世界渡りの覇王 第四章 別れた道1
「そういえば、『想いぶつかる時』はどうなるんだろうね?」
ダニエルくん達を助けたお祝いに、みんなでパーティーをしていると五橋さんが言った。
ダニエルくんとラインさんは『想いぶつかる時』が始まる前に、意識不明になったので首を傾げる。
「『想いぶつかる時』? なんだ? それは? 政府主催の試合をそう呼ぶことにしたのか?」
「違うよ、ダニエル♪ 愛の告白大会のことだよ♪ きっと♪」
「はあ、そんなわけないだろ!?」
ダニエルくん達がイチャつき出す。
そこで義之が軌道修正をする。
「殺し屋の意識が主催する大会みたいなもののことですよ。
それに勝った人が殺し屋の意識に願いを叶えてもらえるという……。
卑怯なことは禁止ってルールがあるんで下手に動けないんだよ」
義之は久しぶりにダニエルくんと話すので敬語とタメ口が混ざっている。
「へえ、お前達は何を願うつもりだったんだ?」
「俺達は基本的にダニエルくん達の意識を取り戻すために行動してたから、六堂絆にダニエルくん達を目覚めさせることができなかった時の予備案って感じで……」
「私は運命に抗う力をくださいって願いも持っていたけどね」
「えっ? そうだったの? なんで?」
俺の説明に五橋さんが付け足したので、俺は驚く。
「ちょっと、思うところがあって・・・・・・だよ」
「私がうらやましかったんだよね?」
五橋さんの答えに今度は光ちゃんが付け足す。
「そんなこと……ないよ」
「私は愛がうらやましかったな~。私の願いは愛みたいになりたいだったから♪」
弓先さんが冗談っぽく言う。
「えっ、嘘!?」
「うん、う・そ。ついでにさっきの愛の『そんなことないよ』もでしょ? 素直になりなよ。愛」
「ちょっと八葉~!」
二人は本当に仲がいいみたいだ。
そうすると、あらかじめ用意してあった鏡から相棒が言う。
『まあ、想いぶつかる時自体が、ダニエル達を助けるための策だったしな』
「わっ、鏡がしゃべった♪」
「変な鏡だとは思っていたが、それはなんだ?」
ダニエルくん達は初めてなので驚いた。
弓先さんが驚かないのは六堂絆から聞いていたからだろうか?
「ああ、うん。
説明すると、ダニエルくん達が意識不明になったのを助けるために俺達は過去に一度、異能の力みたいなもので殺し屋の存在をフィクションだけのものにしようとしたらしいんだ。
でも、それは半分しか成功しないで、世界は殺し屋の世界と、それをフィクションにした世界に別れた。
そして――ん、なんか変だな?
まあ、その殺し屋の世界をフィクションにした世界の一琉影治が、この鏡の中の俺。
相棒、あとの説明よろしく!」
俺は話していてわけがわからなくなったので相棒に説明を頼む。
相棒はしぶしぶといった様子で説明する。
『そうだな。この世界は俺の現実をフィクションにする能力でフィクションになった小説の中の世界なんだ』
あっ、すんなり説明できている。ちょっと悔しい。
「「「はあ!?」」」
ダニエルくん、ラインさん、弓先さんが驚く。
弓先さんもここまでは知らなかったらしい。
「八葉は、なんで、驚いているの? 六堂絆から聞いてたんじゃないの?」
「私が聞いてたのは、一琉影治に並行世界の意識が味方について、ルールぎりぎりのことをしているから懲らしめようって言われて……。
正直、あの時は愛と戦えればどうでもよかったし……」
「うわ、考えてみれば、たしかにルールぎりぎりかも……」
「まあ、ダニエル達を意識不明にしたままにするよりマシだろう?
ダニエル達は『想いぶつかる時』のことを知ることもできなかったわけだし……」
俺の罪悪感を清二が軽くしてくれて、相棒が続ける。
『それでだな。想いぶつかる時は殺し屋の世界をフィクションにできなかった時の救済策として俺が小説に書いたことなんだ』
「どういうことだ? 小説が現実になってしまうことは事実だったのか?」
俺の疑問に相棒が続ける。
『俺の能力は事実を小説風に少し先のことまで書いて、その小説と違ったことが起こると現実がフィクションになる。まあ、簡単に言えばそんな能力だったんだ』
「その条件って意外と簡単じゃない? 一琉影治の予想と違うことなんて、いくらでも起こるだろうし……」
弓先さんが少し失礼なことを言う。
『ああ、いや、少し先のことまで書くと、それは起こりやすくなるんだ。
それにあまりにも起こらないとはっきりしていることを書くと能力は上手く発動しない』
「ああ、なるほど。
それで、卑怯なことはダメとか、殺した想いを返すようにって流れを作ってくれたんだ。
それどころか、願いを叶えるっていう『想いぶつかる時』自体がラインさん達のための救済策だったと……。
さすが、影治くん、違う世界の影治くんも頼りになる」
「……」
「あれ、嫉妬しちゃった♪ 影治くん♪」
ラインさんが図星をつく。
それに対して、光ちゃんが言う。
「もう、どっちも影治くんなんだから……。それでも、私が好きなのはこの世界の影治くんだよ」
「うん、ありがとう。光ちゃん」
「それより、『想いぶつかる時』はどうなるんだ?
その存在自体がダニエルくん達のための救済策なら、役割を果たしたから、開催されないこともありうるのか?
いまだに対戦形式とかの詳しいことは不明じゃないか?」
義之が嫉妬したのか、話を戻す。
「いや、たしかに詳しいことが発表はされていないが、これまでと同じように試合を何試合かするだけと言っていたから、政府主催の試合だけともとれる」
『まあ、俺もそんな感じで考えていたからそうなるだろう?
まあ、ダニエルくん達を助けるためのものとして考えたから、その流れが終わった今、卑怯なことがダメだとか殺した想いは返すといったルールもどうなるかわからない。
まあ、卑怯なことがダメなのは破ると、純粋で強い願いってことに反するから大丈夫だと思うが……。そうしてでも叶えたい願いとみられると危うい』
「じゃあ、俺達は六堂絆みたいな奴が卑怯なことをしたり、とんでもない願いを叶えようとするのを防げばいいのか?」
「そうだな。まあ、自分それぞれの願いも持てるってことだろ? 何にしよう? なあ、影治?」
清二のまとめに義之が同調する。
「……」
「影治? 悪い、怒ったか? 二乃部さんへの俺の恋愛感情に関することは願わないから怒るなよ。
それじゃ、純粋で強い願いにならない可能性が高いだろう?」
「影治くん?」
光ちゃんの声で我にかえる。
「えっ、何?」
「どうしたの?」
「えっ、うん、ねえ、六堂絆の願いは本当にとんでもない願いだったのかな?」
「はあ!? それはそうだろう? ダニエルくん達を意識不明にしたままだったんだぞ?」
「いや、そうとも限らない。
手段が悪いだけで、そうしてでも、叶えたい――それこそ純粋で強い願いだったのかもしれない」
意識不明にされたダニエルくん本人がそう言ったので、みんなは何も反論できなかった。
俺は六堂絆が、この世界が小説の中の世界だと言った時のことを思い出していた。
あの時の――もう、ほとんど覚えていないが、あのぶっちゃけると言う前の願い、それがアイツの本当の願いであり――想いだったんじゃないのか?