世界渡りの覇王 第一章 世界のクリエイター1
「ダニエルくん、ライン(、)さん……」
ダニエル・シュヴェルツェ・フォーゲルヴァイデ、ラインヒルデ・リヒト・ハイゼンヴェルク、それがこの病室で眠っている二人の名前だ。二人とも銀髪のドイツ人。
大掛かりには公表されていないが、この世界には殺し屋と名乗る意識がある。
何かの感情を殺す、いや、想いを殺すと言った方がいいか……。
例えば、感情の影、悪い事をしようとする想いなどを殺す。それが影の殺し屋。
俺はその意識を体に宿し戦う者だ。そういう人のことも殺し屋と呼ぶ。
その意識を体に宿すと、人は並外れた身体能力と戦いに必要な武術などの知識を得ることができる。
他にも武器を召喚したり、おもちゃの武器を本物の武器っぽくしたり、アニメやマンガ、小説みたいに炎を操ったりする異能の力を使うこともできる。
中には何かの想いを殺すのではなく、殺し屋の名を司り、殺しを行う者もいる。というか、俺の近くにはそういう人の方が多い。そういう者達は何かをしようとする想い――つまり戦おうとする想いなどを殺し、他の殺し屋と戦う。
政府はそういう人達を研究し、試合形式で戦わせ、援助していた。
そして、この病室の二人とは試合で戦い、それ以来、友達になったのだ。
だが、二人は六堂絆という絆の殺し屋に、この世界との絆を殺され、意識不明の状態に陥っている。
ふっと、ノックの音がした。
返事をすると、誰かが入ってくる。
「あれ? 影治くん、来てたんだ?」
「一琉くん、おはよう。どう? 二人の様子は……」
先に俺の名前を呼んでくれたのが俺の好きな人――いろいろあって告白(、、)を(、)保留にされているが、一緒にデートに行ったりするのは受けてくれている女の子、二乃部光ちゃん。見た目はさらさらの長い黒髪に胸の大きな女の子。
それと、保留にされたのは告白をだ。
俺が告白する前に、それを遮って、告白の言葉を考えてから、もう一度お願いと言われた。多分、両想いだ。ちなみに光の殺し屋だ。
そして、その後に俺の姓を呼んでくれたのが五橋愛さん。
俺がかつて好きだった女の子だ。
理由があり振られたが、実は俺のことが好きだったらしい。だからと俺の光ちゃんへの愛情を殺そうとした。
その結果、それを庇った光ちゃんの愛情を一時的に忘れさせてしまった。
だが、俺が本当に光ちゃんを好きなことを知り、今は俺に協力してくれている。ちなみに愛情の殺し屋。
見た目は胸がそんなにないが、その分、引き込まれそうな程、綺麗な眼の女の子。
五橋さんとダニエルくんとラインさんは違う学校に通っているが、光ちゃんとは同じ学校に通っている。
それとダニエルくんは闇の殺し屋、ラインさんは灯りの殺し屋だ。
俺の学校の殺し屋は、世界探求同好会という同好会に所属している。
今は『想いぶつかる時』という大会みたいなもののために殺し屋の力を研究し備えている。
ちなみに、この大会みたいなものの主催は政府ではなく殺し屋の意識であるらしい。
この同好会のメンバーは他に、理想の殺し屋・月城清二、真実の殺し屋・火村義之、研究・作戦などのメンバーがいる。
この大会みたいなものでは優勝した人の願いを、殺し屋の意識が叶えてくれると言われている。
さらにこれでは、卑怯な行動が禁止されている。
当然だと思うかもしれないが、どんなことでも手段を選ばない人はいる。そういう人に対して、願いを叶える存在が提示するルールで卑怯な行動が禁止されるのは大きい。
そういう存在が提示するルールを無視すれば、願いを叶えてくれなくなるかもしれないのだから……。
さらに、これでは勝者の要求にできるだけ応じることが決められている。
俺達はこれで、ダニエルくんとラインさんの意識を取り戻すことを目的にしている。
優勝できれば、それ自体を願い、優勝できなくても六堂絆さえ倒せれば、意識を戻すことを要求できる。
俺達にはこれに――少なくとも六堂絆に勝たなければならない理由があった。
「二人は変わらずかな。それにしても、二人が一緒なのは珍しいね? どうしたの?」
「ちょっとね、少し話をして、名前で呼び合うことにしたの。ねえ、愛ちゃん?」
「そうだね。光ちゃん」
俺は驚きを隠せなかった。
なぜなら、五橋さんは光ちゃんの愛を殺そうとし、結果的に殺しはしなかったが、忘れさせてしまったのだ。
まあ、今は思い出しているけれど……。その二人が・・・・・・。あれ? どうやったんだっけ?
「でもさ、他にも何かあった気がしない? 愛ちゃん?」
「えっ、そうかな。私がいろいろ言ったから、光ちゃんの気持ちもわからなくもないけど……。一琉(、、)くん(、、)はどう思う?」
「えっ、いや、どうかな? 最近、ダニエルくんやラインさんのことがあったからショックが大きいだけじゃないかとも思うけど……」
「う~ん、そうかな?」
光ちゃんは携帯を取り出しながら言う。
そして、携帯を見て、状況を確認する。
「とくに何(、)も(、)ない(、、)みたいだけど……」
光ちゃんがそう言うと、ノックの音がして誰かが入ってくる。
入ってきたのは俺達の同好会の先生と、清二と義之だった。
「一琉、二乃部、私にお前たちへの話がある」
「影治、二乃部さんに、五橋さん!? ここに居たんだ?」
「おはよう、影治、二乃部さん、五橋さん」
それに俺達が返事をする。
「「「おはようございます。先生、(月城くん)清二、(火村くん)義之」」」
「おはよう。早速なんだが、政府が定期的に行っている試合の方の次の対戦相手だったハイゼンベルクとフォーゲルヴァイデが意識不明なので……。
二人の代わりの対戦相手が決まった。落ち着いて聞いてほしい。
絆の殺し屋・六堂絆と友情の殺し屋・七瀬友子だ」
「そんな! 急すぎる! 私もライン達と一緒に元の対戦相手の一人だったでしょう? 私は嫌ですよ! 彼らと共闘なんて!」
五橋さんが怒り、言葉を吐き出す。
本来、五橋さんは俺達のようなチームみたいなものに属していないのだろう。それでも、ダニエルくんとラインさんとは友達なので共闘をよしとした。
その共闘相手の代わりが、二人を意識不明にした相手だというのだ。
そんなのなんて嫌に決まっている。
「そう言うだろうということで、五橋は今回の対戦相手から外された。向こうは二人でも構わないそうだ」
「……っ、つくづく舐めてますね」
「でも、今回の試合、『想いぶつかる時』の前に決まっていたことじゃないですか。
想いぶつかる時に影響するとか考えて、政府の試合ももっと検討してから決まると思ったんですが……」
先生の言葉に俺が感想を言い、清二が冷静に質問する。
先生が少し考えてから口を開く。
「それでかもしれないな……。今回の試合はお互いの準備ができるまで時間をとって構わないそうだ。あまり時間をとりすぎるのはダメだが多少なら時間に余裕がある」
「それなら逆に好都合とも取れるんじゃないかな? 準備を万全にして、早くラインさん達を助ける機会が得られたと思えば……」
光ちゃんが前向きな意見を言う。
準備をする時間がある上で、対戦が組まれるのを待つ必要がないということだろう。
そうなったらそうなったで、みんなは次のことを考え始めた。
義之がまとめ始める。
「なら、問題はどうやって勝つかじゃないか?
現状の異能の技は影治の炎を操る技、二乃部さんの相手を凍りつかせる技、俺の殺し屋の力による身体能力などの基礎的な能力の上昇を無効化する技、清二の異能の技を無効化する技……か」
そう、俺達はそれぞれ異能の技を得ていた。
手っ取り早く相手を倒すならそれだろう。
「なあ、俺の異能の技を無効化する技で意識不明にさせる能力をなんとかできないのか?」
「それは無理だろう? 意識不明にする能力は殺し屋としての基礎、ある想いを殺す能力だ。同時に火村の能力の上昇を無効化する技を使って効くかどうか……」
清二の希望的な意見に先生が現実を突きつける。
その両方の技が使えたとしても、そうなったら殺し屋の力の全てを封じるようなものだ。
戦いにならないだろう。
「あっ」
「うん? どうしたの? 光ちゃん?」
「えっ、ううん、なんでもない」
光ちゃんが何かに気付いたみたいだったが気のせいだったようだ。
その後、対策を考えているのか、みんなが無言になり、沈黙が訪れる。
いつまでも沈黙していてもしょうがないと思ったのか、先生が口を開く。
「まあ、とりあえず、考えておいてくれ。新しい異能の技の開発なんかもすれば、なにか突破口が開けるかもしれないだろう?」
先生はそう言うが、さすがに異能の技の開発ができるほど時間を取ることができないだろうことはみんながわかっていた。
それでも、みんなが病室をあとにした。
この病院から学校までは少し遠いが、話をするなら、病人の前ではなく、部室でしようということになった。
まあ、その場合、五橋さんは学校が違うから話に加われないが、いい案があったら教えてくれるだろう。