世界渡りの覇王 第三章 二魂剣6
影治くんが七瀬友子と剣戟を交わし始めたところで、私は六堂絆の銃擊を防ぐことに集中する。
六堂絆が光ちゃんや私、影治くんの方にも何発か銃擊を放つ。
影治くんの異能の技が銃擊をいくつか防いでいるが、影治くんから離れたところに来る銃弾は防げない。
私はその銃弾に自分の銃弾を当て、片っ端からそらす。
私の神器形成は本当はカラーコンタクトではない。
そもそも、ドリーミールックの訳は『夢見る目つき(、、)』だ。
少なくとも、ウィズアドリーミールックが『夢見る目つきで』だ。
それがGoo辞書に載っていた。
私の神器形成は最善(、、)の(、)現実(、、)、そのもの(、、、、)だ。
だから、ずっと神器形成を使い続ける。
現実を形成するので、神器形成とはいえ、他の人に比べて力を使う。
しかも、使い続けなければいけない。
私にもっと力があれば、勝利という現実すら形成できるのだろうけれど、これは可能な未来しか形成できない。
だから、長くはもたないかもしれない。だけど、影治くんが切り札を使えるタイミングくらいまでは時間を稼いでみせる。
###
影治くん達が六堂絆と七瀬友子の相手をしている間、私は、八葉ちゃんに向かって行く。
八葉ちゃんは予想通り、弓を持っていた。
「「無限の(ニット)矢」」
無数の矢が向かってくる。
だが、私が相手ではその攻撃は相性が悪い。
矢が多すぎるので矢と矢の間が近く、塊のように見える。
「「深く(ディープ)凍り付け(フリーズ)!」」
全ての矢が凍り、氷の壁ができる。
当然、氷の壁が邪魔をして、同じ方向には矢が放てない。
少なくとも、壁を壊さないと矢が通らない。
「なっ!? そんな、こんな簡単に!
なんで! 邪魔しないで! 私は愛に用があるの!」
「無理だよ。今のあなたに今の愛ちゃんは倒せない。
そんな、運命に甘えて、時を待っているだけだったあなたにはね!」
「あなたに何がわかるの!?
九重くんの隣にはずっと私がいたのに振り向いてもらえなくて、それでやっと振り向いてもらえるってわかったら、その運命が変わった?
そんなの、ひどいよ!
女として待っていた私の何が悪いの!」
「だから、その運命を変えた人達が悪いって言うの!?」
「そうだよ! あなた達が悪――」
「あなたは愛ちゃんのそのやり方が正しかったと思うの!?」
そう、私が愛ちゃんに八葉ちゃんの相手をさせなかった本当の最大の理由はそれだった。
愛ちゃんも悪かったのだ。
ただし、私達に対して……。
それを愛ちゃんを止めなかった周りに対してもぶつける。
ただの八つ当たり。
「……っ、殺し屋の力がそれなんだから……」
八葉ちゃんは最後まで言えない。
当然だ。だって――
「なら、あなたはなんで、あなたの好きな人の愛も殺してもらわなかったの!?」
「……っ、それは……でも……」
「あなたはそこは正しかった。そうやって、人の愛を殺せば、間違えれば、
本物は手に入らない! そう、正しい方法を貫いた揺るぎない本物が手に入らない!
わかっていたんでしょう? でもね、あなたも間違えていることがあるよ。
なんで、その人に愛ちゃんに対して以上に好きになってもらおうとしなかったの!?
愛ちゃんを諦めて好きになってもらうのでは二番目じゃない!
しかも、間違った愛ちゃんを止めずに自分のためにそれを許す?
それは本当に正しいことなの!?
確かに二番目の愛で妥協する人もいると思う。それ自体は悪くないのかもしれない!
でもね、それは他の人の間違いを肯定していい理由にはならない!
親友だったんでしょう? なら、止めてあげなくちゃ、ね?」
「そっか、私、やっぱり、友情を殺されていたんだね?
そう思えたのに、自分の犯した間違いを肯定されて、間違いをなかったことにするために、愛との友情を殺された」
「何だい!? 殺したはずの想いが戻るはずが!?」
七瀬友子が動揺する。でも、戦局には影響しない。
むしろ、むこうにとって好転する。
「認めるよ。
あなた達が運命を変えた。
なら、正しかったあなたに――間違えなかったあなたに、
間違えたわたしなりに偽物の力で勝つ。
今度は間違いを知ったゆえの――二度と揺るがないと誓った――弱さにある想いを理解した――
偽物の強さを見せてやる!」
「全ては一つに!」
「「たった一つの真実」」
小さく、だけど光り輝く強い矢が放たれる。
多分、今まで無数に分解していた矢を一つにまとめたのだろう?
「「深く(ディープ)凍り付け(フリーズ)!」」
だけど、その矢は凍りつく。
しかし、その矢は凍っても光に向かっていく。
だが、光はなんとか避ける。
それでも、その偽物は結果を残す。
「愛ちゃん! 避けて!」
「えっ?」
愛が気付くよりも早く、その矢は愛を射抜く。
愛が倒れる。
その瞬間、この戦場は二対三になった。
六堂絆が光を狙う。銃弾が光に向かう。
弓先八葉も光を狙う。
「「たった一つの真実」」
それは何(、)も(、)知らない(、、、、)本物以上の偽物の強さだった。
だが――
「「指し示す光の聖域」」
光は何(、)も(、)知らない(、、、、)本物ではなかった。
弱さを知り、理解しようとした本物以上の本物だった。
六堂絆の銃弾と、
銃弾がたどった軌跡と、
それを放った狙撃銃と、
弓先八葉が放った矢と、
矢がたどった軌跡を凍らせ、本人達も凍らせるはずだった。
だが、六堂絆は銃を離した。自らの魂が具現化したものを――。
弓先八葉は凍った。自らの魂が具現化したものを離さずに――。
偽物は魂を決して離さなかった。