世界渡りの覇王 第四章 別れた道3
「絆! 一琉影治を連れてきたよ」
「はあ!? どうしたんだ? 友子?」
「絆の言う通り、一琉影治は私達の仲間になりうる。私達の思考回路が理解できる」
「ふ~ん、なるほど。一琉影治。本当か?」
俺はそんなことより、聞きたいことがあった。
六堂絆に会ったら、一番に聞こうとしていたことが――
「絆! お前は本当に、この世界を殺し屋が存在しない世界にしたいのか?」
「ああ、少し違うな。
友子に聞いたんだろう? おれはこの世界を殺し屋の存在しない世界にしたいんじゃない。
正確には殺し屋の(、)力(、)が存在しない世界にしたいんだ」
「怖いのか? 殺し屋の力が?」
また、そんなことを教えるかと言われるかと思った。
俺にそんなことを打ち明けるわけがないと思った。
だが、そんな予想は外れた。
「ああ、怖いね。
俺達の思考回路を理解し、俺達の想いをわかろうとしたお前になら教えられるよ。
俺は殺し屋の力が怖い。だが、俺が一番怖いのは自分に宿る殺し屋の力だ。
世界との絆を殺す? ハッ、冗談じゃない?
医者の腕次第で――医術の発展次第で治せる病気やケガとは違う。下手したら、人を生きたまま殺すことになる。
そんな力を俺自身が信じられない俺のような悪人に託す?
何を考えているんだ。世界は? 俺が間違えたら、どうする?
たとえ、俺が間違えなくても、俺が騙されたらどうする?
俺が力をコントロールできなくなったら?
ハッ、俺はこんな力に頼りたくない。俺には友子さえいればいい」
絆はどんどん、言葉を重ねる。
想いを――怖さを吐き出すように……。
自分が怖いから、自分の弱さを無視して力を与える世界に主張する。
絆の言葉は、まだ終わらない。
「誰かの想いを殺す?
下手したら、それは神の領分を犯す。重大な禁忌だ。
想いの改ざんなんてやろうとしてもできなかったはずのことができるんだぞ!?
しかも、そんなこと、普通はできないはずだから法律もない。
俺がお前の救済策である『想いぶつかる時』のルールを邪魔だと思っていると思ったか?」
「……」
俺はなにも言えない。
わかる。ここは返事を期待されているわけではない。
絆も俺が絆の考えに至ったことをわかっている。
「違うさ! あれは実にいいものだ。
あれのおかげで世界はギリギリ理性を保っている。
だが、それも『想いぶつかる時』が終わるまでのこと。
だから、終わらせる願いは俺達の願いでなくてはいけない。
だが、その方法も工夫しなくてはいけない。
世界の統合、それで都合のいいことだけ世界に残す。俺のもう一つの願いのために」
「そうか……。それが――」
「ああ」
俺は絆の人として当たり前のささやかな願いを――
絆の勝手な願いを――
絆をこんな行動に走らせる願いを口にする。
「友子さんと一緒にいることか?」
「そうだ。好きな女と一緒に居たくて何が悪い!
俺のこの願いを叶えるためなら、それは間違っていないだろう!?」
「ああ、そうかもしれないな」
それでも、それは――その想いは――コイツが正しいことの証明にはならない。以前の俺ならそう思えたかもしれない。
だが、今の俺は――
「なあ、いいだろう? ダニエル達は目覚めさせたんだ。俺達に協力してくれ! そして――
行こう! その感情の果てへ!」
その言葉は俺を連れていくには充分だった。
いや、正確には六道絆が俺を連れて行くには充分だったが正しかったのだ。
俺は光ちゃんという、俺の好きな存在を見誤っていたのだ。