救われた世界と世界愛の具現 第四章 それしか知らぬ殺しを請け負うモノ2
世界渡りの覇王が行動に出ることを決意した時、人間の世界の一琉影治にも、世界渡りの覇王の思考が流れ込み、全てを理解した。
そして、それがわかるということは一琉がだんだん世界渡りの覇王と一つになってきているということでもあった。
絆達に頼み事をした後、一琉達はリンクしたもう一つの人間の世界から元の世界に戻り、部室でいろんな場合に備え、対策を立てる毎日だった。
その隣には当然のように光がいた。
「影治くん? どうしたの?」
光は影治がまだ何も言っていないのに異変を感じ取った。
影治はその直後、ふらつき、膝をおる。
「「影治!?」」
そこには義之と清二もいた。
影治の知り合いの覇王の民は、他にもいたが、平日であることもあり、同じ学校の人しかその部室にはいなかった。
「殺し屋が攻めてくるかもしれない」
「殺し屋? 他の覇王の民か!? どこのどいつだ!?」
「ハハ、違うよ。義之。……いや、ごめん。……言い方が……悪かった。殺し屋の意識が……だよ」
「「殺し屋の意識が!?」」
驚いたのは義之と清二だけだった。
だが、そのことは誰も指摘せずに話が進む。
「全ての覇王の民に連絡して、政府と一緒に対策を!」
清二がそう言う。
疑いはなかった。
光があらかじめ、影治は世界渡りの覇王とまだ繋がっているから、何かがあったらわかると思うと言っておいたからだ。
光は一琉を心配して問う。
光にとって、それは確認だった。
「大丈夫? どんな風に調子が悪いの?」
「少し……いや、大分眠い」
「そう? 今日は帰って眠りなよ、影治くん。送っていくよ」
光はあらかじめこの時のために用意していた言葉を言う。
一琉は心のどこかで、それをわかりつつ答える。
「うん。……ありがとう、光ちゃん」
「二乃部さん、全ての覇王の民への連絡と指揮は君がやった方がいい。君も世界を動かした一人だ」
清二がそう言うが、光は戸惑いながらも答えをひねり出す。
「ごめん、連絡はすぐできるからするけど、指揮は愛ちゃんとかに任せる。大好きな人のすることを止める役を譲るみたいになるのは悔しいけど、こっちの影治くんを休ませてあげないと……」
愛とは影治の元想い人。
五橋愛。
愛情の殺し屋と契約している覇王の民だ。
愛は事情があって、影治が光と出会う前に影治に告白されてフッたのだが、事情があってフッただけで、今でも影治のことが好きだった。
愛もかつて、光や清二達とともに世界渡りの覇王を止める戦いに参加したので、清二達も含めて、世界を動かした人の一人とも言えなくもない。
ただ、実際に止めたのは光なので、光の方が騒がれているだけだ。
「でも、彼女が引き受けるかどうか」
「大丈夫。今度はあなたが、影治くんのすることを止めてみたらって伝えれば引き受けるから……」
「いや、でも……」
清二が渋っている間に光は、光の殺し屋の力で覇王の民に連絡する。
『全ての覇王の民に告げる。もうすぐ、殺し屋の意識達が攻めてくる可能性が高まった。各自、戦闘の準備を整え、指示を待て! なお、戦闘の指揮は愛情の殺し屋が務めることになると思う。詳しくは後ほど、別の者が連絡する』
そして、愛にまで電話する。
「あ、愛ちゃん? 連絡聞いた?
そういうわけだから、指揮をお願いね?
えっ、事後承諾なんてふざけないで?
大丈夫? 影治くんのすることを止めるのをまた私に任せちゃっていいの? 一応、花を持たせてあげようとした私の配慮だったんだけど?
ハハハ、ありがとう。
じゃあ、今度はあなたが、影治くんのすることを止めて見せてよ。
うん、じゃあね」
光は電話を切る。
義之がポカンとして光の名前を呼ぶ。
「二乃部さん……」
「そんな顔しないでよ。火村くん。じゃあ、私、影治くんを送ってくるね」
光は一琉を連れて、さっさと部室を出て行ってしまう。
部室を出た途端、影治が聞く。
「いいの?」
「いいの。止められたとしても、まさしく大好きな人のする(、、)こと(、、)を止める役を譲るみたい(、、、)に(、)なる(、、)だけだから――」
「そうじゃなくて、世界渡りの覇王に敵対するみたいになって――」
「私は敵対とは違うようなものでしょ? 似たようなことをしてるだけだし……」
「そうだね。……ごめん、光ちゃん。本当に……眠い」
光にそのごめんは響いた。
だから光は言う。
「任せて、影治くん」
影治は、光に家の前まで送ってもらった。
光を一人で帰すことが少し心配だったが、今はまだ日が出ているし、影治はすごく眠い。
何かあっても、邪魔になるだけだろう。
だが、眠い中でも、問題の解決策を考えていた。
せめて、絆達がこちらの世界に帰る手段だけでも――
そうだ、殺し屋の意識の世界にかつていた人達の郷愁で――
そう思ったところで、影治は倒れこみ、眠る。
意識が引っ張られる。
そして、世界渡りの覇王の中に意識は飲み込まれた。
影治の体は、まるでこうなるのがわかっていたかのように、自然にベッドの上に倒れ込んでいた。
そして影治の思考は、確かにそこに至り、その救いは、殺し屋の世界にかつていた人達の子孫に夢となって作用した。そして郷愁は想いとなり、世界渡りの翼の羽を殺し屋の意識の世界の森にもう一度出現させる。
そして、それは殺し屋の意識の世界のナナに伝わる。




