81.
「これからどうするんですか?」
「そんなの決まってる!逃げる。」
「そんな自信満々に言われてもカッコよくないですよ、トキヤさん」
そんな事は分かっている。
とういうか他に選択肢無くない?
走りながら後ろを振り向けばミノタウロスが見える。
爆発し吹き荒れる煙の近くをウロウロと歩いてる。
消し飛んだ建物に気を惹かれてる為かまだ俺達はバレてない。
「このまま住宅街に逃げ込み静かに移動する。」
「はい。」
現実はそう甘くはない。
進行方向にミノタウロスを見つける。
俺達はとっさに曲がり数本の木の陰に隠れる。
さっきも部屋に隠れてて見つかった。
あれ。
なんで見つかったんだ?
ユウカが音を出したにせよ。
それなら壁越しにでも攻撃してきそうだ。
足跡でも追ってきたか?
やがて一体のミノタウロスが接近してくる。
そして俺達が曲がる直前まで居た場所で立ち止まる。
頭を左右に振ったり鼻先を動かしいたり。
匂いか…
やがてそのミノタウロスは俺達の方を振り向く。
杞憂であって欲しかった。
そのまま木を覗き込むように身体を前のめりにする。
枝に引っ掛けられた1枚の服。
ミノタウロスはそれを掴み取り嗅ぐ。
そして投げ捨てまたこちらを見る。
「やっぱり匂いだな、さっさと移動しようか。」
「牛さんて鼻が良いんですね。」
「全くだ、家畜と同じかは知らないが判明してよかったよ。」
不安を覚えた俺は更に奥に移動するように指示を出した。
丁度走るのに邪魔に感じていた上着を実験ように置き。
移動した先の小屋の陰から見ていたのだ。
「モンスターって基本的に鼻が良いですよね。」
「あぁ、おかげで凄くやりずらい。」
ゲームであれば匂いなんて要素が無いため後手に回る。
経験した事が無い為対策をその都度考えなければいけない。
匂いで位置がバレる。
俺は1人で囮にならず良かったのかもしれない。
仮に実行して隠れていたらバレていただろう。
戦闘になればまた劣勢は避けられない。
「あれも、ミノタウロスなの‥」
前を歩くユナさんから声が聞こえ考える。
アレ?
なんの話しをしてるんだと思い前方を見渡す。
すると一体のモンスターを見つける。
そのモンスターは先程までのミノタウロスに色味や顔は似ているが。
奴らは二足歩行で歩いてたのに見えてる奴は四足歩行だ。
二足歩行が四足歩行で歩いてる訳じゃなさそうだ。
手足の長さの比率が違うように思えた。
もはやヤギと言った方が似合ってる。
「目が合ってる気がするのは俺だけでしょうか。」
「いえ、私も目が合ってます。」
「私もそんな気がするわ。」
確認する為に前に来た俺。
そしてユウカにユナさんの3人だそんな事を口にする。
俺は鑑定を使い名前を見る事にした。
反省を生かさない手はない。
【ムーブロスLv36】
「はぁ?」
「どうしたの?」
「いや、彼奴Lv36でムーブロスって名前です。」
「36‥それはまた強いわね。見つかれば振り切れる気がしないのだけれど?」
「今言います?もう見つかってますけど。」
「「「・・・・」」」
「トキヤさん達どないったの?」
「いや、まぁな。」
「おおお!アレもモンスター!?何アレ~」
「あッ‥」
アイが覗き込み様に身体を動かし声を出す。
俺達が小声で喋ってたのに。
モォ"ォ"ォ"ォ"オ"オ”オ”オ!
「アイ‥」
「えっ私!?」
「他に誰が刺激したんだよ。」
「刺激だなんてそんなぁ、私がやっぱり可愛すぎたのかな。」
「もう良い。皆アイを置いて走るぞ。」
「待って待って。」
どの道バレてただろうから冗談だが。
叫んで他の奴らがこっちに来たら面倒だ。
距離を取れるのなら有り難いが――
「ガァッ」
背中に物凄い衝撃を受け俺は前に吹き飛ばされる。
そのまま木に身体が当たり衝撃により木が倒れる。
「いッてぇぇ。」
「お兄さん!!!」
普通なら死んでる。
てか生きてるのが不思議だ。
背中残る痛み。
そして身体を起こし振り返る。
俺が居た場所にずっしりと立つ四足歩行のミノタウロス。
ユウカは叫んでるが他の皆の目は敵に釘付けだ。
今までで一番速い敵。
それは間違いない。
スキルか何かしたのか知らんがあの距離を一瞬で詰めやがった。
それに音が静かだった。
オークにせよミノタウロスにしろ。
脚力が凄く距離を詰めるなら地面を蹴る時に音がなる。
「ユウカ大丈夫だ、前を見ろ。」
「でも――」
「大丈夫だ。」
敵に目を向けるとユナさんと睨み合っていた。
睨み合ってるだけでどちらも踏み込まない。
首を傾げるムーブロス。
そして俺の目の前に居る。
「はッ――」
為す術もなくムーブロスの頭で薙ぎ払われ飛び。
また吹っ飛ばされ木に側面からぶつかる。
「やべぇ、強えぇ。」
上にのしかかる木や枝をどけ起き上がる。
正直俺本来のステータスならとっくに死んでる。
ユナさんの支援魔法の恩恵で命拾いしてる。
情けない。
火力では負けてない。
しかし露骨に近接戦の弱さが目立つ。
ユナさんがムーブロスに踏み込み左足で蹴りを放つ。
しかしムーブロスが顔を上げるだけの最小動作で避け。
上げた頭で頭突きを繰り出し攻撃する。
攻撃後で避ける事は出来ず。
左腕でガードするものの直撃し。
ユナさんが地面に叩きつけられる。
足をゆっくり上げるムーブロス。
何をするかなんて誰の目にも明らかだ。
ユナさんを踏みつける。
身体を起こした直後の俺もロクに動けず。
誰も間に合わない。