知識をわからせた。
それがどんな感じだったかなんて聞くなよ。体を動かす感覚みたいに説明しづらいんだ」
「なら、フィクションにするのに満たさなければならなかった条件とはなんだ?」
「それを聞くか? 普通、わからないだろう?」
確かにわからないかもしれない。
けれど、聞かずには入れなかった。それは、現状を打破するきっかけになるかもしれないのだから……。
「俺の推測だが、本来のお前が書いたシナリオにない動きを誰かができた時に、世界がフィクションになるのだと思う」
「なぜ、そう思う?」
俺は六道絆が話した事実に驚きつつもそう聞く。
まあ、六堂絆が本当のことを言う保証はどこにもないし、むしろ、その推測が当たっている保証もどこにもないのだが…。
「お前達に世界の分裂と関係がないことで忘れていることがあるからだ。
いや、ある意味、関係しているのかもしれないが……。
それに、俺の理屈だと納得できる」
「理屈?」
その言葉にどこか引っかかりを感じるが、俺は他にも聞きたいことがあった。
「忘れていることとは?
って、ああ、だから、さっき、政府が運命を信じていたことを覚えているかという表現で聞いたのか?
それではないとしたら何を……」
実際に起きたことをさして、忘れているという表現が気持ち悪かったのだ。
記憶力が足りないわけじゃないのに、なかったことにされるのが許せなかっただけ……。
「そうだな。ヒントだけ言うと、呼び方、名前、そしてメールだ」
「なんで、ヒントだけなんだ? 実際に話した方が早いのに……」
「そこだよ。
お前に世界を殺し屋の存在しない世界に戻してもらうには、この世界を消すか、元の世界と――、いや、ぶっちゃけよう。
本当は俺はお前の書いた小説の世界というのが気に食わないだけだ。
この世界をお前の手から離れさせたいだけだ。
神様の作った世界ならともかく俺の行動が誰かの考えた結果なんてのが嫌なだけだ。
少なくとも、俺が俺のこの意識がお前の小説の世界から開放されたいだけだ。
だから、俺を外の世界に連れていくか、世界をお前の手から離れさせろ!
お前が忘れていることがヒントになるはずだ」
「そうしたら、ダニエルくん達を元に戻すか?」
「俺が外の世界に行けば自然と戻るだろうし、お前も嫌だろう?
ダニエル達がお前の小説に踊らされているせいで意識を取り戻せないなんて……。
このままじゃ、物語のためにいろんな不幸が訪れるかもしれないぞ?」
「……わかった、やってみよう」
俺も六堂絆の指摘したとおり、物語に踊らされて、不幸になるのが嫌だったので、とりあえず頷いた。
その後、俺は家に帰り、六堂絆に言われたことを思い出していた。
この世界が俺の書いた小説の中の世界か……。
六堂絆のことも少し見直していたのに、結局、俺に行動を決められているというか、小説という形で行動を管理されているのが嫌なだけのプライドの問題だった。
そもそも、その通りにしたら、六堂絆は管理から離れて暴走するだけじゃないのか?
なんか、協力するのを止めたほうがいい気がしてきた。
いや、殺し屋の力は失うんだ。
たいしたことはできないだろう?
そう思い、今日のところは疲れたから、明日、何か探してみようと思い、眠りについた。