世界渡りの覇王 序章3
翌日、俺は夢想学院世界探求同好会の代表として、ダークくん達のお見舞いに来ていた。
といっても、無理やり来たわけではない。
俺達がダークくん達のために想いぶつかる時に出ることを知って、関係者が招いてくれたのだ。
ダークくんとライトさんは同じ病室だった。
病室には、五橋さんが来ていた。
「五橋さん?」
「一琉くん? 入りなよ」
「うん」
「あのね、一琉くん、私、こうなることがわかっていたの。
こういう未来を見たの。
でもね、こうなるのが一琉くんや私ではなかったから、この未来を変えることを諦めていた。
言い方を変えれば受け入れていたの。私のせい……だよね?」
俺は驚いた。
だが、確かに五橋さんの殺し屋の力は未来を見る力だ。
五橋さんならこういう未来を見ていてもおかしくない。
そして思い出した。
「そうか、前に未来を見る力は視野を狭くしてしまっているのかもって言った時に、言おうとしていたのはこのことだったんだね?
それじゃあ、五橋さんは未来を変えようとしていたじゃないか?」
「でも、結局、言わなかった。
言えば変わったかもしれないのに」
「それも仕方ないことだよ」
「‥‥」
少し沈黙が訪れ、五橋さんは心の内を語りだした。
「私はね? 弱い人間なの。
そして、ごまかしていた。
私が一番最初に言った一琉くんをふった理由はでまかせなの。
昔、一琉くんをふった一番の理由はね?
一琉くんの二乃部光への愛情を殺す未来を見たからなんだよ」
「……」
俺は先を促す。
これはまだ口を挟んではいけない気がした。
「一琉くんはいずれ二乃部光を好きになる。
もし未来を変えようとして、私が付き合ったなら、私よりも二乃部光を好きになってふられるかもしれない。
でも、付き合わなければ、二乃部光(、、、、)へ(、)の(、)愛情(、、)は(、)殺せる(、、、)。
つまり、私は二乃部光に一琉くんを取られるのが怖くて、好きな人を傷つけ、二乃部光との恋の勝負から逃げたの。
私はあのコみたいに運命に立ち向かえないの」
「そっか、でも、五橋さんは最初、俺の愛情を殺そうとしてなかった?」
「たしかに部分的に見るとそうなの。でもね。
私が大分昔に見た未来はニ乃部光の愛情を殺す未来なの。
私はその過程で(、、、)影治くんの愛情を殺す未来を見ただけ。
だって、殺し屋の力を使って影治くんの気持ちを変えるなんて本当は受け入れられないもの。
それでも、私は私の弱さからその未来を選ぼうとした」
「そっか。でもね?
二乃部さんがダークくん達のことを言おう(、、、)と(、)した(、、)だけ(、、)で(、)未来は少し変わったんじゃないかな?」
「…っ」
五橋さんは涙を流していた。
「そうかな? 私、運命に立ち向かえたかな?」
「そうさ、だからね? 待っていて、ダークくん、ライトさん」
2人の方を向いて言葉にする。
「必ず助ける!」
###
影治くんがライトさん達のお見舞いに行ってから、私――二乃部光は五橋愛に会いに来ていた。
影治くんに「悪いことはしないと思うから会ってあげて」と言われたら行くしかない。
「待たせてごめんね。二乃部光さん」
「それは大丈夫。けど、どうしたの」
「まずは、結果的にあなたの愛情を忘れさせてしまってごめんなさい」
「えっ、いいよ。思い出したんだから」
私は戸惑っていた。
このコがそんなことを言うとは思わなかった。
このコは一度は、影治くんの愛情を殺して、影治くんを私から奪おうとしたコ。
でも、このコは改心しているんだ。
「それでも謝りたかったの。
自分が愛情を殺されたらって考えたらすごく怖くなったから」
そこは同意できたから、すぐに返す。
「やっぱり実らなかった恋でもその感情を殺されるのは嫌だよね?」
「うん、私は恋ができて幸せだから。
相手を想っていられることがすごく幸せだから。
相手と一緒に居られることが一番の幸せだった。たとえ、貧乏な暮らしでも、世間的に不幸だと言われてもそれが一番の幸せだった」
「影治くんが一緒に居たい相手はあなたじゃないけどね」
その想いを前に――私と同じ、もしかしたらそれ以上の想いを前に――私は少し自分が嫌になる言葉を返してしまっていた。
「わかってる。だから、一琉くんには――ううん、これからは影治くんって呼ぶ。そう、影治くんには一番好きな人と一緒にいてほしい」
「影治くんのこと、諦めるの?」
「ううん、諦めない。でもね、今まで私は間違っていて諦めていた」
「? どういうこと? 間違っているのはわかるけど……」
私はこのコの言っていることの意味がわからずに問う。
「間違っていたのは、相手の他の人を想う気持ちを無くならせるのは最善ではないってこと。
そして諦めていたのは、相手が他の人を好きになった感情より――相手(、、)の(、)一番(、、)大きな(、、、)感情(、、)より(、、)、大きな(、、、)好き(、、)って(、、)感情(、、)を(、)持って(、、、)もらう(、、、)こと(、、)をだよ」
「……っ」
この人はすごい。
素直にそう思ってしまった。
感動し、尊敬してしまった。
「なら、どうするの? 五橋愛――ううん、愛ちゃん?」
「名前で呼んでくれるの? 光ちゃん?」
「あなたもね?」
「うん、だからね、私もがんばるよ。今度の『想いぶつかる時』で私はライト達を助けるのはもちろんのこと、勝って少しでもあなたに近づくために『運命に抗う力をください』って願うよ」
その言葉と同時に風が吹く。
愛ちゃんが私と戦おうとしている?
いや、今の愛ちゃんならムヤミにそんなことはしない。
なら、そうか!
影治くんの力だ。
影治くんは愛ちゃんがこう願うと予想していなかったんだ。
だから、殺し屋の力がフィクションになり、世界が元に戻るんだ。
「愛ちゃん、あなたなら大丈夫だよ。あなたは今、運命を変えたのだから」
こうやって、私達は世界を元に戻した。
これからも、世界は何も知らず回り続ける。
そう何も知らず……。
光の携帯がメールを受信していたことも知らず……。




