世界渡りの覇王 第三章 二魂剣3
数日後、俺達は五橋さんの学校に来ていた。
今回、六道絆に味方する弓先八葉さんに会うためだ。
今、俺達が覗いている教室の中にいる少し茶色っぽい髪をショートカットにしている胸の大きな女の子が、弓先八葉さん。
ちなみに五橋さんは、弓先さんがどのコか教えてくれた後、すぐに帰ってしまった。
多分、彼女とは何かがあるのだろう。
俺達は早速、弓先さんに話を聞いてもらおうと声をかけた。
「君が弓先八葉さん?」
「そうだけど……。って、ああ、今度の対戦相手の殺し屋さん?」
弓先さんは俺達の顔を見ただけで、殺し屋だと見抜いた。
まあ、このぐらいはできるか?
殺し屋は政府に支援してもらっているので、いろんなことを教えてもらえる。支援してもらえる優先順位が低くない限りは他の殺し屋の顔くらいはわかるだろう。
「少し、話がしたいんだけど……。いいかな?」
「私には話がないけど……って、あなたが二乃部光さん?」
「えっ? そうだけど……」
弓先さんは光ちゃんに興味があるようだ。
やっぱり同性の方が話しやすいのかな?
「なら、いいよ。
私もあなたに話があるの。
『長居を大歓迎』がウリのコーヒー店があるからそこに行こう」
「えっ? あっ、うん」
コーヒー店での話に変わった。
あんまり大人数だと迷惑だし、話しづらいだろうと今更、気付いたため、清二と義之には先に帰ってもらった。
弓先さんがブレンドコーヒー、光ちゃんと俺がホイップクリームが浮かぶ暖かいココアを注文し、それぞれの注文したモノが運ばれて来たところで弓先さんが口を開く。
「愛の心変わりで好きな男と一緒に居られて嬉しい?」
「「えっ?」」
「そのせいで、私が好きな人と付き合えなくなったのよ!
愛がそこの一琉影治と付き合わないせいで――愛がフリーなせいで私の好きな人が愛を諦めきれなくてね!」
「待って! なんで、愛ちゃんの心変わりのせいなの? 影治くんはそんなこと、関係なく私を選んでくれたんだよ!」
「愛の心変わりでしょ!?
だって、一琉影治の二乃部光への愛情は愛に殺されるはずだった。
それが運命だったはず! そうして、愛は一琉影治と付き合い、私は好きな人と付き合えるはずだった!
それを防げる程の――運命を変えることのできる人なんて本人である五橋愛の他にいないでしょ!?」
「二人とも落ち着いて! 目立っているから!
いくら、長居が歓迎されても大声は歓迎されるわけがないでしょ?
それに殺し屋のことがバレるとそれこそ支援が途切れるよ」
二人の声で周りがこっちを気にしているので注意する。
追い出されないか心配だ。
だが、そう、彼女の言う通り、俺達は一度、五橋さんに愛情を殺されかかっている。
落ち着いたのか、声を抑えて弓先さんが再び話し出す。
「未来を見るなんて反則な技を愛情を殺すために使える愛が負けるわけがないでしょ? だから、私はその反則な技を、私の反則な技を使って倒し、運命を取り戻すの」
「はあ~、俺からも言うけど、運命を変えたのは五橋さんじゃないよ。俺達だ。俺達が愛情を殺されかかったのを知っているなら、そのへんも知っているんじゃない?」
「ううん、違うね。
愛の親友だった私ならわかる。愛が負けるはずがない。
六堂絆も言っていた。あなた達を信じない方がいいって……。それに、倒され方は愛が錯乱したから倒されたって聞いている。あなた達が愛を騙したんでしょ?」
「……っ、親友だったなら、愛ちゃんを信じてあげなよ!」
「ある意味、信じているよ。だから、愛があなた達に騙されているんでしょ? 騙されている愛の目を覚まさせてあげるの」
それは信じているんだか、いないんだか……。
俺はなんとか突破口を見つけようとする。
「でも、君は五橋さんが俺達の味方をすると決まる前に六堂絆に味方することを決めたじゃないか。それはどうなんだい?」
「そんなの、愛を騙した人達を倒そうとしたに決まっているじゃない」
「なるほど。君、実はもう、運命を変えたのは五橋さんじゃないってわかっているね?」
「……何を言っているの?」
「おかしいと思ったんだ。俺達が五橋さんを倒して運命を変えたことを知っているなら、その前にダニエルくん達を倒した時も、五橋さんの見た未来――運命と呼ばれているものを変えたんだから知っているはずだもんね?」
「……何を言っているの?」
「だから、運命を――」
「何を言っているの? ……私(、)は(、)?」
「「えっ?」」
「そうだよ。愛がそんなこと……それに、たしか愛は一琉影治の愛情を殺す未来を視たのは課程でその先に愛の想いが叶う可能性があるって・・・・・・。
ううん、それでも愛は許せない。
……でも……っ、もしかして私も……」
「どうしたの?」
「・・・・・・」
しばらくの沈黙の後、弓先八葉は答える。
「気に食わないけど教えてあげる。あなた達、一人、忘れていない?」
「一人? 誰を?」
「七瀬友子。彼女も今回のあなた達の対戦相手でしょ?」
「「……っ」」
忘れていた。
なんで、こんな大事なことを忘れていたんだ?
「私なんかより、ある意味、彼女の方が怖いよ。
友情の殺し屋。彼女の進む斬撃は当たらなくても人と人の間を通るだけで、友情を――この場合はその人達の共闘しようとする想いを殺す。
しかも、普段も薄く力を使っているから、情報を他の人から得ようとすることすら……ううん、ここまでね。
私がここまで話せるということは……私は友情を殺されていない。
じゃあね、ここまでで……。愛によろしく」