107.α7
「二人共ちょっと良いか?」
二階に上がり。
ドアをノックする。
返事が無い。
それ程怒らってるのか。
返事も出来ない状態の可能性もあるな。
「入るけど、間が悪かったらすまん」
先に謝っておけば命は持つだろう。
暫く待ってトキヤが入ろうと。
ドアノブを回した時だった。
「良いわよ」
ドア越しにユナさんの声が聞こえる。
「入ります」
「どうしてそんなに、堅苦しいのよ」
ドアを開け。
部屋に入って言われたユナさんの声は。
静かで暗く、詰まる様に吐き出した様に感じられた。
「そんな状況じゃ無いでしょ、色々と」
「そうね。ユウカちゃんも疲れて寝ちゃったし、外に出ない?」
寝ているを二人して見て。
ユナさんが窓の方を指さし静かに提案してきた。
「ベランダ在るんですね、良いですよ」
ゆっくりと窓を開け。
可能な限り静かに二人は外に出た。
「今日は涼しいわね。ちょっと風が騒がしいのは残念だけど」
俺の失態が招いた結果がこれか。
惨め過ぎてどう謝れば良いのか分からない。
けどおかげで助かったんだ。
「ユナさん、ありがとうございます」
「何のことぉ」
ユナさんがベランダの手すりに手を置き。
外を眺めながら小さく呟いた。
「ユナさんとユウカが無茶してくれたおかげで、助かりました」
「あら、随分と、お粗末な言い方ね」
「堅苦しいのは、嫌なんじゃ無かったですか?」
「そうね、いつも通りでいて頂戴」
「はい」
「いつも通りじゃ無いじゃ無いの、それ」
「こんな感じだったと思いますよ?っと言ってもいざ意識すれば普通なんて分からないものです」
「私も普通が分からないわ。慣れてしまえばそれが普通なんだもの」
一度でも普通と思えば疑問を抱かない。
これが元に戻せるならまだ良かった。
例え疑問を抱こうとも。
彼女達の抱えてる問題は簡単には戻せない。
世界に定着しつつあるステータスを書き換えるという事だ。
一般プレイヤーが能力を変える。
まさにチートじゃないか。
「ユウカちゃんは、上げなくて良いって言ったんだけどね」
「どうせ、ユナさんが上げるなら上げるとか、言ったんでしょ」
「まさにその通りよ。私より大変なのに、頑なに上げるって言ってね、止める前に私より先に上げちゃったんだもんあの子」
「そんな状況じゃ、止めるのは無理そうですね」
「トキヤさんが居ないからよ、それにあの子更に上げようとしたから、ステータスを操作出来ないように皆で取り押さえたんだからね」
マジか。
流石にそれは想定外だ。
だけどユウカならやりかねない。
ユナさん達が止めてくて本当に良かった。
もし止めてなかったら今頃ユウカは。
生きていなかったかもしれない。
今であの状態だ。
ギリギリも良いところだろう。
「それでもやっぱり遅かった。既に一つ上げた後だっただけに、感情的に暴れるあの子を落ち着かせるのに、もぉそりゃ必死だったんだからね」
「そんなに変わってたんですね、全然気づきませんでした」
「全く、普通にしてるつもりだったんだけどね、誰かが余計なお世話をしたみたいね」
ユナさんが微笑んで見てくるが。
うっかりモモカの事を話す訳にはいかない。
「俺はその人物に感謝しないとですね」
「私はお小言を言おうかしら」
「止めて上げてください」
「頑張った私は我慢ばっかりなの?」
「言っていただければ」
「寒い…」
ボソっとユナさんが呟いた。
寒いと言われても冬でも無いこの季節。
羽織物を持ってないんだが。
どうすれば…
「何してるのよ」
「考えた末、導き出した行動です」
「別に触れたって爆発しないわよ、どうせなら‥ちゃんとしなさいよね」
頑張って考えた俺は。
後ろから手を回し。
ユナさんの前で交差させていた。
「はい」
ユナさんに言われ。
触れない様にしていた腕を動かし。
腕でしっかりと抱き寄せ。
ユナさんの背中が触た。
「温かい‥」
「寒いと仰ってた方には最適かと」
「ええ良い感じよ‥そのままで、お願い」
人の温もりを感じ。
普通の感覚の俺でこれだ。
ユナさんは今どんな感じなのだろうか。
「暑かったら言ってくださいね、離しませんが、緩めはしますよ」
「うん」
ユナさんが何も言わないまま。
時間だけが過ぎ。
焦っていた事すらも忘れ。
それを思い出したのは朝日が昇り。
世界が壊れる中で。
二人がまた1日と、日を迎えた時だった。
「おはようございます、ユナさん」
「おはよう。今日もまた、醜い日常が始まるのね」
「向こうが勝手に始めた日常ですよ?合わせなくて良いんです」
「私達は盤上の上に居る駒も同然よ。逃げられない」
「何処にでもある駒如きが、盤上の外に居る奴に逆らうと、どんな反応するのか気になりませんか?」
ユナさんが答えないまま。
頭を斜め後ろに向け。
目を合わせるように覗き込んで来る。
「本気で言ってる?」
「嘘を言う必要はありませんからね」
「そらなら、まだ貴方と同じ色の席は、空いてるかしら」
「空いてますよ、何せこの試みはまだ皆には言ってませんから」
「なら一番近いその場所には、私が居て上げる」
「はい、ユナさn」
「――それじゃ、私はそろそろ皆の所に戻るから、トキヤさんはユウカちゃんをお越してから来てねっ」
俺が話そうとしたら遮られ。
ユナさんは室内に戻って行った。
まぁ良いか。
ユナさんが元気になったのならそれで。
「さて暫くして、ユウカを起こすか」
1日最低一回はTeitterで近況報告か日常ツイートをしていますので、気になる方はお立ち寄りください。@MatuiYomi