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キラーズ  作者: 光坂 影介
救われた世界と世界愛の具現 第一章 覇王の帰還
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救われた世界と世界愛の具現 第一章 覇王の帰還3

「俺は世界を救い終えた。いや、もう救いは与えた。あとは世界を繋げ、世界がそれを使い、救われるだけ……。俺はもうすぐ君のもとに帰れる。だから、今度、会った時は協力してくれ……」

 開口一番、一琉は(ひかり)ちゃんにそう伝えた。

 場所はかつての部室。

「っ……、(えい)()くん、戻っ――」

「って、世界渡りの覇王が伝えてくれって」

 光ちゃんの言葉を遮って伝言だと明かす。

このまま、世界渡りの覇王になりきって話を進めれば、光ちゃんももう言い逃れはできないのだろう。

でも、それは少し誠実ではない気がする。

そして、光の言葉に意識を向ける。

影治くん……か。

 こんな時に、たまにしか呼んでもらえない名前で呼ばれるのを嬉しく思うと同時に、腹立たしかった。

 嬉しいと思った自分も、そしてそう呼ばれたことも……。

 思えば、光ちゃんは世界渡りの覇王のことがちらつく度に、一琉をそう呼んでいたのだろう。

 もしかしたら、光ちゃんが好きなのは一琉ではなくて……。

 そんなことを考えている間に動揺して、どう答えようかを迷っていた(ひかり)ちゃんが覚悟を決めたように口を開く。

「誤魔化してもムダ……だよね?

 一琉(いちる)くんも(えい)()くんのフリをして、話を続ければ、私を言い逃れできない状況にできたのにしなかったもんね?

 だから、私も誠実に答えるよ」

 こんなところにも、一琉の不安を裏付ける言葉が……。

 でも、一琉は気付かないフリをして続ける。

「俺達は騒動を起こし、それを光ちゃん達が止め、過ちを正し、世界を正しい状態にするように訂正して、俺はその関係で、俺を残して、世界を渡り、救って回る旅を始めたって聞いたよ」

「うん、その通りだよ。他には何を聞きたいの?」

 一琉はささやかな抵抗として、世界渡りの覇王のことも、俺と呼んだ。

 だが、それを気付いてはもらえなかった。

 気付いてもらえなくても、文句は言えない。

 それを咎めたいなら正々堂々と――でなくてはいけない。

 でも、今、それは本題ではない。

「光ちゃんの口から、光ちゃんの目線で詳しいことを教えて欲しい」

「……それは……それはもう少しだけ、……もう少しだけ待ってくれる?

 これはね。実は影治くんの親しい友達のほとんど全員の問題なんだ。だから、相談したい」

 一琉はそれに驚きはしなかった。

 それどころか、先回りをしていた。

「わかった。

じゃあ、俺は今のところは部室を出て行くよ。みんなはもう呼んである。

まあ、部活をやっていた頃のメンバーだけだけど……。でもさ、もうこういうのは最後にしてね?」

「うん、大丈夫だよ。……その前に確認させて、影治くんは一琉くんの前に現れたんだよね?」

「うん、そうだよ。まあ、その時に殺し屋とか超常の力を見せてくれなければ、信じられなかっただろうけどね」

 一琉は光ちゃんの大丈夫という言葉を信じて、立ち去る。

 もう二度と一人にはならないと信じて……。



            ###



「世界渡りの覇王の方の影治が現れた?」

「うん……そう言っていたよ」

「この世界にいる影治が言っていたのかい?」

 義之(よしゆき)の確認に光が答え、清二(せいじ)がさらに確認する。

「うん、それでまずは一つ。……本当だと思う?」

「そんなの……。待って、二乃部(にのべ)さん、世界渡りの覇王の方の(えい)()は、何しに来たの? 戻ってきたんなら、一番に二乃部さんに会いに来るんじゃない?」

「いや、この世界の自分の体で会わないと戻ってきたことにはならないだろう。それより、この世界の影治は、なんでそれを信じたんだい?」

 (ひかり)が問い、義之(よしゆき)が疑問を口にし、清二(せいじ)が核心に迫る。

 核心に迫っているのが清二という点はいつも同じだ。

「殺し屋や超常の力を見せてもらったんだって、あと、私に伝言」

「なんて?」

「俺は世界を救い終えた。いや、もう救いは与えた。あとは世界を繋げ、世界がそれを使い、救われるだけ……。俺はもうすぐ君のもとに帰れる。だから、今度、会った時は協力してくれ……だって」

「まず、影治で間違いないと思うよ」

「俺もそう思う」

 清二も義之も影治だと断定した。

 その瞬間、光は今まで押さえ込んできたモノを吐き出すように、大粒の涙を流した。


 かつて、影治と光は世界を動かした。

 最初は友達を救おうとしただけだった。

 だが、友達を救った時に、影治は別の願いに触れた。

 影治はその願いも守りたくなった。

 たとえ、それが自分達の友達を傷つけた相手でも……。

 いや、恐らく、友達が助からなかったら、影治も相手を許しはしなかっただろう。

 それでも、その友達自身がその傷つけてきた相手を許してしまったのだ。

 影治はその友達の言葉に諭された。

 たしかに人を傷つけるのはしてはいけないことだ。

 けれど、自分が損をするからといって、その相手が悪いと決め付けるのは良くない。

 自分の主観で善悪を決めてはいけない。

 自分の知り合いが死んだ。

 だが、それが裁判による正当な死刑だったら?

 相手が悪いと決まっているわけではない。

 それが復讐だったら?

 そう、だからと言って、自分が悪いと決まっているわけでもない。

 両方が悪い場合もある。

 戦争を合意した国同士の不幸な、けれど昔のように誇りのある騎士の戦いだったら?

 両方が悪くない場合もある。

 だから、影治は相手を許してしまった。

 だって、相手に勝利したが、殺し屋である相手の殺した――世界との絆を返すという方法で友達は助かった。

 相手が気持ちを入れ替え、自ら想いを返したから、友達は助かったのだ。

 そして、影治はその願いの根本から解決しようとした。

 別れた世界の統合。

 そして、都合のいい事実だけを残して、世界を安全なモノにする。

 影治が友達を助けるためにしてしまった――世界をわけるということをなかったことにする。

 そんな――今までの否定。

 そう、光はそれを理解し、その間違いを――動き始めわかれ始めたそれぞれの世界の否定をしなかった。

 そして、それぞれの人が抱えるそれぞれの世界に居たいという気持ちの部分がその世界に居られるように、またその部分がもう一つの世界に行きたくなったときに行けるように提案をした。

 影治のもう一つの悪い部分――押し付けさえも正して……。

 だが、光は影治と一緒にその結論にたどり着きたかった。

 いや、最終的には戦いの果てにそう説得したのだ。

 だが、極端な話、光は影治と一緒に間違えてでも、一緒に感じ、一緒に悩み、一緒に願いに向かって歩みたかった。

 最後だけではなく、最初から……。

 そして、ようやく共に歩めると思ったとき、影治は世界渡りの覇王として、旅立った。

 私はまた置いてかれてしまった。

 光はそう思った。

 だが、そこまでしか考えていない光はまだ影治を理解しきっていなかった。

 その事実にあった想いを――

 そして、影治は戻ってきた。

 共に歩めるときが来たと思った。

 

 涙を流す光を見て、義之と清二は口を開く。

「二乃部さん……」

「二乃部さん。嬉しいのかもしれないけど、状況はそんなに良くないよ」

「なんで、月城くん!?

 影治くんが帰ってきたんだよ! それ以上の良いことなんてないよ!!」

 光は叫ぶ。光ももう限界だったのだ。

 いや、違ったとしても、影治に会えるという希望にすがらずにはいられなかった。

「なんて言われたか――を忘れているよ。影治は、また間違えようとしているのかもしれない」

「えっ?」

「二乃部さん!

 二乃部さんが影治の――世界渡りの覇王の――言葉を受け止めなくてどうするの!?

 あいつはたとえ、伝言でも、まだ清二の言っている戻ってきたと言える状況の通りにもなっていないのに、それを君に伝えたんだ!?

 好きな人に一生懸命伝えた言葉くらい受け止めてやらなくちゃ、むくわれないよ!」

 今度は、義之が光を注意する。

 それはきっと、好きな人にはこうあって欲しいという理想なのだろう。

「世界を繋げるって言ったんでしょ?

 もう、俺達の世界は繋がっている。

そして、(きずな)達から聞いたことを合わせて考えると……。

 おそらく、繋げる対象は殺し屋の意識の世界だ。影治は殺し屋達をも救うために、この世界を利用する気だ」

「えっ?」

 光は世界渡りの覇王に、何の疑いも持っていなかった。

 そもそも光は、この世界での騒動も、自分をかやの外にやり、世界渡りの覇王自身も間違えだとわかっている行動だから止めたのだ。

光は世界渡りの覇王の根本的な考えを――心を、全面的に信じている。

だからこそ思う。

世界渡りの覇王は、また間違っているのなら、光に止めてほしいのだと……。

世界渡りの覇王はまた迷い、苦しみ、それを光に伝えることで救って欲しいのだと……。

それはある意味、悲鳴なのだろう?

それはある意味、慟哭なのだろう?

それはある意味、助けを求める手なのだろう?

好きな人が助けを求めている。

人知れず、泣いている。

光は、見えないそれをよそにただ戻ってきたという事実に喜んでいるだけでいることを防げた。

いや、これから防ぐ。

かつてのように……。

「じゃあ、聞いてみるよ。私が……影治くんの本心さえも見抜いてみせる」

「二乃部さん……。なあ影治、お前はお前である限り、二乃部さんに隠し事はできないぞ」

 義之は立ち直った光を見て、自分が好きになった人はこの人だと密かに胸をはった。



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