86.
「あ、あの‥すいません。」
屋上に上がる階段から姿を年配の男性。
ゴルフに行くような格好をしており足が痛そうに立っていた。
「何でしょうか?」
この建物の住人だが不思議では無い。
周辺にはブロックゴーレムと一匹のゴブリンを遠くに目視したぐらいだ。
建物の中に居れば基本的には生きてる。
ユウカが居た地域はゴブリンが部屋まで荒らしてたが。
それは数が為せる技だ。
「図々しいとは承知の上でお願いします、我々に食料を分けて頂けないでしょうか。」
我々?
しかし渡す理由が無い。
「見ての通り我々も軽装でして、渡せる食料は無いんですよ。」
流れるように嘘を付く。
これが現実だ。
誰しも生きる為に必死なのだから。
「では貴方達はどうやって生きているのです?」
「行く先々で現地調達です、モンスターに襲われた時に身軽じゃ無いと逃げ切れませんからね。」
はぁ。
やはりそう上手くは行かないか。
「すいません、貴方の他に何人ぐらい居るのですか?」
「それは43人程このマンションに――」
「有り難うございます。それと私達はもう此処を去りますが良いですよね。」
「はい‥どう――」
「何言ってるんだよ、カツラギさん、もうやるしかナイんだよ。」
次々に階段から上り姿を見せるこのマンションの住人達。
30代くらいの男性が2人居た。
反応的にはまだ下にも居るが。
「どういう事ですか?」
「身ぐるみ全部置いていけって事だよ。」
「だから持ってないって――」
「男は殺して構わん、女は傷つけんなよッ」
「「「おおぉ」」」
つまり俺が一番ピンチ?
「はぁぁ、丁度良いですね。武器を持ち殺意を持ってる複数人相手ならば、例え俺が反撃して、誰かが死んでも、それは仕方のない事ですね。」
少し前に出て話しかける俺を後ろからユウカが呼び止める。
「お兄さん?」
「良い子は目を瞑るんだよ?」
「ユウカ?」
「はい‥」
さて本当に殺すと決まった訳じゃ無いが。
ユウカを威圧する様に目を瞑らせた事で向こうに俺の本気度が伝わっただろう。
後は相手の出方次第では悲惨な結果になる。
「優しいですね、小さい子には確かに今から見せるモノは――」
「あぁもう、そういうの要らないからさ、大人しく帰ってくれませんか?」
「ガキが、お前は死ぬしかナイんだよ。」
「そうか‥残念でなりません。死にたく無い人は今スグ逃げてくださいね。」
「やるぞお前らッ」
「ああ!」
「おう。」
残念だよ。
モンスターの脅威が高まる中。
同じ種の人と人が殺し合いをしなければならないなんて。
俺は実験も兼ねて米粒爆弾の強化5を指で弾き飛ばす。
終始意気がっていた男性の顔に触れる瞬間爆発させる。
そして顔が全面から破裂する様に吹き飛び。
後方の男達にその血などの残骸が飛び付く。
「ぁぁ"あ"あ"あ"あ"あああ"ああ"あああ"ああああ"」
「浜松さぁぁぁああああああん。」
仲間の血が大量に身体に付着し叫び狂う連中。
それだけで叫ぶのなら人を殺そうとするのは間違いだ。
そして明確な殺意を持って初めて人を殺したのだが。
思ってたより思考は冷静だが胸の高鳴りが聴こえてくる。
そうか俺が人を殺すという感覚か。
≪経験値を獲得しました≫
最悪だ。
人で経験値を得られてしまった。
「テメ良くも‥」
「先にやろうとしたのはそっちだろ、それに弱すぎだ。」
俺は再度米粒爆弾を強化2で作り出し。
叫んで開いてる敵の口を狙い指弾で繰り出す。
俺のDEX値の数値があれば止まって開いてる口を狙うのは容易い。
そして口に異物が入り喉に当たる。
男が咽る前に喉で米粒爆弾を爆発させる。
喉仏の周辺が破裂し。
大量の血を撒き散らしながら口で何か言おうとするまま倒れる。
「なるほど強化2で十分なのか。」
強化しなければ爆竹程の威力しか無い米粒爆弾だったが。
強化すれば威力の上がりがまぁまぁあり。
ステータスの乏しい者を屠るのには最適だった。
≪経験値を獲得しました≫
ステータスの弱さからして何ら意味の無い経験値。
本当に無益な殺生だ。
「何をしただぁだあだあ"あ"あ"あ"あ。」
飛来物を視認出来ない奴らからすれば当然仲間が死ぬ。
確かにそれは恐ろしいな。
「先に殺そうとしたのはそっちだ。」
質問には答えず。
似たような返しを再びする。
「助けてくれぇぇ。頼むッ。」
仲間が2人死んでようやく命乞いか。
見苦しいな。
「駄目だ。」
「ま‥‥――」
そのまま米粒爆弾を飛ばし。
同じ様に殺す。
≪経験値を獲得しました≫
これで3人残るわ。
最初に話をした年配の人と階段下の待機組だ。
「途中から止めた方が良いとは思ってたんですがね。」
「なら何故?」
「彼等が突き進んだからです、実際私は貴方達の謎の力によって生命を奪う決意をした、私の意思を変えられ私は帰って良いと口にする所でした。いえ実際には言ったのだと思います。」
ユナさんのスキルだな。
言葉にMPが込められる説得だな。
毎回使われても分からん。
というか話してる時全てに使ってる。
そんな風に考えてたく無いから気にしないようにしてた。
「残念ですよ、こんな手段を取らなくても誰かが外に行けば、食料は得られたのでは?」
「そうかも知れませんね、いえ確かにその通り此処は機能していました。しかし外に出て行ける者達が独占を始め昨日争いが起きたのですよ、普通の災害なら4日程度なら大丈夫でしょうが状況は違う、貴方が思っているよりも、無力な者が負う精神的疲労は大きいという事を覚えていてください。」
「はい。肝に銘じておきます。」
―
―
―
≪経験値を獲得しました≫
終わった。
「はぁ、はぁ。」
モンスターをあれだけ殺しても。
やはり人を殺す時の緊張度合いは違うな。
これからは無いことを願いたい。
「さ、此処には居れなくなりましたからね、移動しますか。ユウカそのまま目を閉じとけ。」
「え‥わぁあッ、一体何を!?身体が――」
俺はユウカをお姫様抱っこし。
屋上の中心部分を爆破し穴を空ける。
そこからもう一つ下の階に続くように穴を空け。
2階分の高さを飛び降りる。
「あああああああ、身体がモワッって!。まさか今飛びました!?ねぇッお兄さん!」
抱き抱えてるユウカが煩く。
とてもお姫様抱っこと言える雰囲気では無かった。
そのまま階段に走り。
壁を蹴りショートカットする様に最速で下りる。
マンションの中間の階を過ぎたら。
廊下に入り。
奥に見える廊下の窓ガラスを蹴り破り。
地面に向かって飛び降りる。
「いやぁァァアアアアあああああああ。」
目を瞑ったまま身体が下に落ちる感覚を感じたユウカがまたも叫ぶ。
そのまま地面に落下し両足で着地する。
ショッピングモールの屋上から落ちた時に感じていた。
やはりステータスは偉大なり。
ユウカを抱えているとはいえ足だけで衝撃を受けきる。
そして階段を数段飛び降りた様に軽々と隣に着地するユナさんが居た。
この人が一番ヤバいのでは?
俺が改めてその認識をさせられた瞬間だった。
俺達が居なければ屋上から飛び降りても平気だったとか‥‥
まさかな。
そんな筈は無いよね。