救われた世界と世界愛の具現 第七章 覇王の救い
光は世界を救った後、影治のところに向かっていた。
光は探さなくても、影治の居場所を知っていた。
居場所だけではない。
影治のシナリオ通りにこうなることも知っていた。
影治に同調誘導というものをされた時に知った。
影治は気付いてないかもしれないが、影治はラプラスの魔と呼ばれるものと同調していた。
世界の全てを予測できるという空想の悪魔と……。
世界を渡り、旅をしてきた影治だ。
空想の悪魔と出会っていても不思議ではない。
そして、だからこそ、影治のシナリオ通りにことは進んだ。
ラプラスの魔と同調した者のシナリオだ。
はずれはしないだろう。
影治は――世界渡りの覇王は、この世界に残した一番新しい影治と一つになって、自分の家で寝ていた。
殺し屋との戦いで覇王の民が、味方してくれていた殺し屋の協力を失った時にしたように、眠ることで、起きて何かをする分の力の全てを世界を繋げることに使っていたのだ。
戦いの中心人物が、まさか自分の家で眠っているなんて思わなかっただろう。
それでも、光は知っていた。
そして、普通に家を訪ね、影治の部屋で眠る影治に超常の力を使う。
「「光あふれる永遠の顕現」」
時間を止めるのが主な目的のその超常の力を、光は誰にも邪魔されずに、眠っている影治と意識の世界で話すために使った。
光は世界だけでなく――いや、この世界の一部であり、自分の世界の全てを救おうとしていた。
この世界はまだ完全には救われていない。
影治という世界の一部を救うことで完全に救われる。
だが、それは光にとっては、世界の全てを今、救うことだった。
影治は光にとっての全てだった。
少なくとも、本人はそう思っていた。
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現実の世界の映像がいくつか映し出されている夢の中のような場所で、その映像を見上げる影治の姿を見つけた。
光が影治に近付く足音をたてる。
影治は振り返らない。
光は影治が、音に振り向かないのは、その音が何の音で何がたてている音なのかをわかっているからだと知っている。
だから、光はなんの前置きもなく話し始める。
「影治くん。部活のメンバー以外で、私と愛ちゃんくらいしか影治くんと仲良くなろうとしてこない理由ってなんだと思う?」
「俺が誰からも好かれない――正確には興味を持たれないどうしようもない人間だからだよ」
影治も大して驚かずに答える。
だが、その答えに光は不満を持ったらしい。少し機嫌が悪そうに言う。
「はあ~~、私や愛ちゃんが好きになった――誰よりも相手を理解しようとして、誰よりも相手を救おうとして――誰よりも世界を救おうとして、世界や正しさのためなら何もかもを犠牲にするような偽善者が――ううん、そんな私の恋人がそんな人間だと思う?」
「なら、どうして!? どうして、俺は一人なんだ!」
「誰も特別になれないからだよ」
「えっ?」
光は当たり前のように答えるが、影治にはわけがわからない。
影治の戸惑いに答えるように光は続ける。
「影治くんの周りの人は好かれないから好きだと言えない――ううん、実際は違うかもしれないけど、そういう人は多いと私は思うよ。でも、だから、影治くんが好きだと言った人にしか好かれない」
「特別な人は――好意を持った人は確かにいた」
「好きだと言った人だけでしょ?」
「違う!
確かにそれ以外にも――光ちゃんが一番で恋愛感情は確かに好きだと言った相手にしか持たなかったのかもしれない。
でもそれ以外にも好意はあった! 特別な好意も心動かされることも確かにあった!」
「えっ?」
今度は光が驚く番だった。
そんな光をよそに影治は続ける。
「俺は――俺は勝手に孤高にされただけだ! だが、本当に心から孤高を望めるモノはいない! 俺は――俺は――
人間なんだ!
確かに心があるんだ!」
「でも、でも――影治くんのあり方は!」
光は焦ったように言う。
自分の知らない影治を見ているようだった。
「ああ、俺はその全てを行動する時の選択肢の優先順位の高い方に、なおかつ気持ちを裏切らない前提で捧げているだけだ!」
「……」
「世界は犠牲ナシで結果をつかめるほど優しくない?
それは世界の優しさを信じきれていなくて――理の力を舐めていないか?
必要なモノは覚悟と選択と――そして何より折れることのない誓いだ!
どんな命も失わないという誓い。
たとえ自分の持つ全てを劣化させてでも、失うことだけはしないという誓い。
誓いで本当に大切なモノを守った上で、優先順位の高いモノに他の全てを捧げて、守った末に劣化したモノは犠牲か?」
「……」
「俺はそうは思わない。
優先順位の高いモノを選択し、なおかつ誓いを破らないことで一番が選択肢になくても一番を裏切らず、他の全てを捧げる。
犠牲なんていう一部より、大きな全てを捧げる方が尊く大きな力になると俺は信じている」
影治の半ば暴走気味の演説のようなモノを光は黙って聞いた。
だが、光は少しも嫌な顔をしなかった。
それは影治の考えたことだから――影治の心を表現した言葉だから……。
そして、影治を理解した。
「そっか、そうだったの? 誰もそれを――あなたの好意を――あなたの考えを――あなたの心を――見抜けなかっただけなんだね?」
「俺はわかってくれていると信じたかった」
「無理だよ。だって、あなたも気付いていないあなたの本心がある」
「俺の考えだ。俺が――」
影治は続きが言えない。光はそれを指摘する。
「そう、気付いていない――なら有り得るでしょ? 影治くん、いつか言ったあの言葉を覚えている?」
「あの言葉?」
「言ったよね? 感情に果てなんてないんだよ。影治くんの、その感情の――
一連の行動の先には影治くんの求めているモノの一つがある」
影治は過去を思い返す。
そして、影治の望みの意味を光が口にする。
「あなたも――影治くんも殺し屋の意識のように――
救いが欲しかったんだよね」
「……救い……」
それは影治の望みの言い方を変えたモノだった。
確かに影治の望みは、影治にとって救いとも言えるのだろう?
「影治くん、私が救いをあげる。その前に言わせて。
わたしはね。あなたに選んでほしかった!
あなたに好きだってーー」
「言ったじゃないか! 俺は君に好きだと伝えた!」
「そうじゃないの。あなたに好きだって、選んでほしい!
私を選ぶ行動をしてほしい!
私は言葉よりあなたに選んでほしい!」
「わかった。ならーー」
「ううん、わたしはね。先にあなたのほしいものをあげる。あなたの欲している、気持ち、言葉を」
そして、光は影治の望みを言い当てる。
「影治くん、私も世界を救いに周る旅について行きたい。
私があなたの救いになる。
私はね、あなたが好きだよ。それが私の本心。
私はね、影治くんが一人で世界渡りの旅に行ってしまった時、寂しかったんだよ。
私も一緒に連れて行ってほしかった。
終わることのない救いへの旅? 三千六百五十七回の生まれ変わりすら超える世界渡り? 他の誰が選べなくても他ならぬ私がそれを選ぶ。
私ね。同調誘導された時、そこまでわかったんだよ。
たとえ、異世界全ての私が選べなくても、ここに居る私は選べる。
ここに今、たしかにあなたの隣、あなたの心の中という場所だけど、あなたの隣に存在している私は選べる。」
そう言って、影治に光が殺し屋から預かった世界剣を渡す。
影治はそれを受け取った。
そして、それは恐らく、今、ここから、共に世界を渡ろうという意味なのだ。
影治は涙を流しそうになる。本来なら泣いていただろう。
影治は涙をこらえ、泣くかわりに光に微笑む顔を向けた。
そして影治は、その答えとして剣を振り上げて言う。
「今、ここに世界渡りの覇王が世界剣を振るう。次なる場所へ、彼女とともに向かう道を!」
『ロードオブザワールド!』
世界渡りの覇王の――本来の持ち主の手に世界剣が渡る。
思えば世界渡りの覇王は、世界を救うために――世界のために世界剣を使い、世界を渡ってきた。
だが、今回は、自分の――いや、自分と彼女のために使う。
だが、その使用法は世界を救いに行くという――世界のためでもある。
世界渡りの覇王の望みは世界のためになった。
世界を救う。
それがやりたいことなのだから……。
だが、今度は世界のためが一番ではない。
自分達のためにすることが――彼女と一緒に世界を救うということが――たまたま世界のためになるのだ。
つまり、彼女が一緒に居てくれるから、世界渡りの覇王はそうなれた。
世界渡りの覇王は、今度こそ、心からそれを望み、彼女と共に世界を救う。
世界渡りの覇王は今度こそ、本当の意味で世界渡りの覇王になれたのかもしれない。
一人では重い王の役目も二人ならできるかもしれない。
いや、それは王ではなく――
二人は手を繋ぎ、その剣の作った次の世界への道の入口に入る。
孤独なオウサマは、本来の体というギョクザに戻り、自らの救いとともに世界を渡る旅に再び向かう。
救われたオウサマが救う世界は、今度こそ完全に救われるのだろう。
なぜなら、そのオウサマ自身という世界の一部も救われているのだから……。
そして、影治は光から世界剣を渡されたとき、涙をこらえられた。
その未来は影治が何よりも望んでいたものだからだ。
影治はその未来をラプラスの魔の力で知っていた。
それも予測された運命だった。
けれど、影治はそれを嫌だとは少しも思わない。
運命の通りに自分が動かされたのではない。
自分だから、そういう運命になったのだ。
運命が人を支配するのではない。
人が運命を支配するのだ。
だから、影治は歩いていける。
この先、どんな道が待ち受けていようとも、それは間違いなく光と自分の二人の道だ。
たとえ、三千六百五十七回の生まれ変わりすらも超える世界渡りが待ち受けていようとも、
ずっと一緒に居たいと心から願えたこの二人なら、どこまでも歩いて行ける。
それこそが果てなき想いの答えなのだから。




