救われた世界と世界愛の具現 第三章 向き合う事実を刻む世界2
穴を出ると少し遠くから声がする。
「根性~~!!」
急いでそちらに向かう。
根性と叫びながら、重いものを持ち上げる。
二人の目に最初に飛び込んできたのは、そんな熱血な場面だった。
「絶対、助けるぞ~~!」
どうやら、何か下敷きになっているモノを助けようと、上にあるものをどけようとしているようだった。
「「手伝います」」
二人は迷わず手伝いに入る。
「助けるんだろう! 根性見せろ!」
「「「「うお~~」」」」
どう見ても、普通ならこの人数では動かないモノが動いた。
助けたいという想いが、実力以上の力を発揮させる。
それは、ある意味、想いの力が存在する証明だった。
重いものは動き、下敷きになっていたモノが助かった。
「助かったぞ!」
「「「「「おお~~!」」」」」
だが、想いの素晴らしさを――いや、想いがあることを実感できるのはそこまでだった。
助かった小さな殺し屋は、大きな殺し屋に付き添われて、獣の姿をした殺し屋に乗る。
「近くの城まで頼む!」
「了解」
今まで散々感情論を訴えていたのに、できるだけ早くとか急いでいることを伝えないのかという疑問を抱え、絆がそうしようと口に出す。
「念のために急いでくれ!」
「足にダメージがくる恐れがある。無理をしない程度に最善を尽くす」
そう言って、獣の姿をした殺し屋は助けられた殺し屋達を乗せて走り去る。
「なんだ? アイツ?」
「ああ、アイツは許されていない処罰対象だな」
「「処罰対象?」」
絆と友子の疑問が重なる。
「なんだ? 救いを知らされていないのか? 我らの想いは許しを得ることで殺された想いの封印が解ける。つまり、許されない(、、、、、)限り(、、)、想いは戻らない」
「「なっ……」」
「そんなことが有り得るのかい? 全ての人が許せば、世界は救われるのだろう?」
「そう簡単に許せるか?
自分の身近なものに危害を加えたモノを――大切なモノを奪ったモノを――また自分の大切なモノを奪うかもしれないモノを――少なくとも、想いがまだ完全に戻っていない世界で、それが最善だと判断されなければ、戻らないさ」
「最善……か。殺し屋はまだそんなことのために、想いを許さないのか? 想いを許す方が力を発揮できるなら、それが最善だろう!?」
「それを許されるのは、まさしく許されたモノだけだ。
想いは悪い方に働く場合もある。予想以上に力が出せなかったり、悪い事に力を使ってしまう原因になったり、想いを果たすために結果的に誰かが損をして自分は想いを果たす以外の利点がないのにそれをしてしまったり……。
それを判断するのは想いを実際に殺したモノだ」
確かにそういうこともあるのだろう?
人間の世界の犯罪でも、動機というものはあるし、犯罪捜査でも調べるようになっている。
その動機が、強い想いのためという人も多いのだろう。
あるミステリーマンガの途中で出たデータをまとめたファンブックでは、そのマンガの殺人事件の動機で一番多かったのが復讐だ。
あんな想いはしたくなかった。
二度とこんな想いはしたくない。
そこまでは間違っていない。
だが、復讐に気持ちがいってしまう人は、そこから間違え――いや、その想いを晴らすために悪い方法を選択してしまう。
それも想いだ。
人間の世界では、そこに法律がある。
そこで法律で裁いてもらうという、それがたとえ難しくても、その難しい方法を諦めなければ、その人は罪に染まらない。
罪のハジマリは諦めによる悪い方法の選択なのだ。
だが、殺し屋の世界に法律はないのかもしれない。
法律がないのなら、その想いの主が復讐で誰かを処罰してしまうこともあるのだろう?
だが、その対象が本当に、その復讐すべき相手である保証はない。
それどころか、殺し屋の世界の理屈でいうと、それが誰にもメリットを与えない。
ただ、その対象が死ぬだけで終わる可能性はたしかにあるのだ。
そう考えると、法律とは本当に良くできている。
家庭裁判なら、罪のせいでマイナスになったモノを、罪を犯した主に責任を取らせることで、罪を犯した主には正当な処罰と弁明の機会を、罪によって被害を受けたモノには、賠償による被害を和らげるための処置がある。
裁判とは本当は罪を犯したモノにとっても、罪によって被害を受けたモノにとっても、一番救いになるモノなのだ。
それが正当に行われさえすればだが……。
なら、法律がない殺し屋の世界で、罪によるマイナスのみの結果を防ぐために想いを殺し、許さないのは正しいのか?
「そんなわけがないだろう!」
そう口にしたのは意外にも友子だった。
絆も同意だったので口を開く。
「想いは自分のモノだ。
うまくいかないことがあったり、辛いことがあったり、不幸な理不尽があったりしたときに、唯一、残される救いだ。
その想いという何かを起こす原動力になるすごい力、それが納得できないという形でも確かにあるから、世界にその現象が一度落ち着く。
その想いを使って納得できる形にするために! それすらも奪うとはどういう了見だ!」
「わかっていないな。
そういうモノ達が想いを殺し、理不尽を与えたモノを許さないのだ。つまり、一種の復讐だ。……だが、そういえば、殺し屋は――だと? お前、まさか人間か?」
「そうだと言ったらどうする?」
「まさか、絆の殺し屋の契約者と友情の殺し屋か?」
「そうだ。俺達は――」
続きを言う前に、それを遮られる。
「あの裏切り者か!」
「なに! あの裏切り者だと!?」
「おい! こいつら、あの裏切り者らしいぞ!」
その声を聞いて、周りのモノが騒ぎ出す。
裏切り者?
絆達は戸惑う。
自分達は――
そこまで思ったところで、自分達の行いを自覚する。
殺し屋の世界のために、人間の世界に行ったのに、自分達が平和に暮らしたいという想いのために、世界や殺し屋を振り回して、挙句の果てに、安全に暮らすために殺し屋を自分達の世界から排除しようとした。
結果は違っても、明らかに裏切り行為だ。
そう、たとえ本人達が裏切りつもりではなかったとしても……。
もしかしたら、殺し屋はそのせいで、想いを持たせることを怖がっているモノがいるのかもしれない。
それは想いゆえの奇跡だった。
想いを持っていたから、自分達を裏切った者がいる。
そして、自分達が想いを持ったから、絆達を裏切り者と罵る。
悪い意味の奇跡。
そんな奇跡と呼びたくない――いや、奇跡とは呼ばない悪いことも、確かに起こりうる。
でも、それでも、それと同じくらい――いや、それ以上に想像以上のいいことも起こりうる。
そう伝えようと口を開く。
「それでも――」
だが、殺し屋はもう聞く耳を持っていなかった。
「裏切り者の言葉に耳を貸すな!」
「「「「そうだ! そうだ!」」」」
かろうじて引き出した言葉は――
「重役達に言い訳してみろ。まあ、納得してくれるとも思わないし、してくれてもそんな重役達に他の殺し屋達が従うわけがないが……な」
そんな拒絶の言葉だった。
それでも、話を聞いてくれるという怯えながらも伸ばす手のような些細な歩み寄りはあった。
絆達はその手をどう掴んでいいかわからないながらも、行動としては重役達に話をしに行く。
たとえ、この世界を最後まで救おうとして救いを与えることまではできた世界渡りの覇王を敵――いや、相手にしていようとも……。




