救われた世界と世界愛の具現 第二章 もう一つの世界4
「あれ? 確か、この学校のはずなんだけど……」
一琉達は、一琉達の通う学校とは違う学校に来ていた。
けれど、待ち合わせの場所に二人が来ないようだ。
一琉は提案してみる。
「とりあえず、中を探してみるとかは?」
「う~ん、じゃあ、探す? でも、どこから?」
「屋上からとかどう?」
「なんで?」
「上から下に探して行けば、また入口に戻るんじゃないかと……」
「アハハ、変な理由だけど、いいね。じゃあ、行こっか?」
そうして、一琉達は屋上に行く。
最初に目に飛び込んできたのは、鮮やかな夕焼けの色だった。
「綺麗な夕焼けだね」
「そう……だね」
一琉達がその夕焼けに見惚れていると、横から声がかかる。
「この場所が私達の出会いの場所だったんだ」
そちらを見ると、男子生徒を膝枕している女子生徒がいた。
「と、友子!?」
「えっ!? この人が?」
「すまなかった。絆が眠っちゃっていたから、待ち合わせ場所に行けなかったんだ……」
女子生徒は、少し小悪魔っぽさとボーイッシュさを感じさせる顔立ちに、髪が長く、背丈は普通、胸はそれなりという外見だった。
男子生徒は、少し子供っぽさを残しているが格好よい顔立ちで、髪は無造作ヘア、背丈は普通という外見。
「ほら、絆。いいかげん、起きたらどうだい? というか、少し前から起きていて、さっきの言葉は聞いていただろう? 今の一琉影治に何か感想は?」
女子生徒――友子がそう言うと、男子生徒――絆は目を開け、起き上がる。
どうやら、本当に起きていたらしい。
「何か、用があるんだろう? 本当は、これ以上、殺し屋に関わることはしたくなかったが、さっきの言葉を聞いて、気が変わった。今のお前に、この夕焼けの良さがわかるなら協力しよう」
「ハハハ、素直に言ったらどうだい? 世界渡りの覇王の方に借りが多いから、敵対するようなら協力したくなかったんだろう?」
「友子!? それは言うなと言っておいただろう!」
一琉はその心配をしない。
光ちゃんが一琉達の戦いにそこまで巻き込ませるとは思えない。
光ちゃんがそれを肯定するように言う。
「私が世界渡りの覇王に本当の意味で敵対するなんてありえないってわかっているでしょ? まずは確認してきて欲しいの」
「確認だと?」
「何をだい?」
「殺し屋の意識の世界に本当に救いが与えられたかどうかを」
その言葉に二人は少し動揺する。
だが、すぐに落ち着いたようで、絆が問いかける。
「もう救いが与えられたのか? 確かに俺達の役目だったから、断りづらいが……」
絆は友子の方を心配そうに見る。
友子は微笑んでから言う。
「ナナまで巻き込んで、あの世界を救ってくれって言われていたからね。私は元からそれを放っておくつもりはなかったよ」
「そうか。わかった。引き受ける」
絆は友子の返事を聞いてから、こちらを向いてそう言った。
「あちらに行く方法とか協力した方がいいことはある? それとも全面的に――ううん、全面的に信じるから、何か協力してほしいことがあったら言って。
私達はまたこちらで動きがあった時に対処できるように残るから」
「ああ、アイツがまた来た時、アイツを救えるのはお前だけだろうからな。いや、たとえ違ってもアイツはお前に救ってもらいたいんだろうな」
「うん、頼むよ。それぞれ、救うはずだったモノを救おう」
救おうと動くモノが増えた。
それはある意味、世界渡りの覇王の仲間が増えたということだ。
つまり、孤独なオウサマが一人でなくなった救いのハジマリなのかもしれない。
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彼がやろうとしていることの準備をしつつ、世界渡りの覇王は思う。
俺はそう思っていると認めるのに時間がかかったけど、心のどこかで世界は一つでなくてはいけないと思っていた。
だが、それは妥協した。
なら、譲ってはいけない正しさとは何か?
それこそが世界が繋がっていることだ。
それはある意味、世界が一つであるとも言える状態だ。
そうだと言えなくても、俺が孤高なのは、俺が他の人に渡れない世界も渡れるからだ。
なら、全てのモノが世界を渡れるようにすればいい。
そうすれば、俺はトクベツではなくなる。
彼はトクベツを嫌った。
自分だけということを嫌った。
彼がトクベツになりたいのは、好きな人――二乃部光にとってのトクベツだけだ。
いや、それになりたくて他を見ていないだけなのかもしれない。
それになれれば、また次になりたいトクベツがあるのかもしれない。
けれど、彼は全てを捧げて、そのトクベツを目指す。
他のトクベツを持ったら、それになれない気がして……。
もう、とっくに二乃部光は彼を好きなのに……。
ただ一緒にいられないから違うと思う。
ただ一つの例外、世界を救えるというトクベツに気付かずに……。
いや、世界を救いやすいというトクベツなのかもしれない。
誰もそれをしようとしないから、彼がトクベツになったそれを――
世界を救うのをやめられない。
救いが必要な世界を放っておくなんて選択肢は存在しない。
彼はどこまでも世界と、その一部である二乃部光を愛していた。