69.
やっぱり。
身体能力的なステータス。
運動神経。
その両方ではユナさんには勝てない。
アイとユウカが止め無かったら。
俺は死んでたな。
止めた筈の刃物が首元にある時点でおかしい。
どんな芸当だよ。
仮に俺の蹴りが入ってても。
ユナさんのステータスなら死んで無いだろう。
やはりあれが敵で在ったなら負けてた。
味方で良かったよ。
本当に。
「ユナさん、気にしてませんから大丈夫ですよ」
「でも。」
当然の様に気にしているユナさん。
「俺も蹴りそうだったんですか、お互い様です。」
「あのままだったら死んでたの私じゃないじゃん。」
それ落ち込みながら言わないで?
俺にダメージ来てるから。
痛いからね。
「それに前向きに捉えるなら、ユナさんがそれだけ頼もしい前衛って事ですよ。頼りにしてますよ!」
「ん‥うん、分かった。もう気にしないわ。」
ユナさんを立ち直らせたが。
問題は俺の方にある。
未だに死にかけた実感が薄い。
敵はいつもこんな感覚なのだろうか。
気がついたら死んでたみたいな。
冷静に考えれば考える程。
刃が首に添えられていた事実は。
寒気を掘り返す。
散髪屋さんで耳元を切られる瞬間より不気味だ。
「ユナさん敵に強いオークは居ました?」
「多分居なかったと思うわ。」
多分。
なるほど。
この子戦闘中の記憶たまに飛ぶもんな。
狂気。
スキルは強くもあり諸刃だ。
「そうですか。」
2体以上は居る筈の強敵オーク。
それがショッピングモールの一体しか見ていない。
もう一体は何処だ。
「私とりあえず上の皆さんに落ち着いたと伝えに生きますね」
「やっぱり上に避難民全員居るのか?」
「はい、私達が来た時点で上に避難が始まってたので、大体の人が無事だと思います。かなり詰めてる状態と予想してますが」
「それは想像したくないな。」
仕方ない。
と言えば仕方がない。
一階の方が面積が広いのは当たり前だ。
それを2階より上に詰めたら。
肉詰めだろうよ。
「頼むな、ユウカ」
「はい。」
返事と共に上に行ったユウカ。
「この後はどうっすかなぁ。」
俺の考えとしては。
雲隠れ。
それが理想である。
正直残っても。
守れだの。
無責任だ。
とか言われるのが落ちだ。
「もう次の事考えてるよ。」
「普通だ。」
「私が皆の気持ちを代弁して差し上げましょ、ゆっくりお風呂に入りたい。」
俺が前後左右と見渡すと。
目が合う皆が頷いていた。
つまり。
みんなお風呂に入りたい。
そりゃそうか。
「って言ってもなぁ、何処で入るよ。近場の上質なホテルのでも行くか?」
「確かにお兄さんの家、もうめちゃくちゃだもんね。」
犯人は俺。
だから特に気にしてないが。
「折角だし豪華な所が良い!」
「豪華?」
「そうそう一泊何十万もしそうな所とかさぁ」
「でも都心なら在るでしょうけど、この辺りには無いと思いますけど」
「えぇぇ。」
「一泊3万くらいのホテルならあるわよ。」
「ユナさん何処です!何処に在るんですか!?」
「少し落ち着いて貰ってもいいかしら?教えるから」
「ごめんなさい。」
食いつき気味のアイを下がらせるユナさん。
お風呂には入りたい様だが。
ユナさんは流石に疲れが目に見えて現れていた。
「此処を出て、東に進んで一本目の角を南に進んだら左にあった筈よ。」
近いな。
あぁ。
あのホテルの事か?
確か屋上にはプールも在った気がする。
「聞いた感じ近いじゃないですか、行きましょ。」
「ユウカが戻ってきてから決めような」
「でもユウカさんならお兄さんが行くならって言いますよ?きっと」
てかモモカがユウカさん。
って言ったぞ。
ユウカの方が背も小さく。
年下な筈だけど。
やはりLv主義なのか?
女子達の関係性がいまいち分からんな。
「聞くだけ聞いてみるさ」
「お風呂、お風呂ぉぉ~」
楽しそうで何よりである。
他の皆も少し明るくなったし。
いつでもムードメーカーか良いな。
「何呑気言ってんのよッ!あんた達だけ良い思いしやがってッ」
「「「「「「「・・・」」」」」」」
え。
誰?
急に階段から下りてきた1人の女性。
その後ろにユウカと。
誰だっけな。
自衛隊の。
んんんっっ。
あ!村田さんだ。
とその上司の斎藤さんだ。
「お久しぶりです、お二人共。」
「久しぶりと言う訳でな無いのだけれど、色々有り過ぎて久しぶりに感じるよ伊藤さん。」
「市民に連絡だけでは無く、助けられてしまったね。有り難う。」
斎藤さんが頭を下げ。
村田さんも頭を下げた。
しっかりとしてる人達だ。
でだ。
「何あんた達頭下げてんのよッ」
何この人。
不愉快だ。