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キラーズ  作者: 光坂 影介
救われた世界と世界愛の具現 第六章 救われる世界
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救われた世界と世界愛の具現 第六章 救われる世界2


 そして、いまだ、絶望などの悪い感情や想いは生まれやすかった。

 そして、殺し屋はそんな想いに嫉妬はしないので、そういう想いは殺されない。

 結果、悪い想いの割合が増えてしまった。

 もちろん、そうなることで、人間は醜いモノだと思う殺し屋もいた。

 それでも、そういう人もどこかで、その想いを発散し、汚い手段でも利益を得たので、再び善い想いを感じた。

 そして、殺し屋はその想いを殺す。

 その結果、その溜まっていく唯一残された悪い想いは悲劇を呼び起こす。


「あの地域の殺し屋の侵食率は凄まじいものだ」

「確かにあの地域の侵食率は凄まじい。逆にあの地域以外には覇王の民はいても、殺し屋はほとんどいない」

 そう、殺し屋は世界を渡った先の狭い地域から、ほとんどがそんなに移動せずに、その地域に留まっていた。

 そして、ある国の上層部が交わすこの会話も、会話自体は世界の行方を案じる普通の会話だった。

 だが、そこには黒く悪く醜い想いが入り込んでいた。

「だが、核兵器まで使っていいものか?」

「良くはないだろう?

 だが、殺し屋の意識の世界のように想いが枯渇するなんて事態になる前に手を打つ必要がある。

 殺し屋もこの世界を自分達の世界と同じ状況にはしたくないだろうさ?」

 そして、悪い想いは核兵器の発射スイッチを押す。

「待て! 国家元首の許可が必要なはずだぞ!」

「もう、遅い。サイは投げられた。憎き殺し屋を殲滅だ」

「待て! それに、殺し屋に核は効くのかの検証が済んでいない! 貴様、正気か!?」

「もう解除はできない。これで終わりだよ」

「やむを得ない! 覇王の民に連絡を!」



            ###



 核兵器がこの地域をターゲットにしていることを知った光は、殺し屋達をも巻き込んで、時間を得るために超常の力を発動させる。

「「光あふれる永遠の顕現」」

 殺し屋は久しぶりに目の当たりにする超常の力に、その効果を正しく理解していなかった。

 それを理解しようとしていると声が聞こえる。

「今、この地域に核兵器が向けられた」

「何!?」

「核兵器だと!?」

 殺し屋達は少し人間の世界で過ごすうちに核兵器の存在を知った。

 人類の武器の中で最強の破壊力を持つ兵器。

 殺し屋は自分達で自分達の数を減らすというその兵器の意義が理解できなかった。

 だが、自分達の過ごす場所のモノ達が標的にされたことは理解した。

 最強の兵器が自分達の過ごす場所に向けられる?

 なぜ?

 そんなことはわかりきっている。

 そして、殺し屋はこの時、自分達がしたことがどれだけ世界にとって悪で、どれだけ世界にとって恐怖なのかを知った。

 殺し屋は、かつての自分達の世界での失敗を繰り返すところだったのだ。

 自分達はそんなことがしたかったわけではない。

 自分達は人間と過ごすことで想いを取り戻したかったのだ。

「我らの行いは行き過ぎたのか?」

 殺し屋に核兵器が効くかはわからない。

 だが、殺し屋達は自分達の過ごす場所のモノ達がいなくなるのを良くないことだと判断した。

 殺し屋もこの世界で確かに過ごしたのだ。

 中には気に入ったモノもいたのだろう。

 中にはとことん嫌いになるモノもいたのだろう。

 だが、その全てを消すということは、好き嫌いという概念すらなくなる。

 気に入るモノがあるということは反対に嫌いになるモノもあるということだ。

 それは確かに何かを想う余地があるということだ。

 何もないということは自分にも何ももたらされないということだ。

 想いとは変わりゆくモノに――過ぎゆく時間に、変わりゆく変化とともに感じるものなのかもしれない。

 そう思った時、殺し屋は自分達を巻き込んで発動した超常の力の効果を理解し、一つの決意と共にこの超常の力から抜け出せるように声をあげる。

「我らは人間を助ける! この超常の力の主よ! その核兵器から人間を助けるために力を貸したまえ!」

 そして、光は彼らの前に姿を現す。

 殺し屋達は驚愕する。

 光には、まだ光の殺し屋が宿っていたのだ。

「そうか、殺し屋が見捨てぬ人間か。協力を願う」

「人間に味方していた殺し屋達は人間を見捨てたわけじゃないと思うよ。けどね、いいよ。核の凄さは知っているんでしょう? どうするの?」

 そして、その言葉に反応して、一人の殺し屋が剣を抱えて持ってくる。

「世界剣、ロードメーカー。これで核をなんとかしてほしい」

「これを私に渡したら、あなた達を倒すのに使うかもしれないよ」

「それも覚悟で渡す」

 殺し屋達は世界剣を殺し屋達打倒に使ったら人間も救えないことを言わなかった。

 光にそれができないことを知っていたのかもしれない。

 だが、本気でそうされてもしょうがないとも思っていた。

「でも、これ、影治く――世界渡りの覇王の許可がナシには使えないんじゃない?」

「そうだ。これは世界渡りの覇王の許可ナシにはただの剣だと知らされている。それに、同じモノには一年に一度しか使えない。ん、それもさっきのことも知っていたな? なぜ知っている?」

「ハハハ、私、世界渡りの覇王とは親しいの」

「まあ、いい。

だが、お前なら一年に一度の制限はクリアできるし、許可のかわりに我らの想いが戻るか、戻らなくても、今の我らにそれほどの想いを持つことができれば使えると聞いている。

 一年に一度の制限は消えないから我らには使えないが、我らの想いでお前に使って欲しい」

「っ……。でも、それほどの想いはあるの?」

「ある。我らは人間の可能性を、人間だった頃のあの輝きを思い出した」

「わかった。この超常の力を解くよ」

 光の超常の力は解け、現実に復帰する。

 核兵器が向かってくる。

 光は剣を振り上げる。

 光の柱が天に向かって伸びる。

 そして理解する。

 まだ、完全に救われていない殺し屋に、人を救える程の想いがあることを――

 そして――

「殺し屋達! この力――あなた達の想いだとあなた達に繋がることしかできない!」

「っ……。なら、我らの世界への道を開き、我らの世界に核とやらを送れ! 我らの世界ならそのくらい平気だ!」

 嘘だった。

 おそらく、殺し屋達が死ななくても、そこにあるモノは大損害を受ける。

 それでも、殺し屋達はそう決断した。

 世界剣なら――そして今の殺し屋なら、殺し屋の望む道ということで世界剣を振るえば、人間を救えたのかもしれない。

 だが、殺し屋は人間を確実に救うために――

 自分達がしたことの罰も兼ねて、それを驚きの後、すぐに決断した。

 世界渡りの覇王のように全てを守ろうとすると大切な一つを守ろうとする力が落ちるのかもしれない。

 だから、ほとんどの人が、大切な人ができると、その人を選び、その大切な人を守るために世界全てを守ることをやめてしまう。

 昔、誰かが言った。

 何かを守るということは、何かを守らないということだと……。

 たしかに、その通りなのだろう。

 両方に自分ではどうしようもないほどの力で別々に危険が迫った時、どちらかを守るということはどちらかを守らないということだ。

 それでも他の誰かに手伝ってもらう手もあるのだろう?

 だが、そうしたら、その手伝ってもらう人に、自分以上の強さを求めることになってしまう。

 その手伝ってもらう人に危険が及び、その人までも守れなくなってしまうのかもしれない。

 何より手伝ってもらうということは、自分で守らないということだ。

 そこで守らないということを選択してしまっている。

 それでも、世界を守ろうとするなら、それは――いや、世界渡りの覇王のやり方だと、正しさに従うということだ。

 世界全てを守ることが難しいなら――せめて、理不尽をなくす。

 理不尽という悪で世界が滅びるのを防ぐ。

 だが、勘違いしてはいけない。

 人が選んだ結果や、きちんと努力して誰かが得たモノ、それを理不尽と言うのは間違っている。

 例えば恋愛なら、みんなに好かれている人が一人を選んだ結果、他の人の想いが叶わなくても、その人が選んだ一人を何の妥協もなく、一番好きだから選んだのなら、それはその人の気持ちが優先される。

 だって、そうだろう?

 他の誰がどんな苦労をしたとしても、その人は選んだ人を好きになったのだ。

 たとえ、その人がその人の気持ちを尊重しないで、選ばれなかった人の言う平等で選んでも選ばれなかった人の望んだものは手に入らない。

 選ばれなかった人を選んだ理由が、一番好きだからではないからだ。

 選ばれなかった人が欲しいのは、その人の気持ちだろう?

 その人に好かれることだろう?

 なら、その人の気持ちに従うしかない。

 それはこの先、どんなに科学が発展しても強引に変えるべきではない。

 何かの科学で変えても、そこに想いはない。

 その人が好きになったわけではない。

 その強引な手段、科学の力でそういう作用が起きただけだ。

 それは恋愛感情ではない。

 吊り橋効果のように、恐怖と恋愛感情のドキドキが似ているようなものだ。

 その人の気持ちが欲しいなら、本当に最初から、その人に好かれるような人間になればよかったのだ。

 その人に早く会えなければ、そういう人間になりようがない?

 それは早く会った人に運があっただけだ。

 その運が理不尽?

 なら、その早く会って、早く好きになろうとした人よりも、遅く会った人が好かれるのは理不尽ではないのか?

 いや、それ以上の真実がある。

 今の自分というその人を好きになった自分が、その人のために自分でなくなるのはどうなのか?

 その自分を捨てるなら、文字通りその人を好きな自分を捨てることだ。

 だから、人は捨てるではなく、変わることを選ぶ。

 そうやって変わって、それでもまだその人を好きなら、それは自分なのだろう?

 だが、他にも事実はある。

 自分という人間は過去の全ての事実があるから、今の自分になり、その人を好きになったのだ。

 もちろん、その人に選ばれた人より後にその人に会ったことも含めてだ。

 いや、後でも先でもいい。

 その過去があるから、自分はその人を好きになったのだ。

 その事実を理不尽だと言うなら、その人を好きになったことを理不尽と言うことに等しい。

 つまり、それを理不尽と言うなら、言い方をひどくすると、その人に選ばれた人間に生まれ変わって出直してこいということだ。

 その人に選ばれた人間だって、選ばれた人の全ての過去があって選ばれたのだ。

 つまり、選ばれたいのなら、性格から人格から、果ては自我までその人になるしかない。

 それが無理なら、理不尽だと言わずに努力して変わるしかない。

 自我までその人になれと言われるより、理不尽ではないだろう。

 だが、その人に選ばれるには、その難しいことをする努力が必要なのだ。

 それでも、まだその人の好かれる人間になりたいと思えるのなら、それが想いだ。

 それほどの想いがあるなら、まずはそれだけで魅力的だ。

 そして、それほどの想いがあるなら、それを理不尽には回さないでほしい。

 その人に選ばれた人は、他の誰にでも努力をしていないように見えても、選ばれる人間になるだけの過去があったのだ。そういう自我を持っているのだ。

 選ばれた人間を否定することは、選んで欲しい相手の想いを否定することだ。

 それ以前に、相手は選ばれた人を好きになったのだから、自分は少なくともその人のようにならなければいけない。

 その目標を否定したら、なれるわけがない。

 それは文字通り、目標を否定することだ。

 言い換えれば、選ばれる人になりたくないということになるかもしれない。

 たとえ、選ばれた人を否定したくても、確かに選ばれたのだから、少なくとも選ばれた理由がある。

 その理由を理解し、少なくとも選ばれた人以上に選ぶ人に選ばれなくてはいけない。

 たとえ、それが魅力的でなかったとしても選ばれたいならそうするのだろう。

 そこから人はその望みによって分かれる。

 好かれたいなら好かれようとし、選ばれたいなら選ばれようとする。

 そして、だからこそ、必ずしも魅力的な人が選ばれるわけではないのだ。

 選ぶ人が魅力的な人を選ぶとは限らないから……。

 それが嫌なら、相手に魅力とはなんなのかを気付かせ、魅力的な人を選べるようにするしかない。

 だが、それが好みならしょうがない面もある。

 他の人にとっては欠点でも、選ぶ人にとっては長所ということもあるのだ。

 ダメな人が好きな人だっているのだ。

 だから、好かれようとするのかどうかの選択がくる。

 好かれようとするなら、自分を好かれる人間に変えなくてはならない。

 他の大勢に好かれなくなる代わりに、その人に好かれるように自分を捧げる。

 それができるかどうかを問われる。

 自分とは合わないと諦める人もいるだろう?

 仮に選ばれて、一緒にいるうちに合わないと感じることもあるのだろう?

 だが、そこで諦めない想いがあるなら――自分が感じた不思議な胸の高鳴りを信じられるなら――その高鳴りの理由を知り、他の全てが合わなくても、ただ一つの理由で相手を好きなこともあるのだろう。

 自分の想いをどこまで信じられるか?

 その想いを信じ続ければ、理解できなかった先の不思議な力で、もしかしたら人間にはまだわからないこと――死んでからも一緒にいられるかもしれない。

 そして、その想いを信じることができた人が、前に述べた好みというどうしようもないことさえ乗り越えられるのだろう?

 そこが科学ではできない。

 想い。

 不思議な力なのだ。

 人はそれを運命と言うのかもしれない。

 もしかしたら、好みまでも選ばれる条件を満たしている人は運命に愛された――以前――前世などのまだ人間にわからないところで、その想いを持ち続けたのかもしれない。

 そういう不思議な力を持っているのかもしれない。

 その運命に立ち向かうなら、その想いに勝てるほど正しい力で立ち向かうしかない。

 だって、相手はそのすごい想いを持っていた可能性があるのだから……。

 そして、殺し屋はそれを科学的に解明して、それを自然にすることを諦めて――強引な神秘に頼った。

 本当は、それを科学は使わずに言葉と心でやるべきなのだ。

 そして恋愛感情がわかりやすいかと思って、そう説明したが、話を戻すと、つまり誰かを守ることでも、それでも守れないなら、それは正しい――人がいつか死ぬように避けられない運命なのだろう。

 そんな非情な選択。

 だが、世界渡りの覇王は殺し屋と違って、悪く言えば大切な人達に強く正しくあることを強要して、良く言えば大切な人達を――その人達の強さと正しさを信じて――正しいモノを守ることで守れる対象であると信じて――その大切な人達が自ら助かることを信じて、その手伝いをしている。

 親しくて信じられるほど関わっているからこその選択。

 だが、そのどちらでもない殺し屋はその選択を選ばなかった。

 それでも、助けたいと思った。

 救いたいと思った。

 僅かな間でも見た――醜いモノの中でも――

 自分達が妬むほどの輝きを守りたくて――

 そして、光は世界剣を振るう。

『殺し屋の奇跡的な想いをもって世界剣を振るう!』


『ロードオブザワールド!』


 世界剣は殺し屋の世界への道を開き、核兵器を殺し屋の世界へと送る。

 殺し屋達はその後、できるだけ想いを返し、人に許しを与え、想いを――世界を――輝きを元に戻して自分達の世界に帰っていった。

 世界へと続く道を作る。

 それは世界剣の本来の使用法だった。



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