104.α4
「おにいぃぃさあぁぁん!」
「ぐへッ」
小さなミサイルが腹に衝突し。
勢い良く後方に倒された。
「お兄さんですかッ!?本当に本当に!お兄さんッ。」
「おい、それは突撃する前に確認しろよ、人違いだったらどうするんだよ。」
「その時は記憶を消させてもらい、何もなかった事にします!」
あらやだ。
物凄く物騒な発言だなおい。
それに人の上で何故そんな体勢なのだ君は。
俺はスフィンクスの土台じゃないぞ。
「よしよし、怪我とかしてなくて良かったよ。」
「はぃ、お兄さんのおかげですぅ。」
「え?」
「ん?どうかしましたか?お兄さん。」
何言ってるのだろう。
俺のおかげ?
俺は意識失って何もしてないぞ。
誰かと勘違いしてるのか?
「ユウカ頭でも打ったか?」
「打ってませんよ!もぉ子供扱いにも程があります!」
「なら、頭撫でるのや―」
「止めないで大丈夫です、私子供なので。子供の頭は撫でてこそですよ、お兄さん。」
離そうとした手を上から抑えられ。
引き続き頭を撫でる事になり。
ユウカは撫でれ動物よりも嬉しそうに身体を動かす。
その為遠慮なく堪能してやった。
「いくらなんでも道端でそれはどうかと思うわよ。」
「ユナさんっ!」
「居たわよ、何でそんなに驚いてるのよ。」
言えない。
だってユナさんの顔が少し怖いもん。
まるで俺が悪い事してて修羅場の手前やん。
とは絶対言えない。
「ははは..急に声かけられたら、そりゃ驚きますよ。」
「ふ~ん。」
何だねその意味深なそれは。
それにしても2人だけ‥なのか。
正真正銘目視も出来ず。
スキル系で探しても他の皆の姿は無かった。
今は道端で仰向けの男性と。
それに乗っかる一匹の犬と。
その光景を眺めてる女性だ。
とても理解出来そうに無い状態だ。
「ユナさん、他の皆は?」
「何言ってるの、動ける訳ないじゃない。」
え?
どういう事だ。
動けない?
全く話が理解出来ない。
「お兄さんの方も怪我は大丈夫なんですか?かなり酷い怪我でしたけど。」
確かに足首に穴が開けば大きな怪我だよな。
だがもう治ってるし問題ない。
その証拠に全力疾走して大丈夫だったんだしな。
まさにHP自動回復様様である。
「あぁ問題ないぞ、さっきも全力で走ったが問題なかった。」
「ええぇ!走って大丈夫なんですか、というかお兄さん何で走ってるんですか。」
「それは話せば長い。」
「どうせ戦闘狂が戦ってたんでしょ?あれだけの爆音だったのだから。」
「音だけですけどね、実際ゴブリン一匹も倒してませんよ。」
嘘は言ってない。
本当にプロパン君は音だけの代物だし。
ゴブリンすら倒してない。
まぁ一人でも助かった人が居るのなら良いか。
「それで危険って何よ、何を見て感じて送ってきたの。」
「それは‥‥」
「白状した方が身のためよ。」
背中に謎の寒気を感じ。
俺はゴブリンエンペラーの話をした。
話してる内に2人とも段々表情が険しくなり。
捕まってる人の事を話した途端に。
殺意が漏れてたのでそれ以上は何も言わず。
冷静になってもらった。
「とまぁ、近づくのは危険ですね。あんなのチーターには勝てませんよ。マジで。」
「「・・・・」」
2人に冷たい目で見られてる。
何だよ。
一人でまた危険な遭遇したからって。
あれは事故だ。
仕方のない事だったから許してほしい。
「次からは気をつけますから~」
「気をつけるじゃないわよ、禁止よ禁止。」
「えぇ‥」
「そうですよ、私も容認出来ません。次からは無しでお願いします。」
「ユウカまで!?」
「勿論ですッ」
どうやら俺に選択肢は無いようだ。
次から偵察する時は慎重に慎重を重ね。
用意周到に実行しよう。
「分かった、分かったよ。次からはしないよ、気をつけるから。」
「「気をつけるじゃなくて禁止だって」ッ!」
「お、おう。すまんな分かった。」
身動きの取れない状態で言われ。
背中は地面な為に逃げ場が無く。
何だがいつも以上に迫力に圧された。
屈したと言っても良いだろう。
やはり女性は苦手だ。
「で、ユウカいつまで俺の上に乗ってるんだ?骨が当たって一応痛いんだが。」
「グリグリ痛いでしょ。」
何故かユウカが更に身体を押しつけくる。
そして骨が当たってて痛いのと。
ちょっとだけ柔らかい感触が混じり。
何とも残念な感じだった。
「んんッ」
「今度は何だよ。」
「だって、お兄さんが何も言ってくれないもん。」
俺に何を言えと?
どう転がってもセクハラ発言になりそうやん。
そんな無理難題を押しつけないでもらいたい。
「俺は只な」
「ただ?」
感触に集中してた何て言えば‥‥
俺の伸ばしてる足が今度こそ叩き折られそう。
違う事を言おう。
「ユウカが可愛いから喋るのを忘れてただけなんだ。」
そう言って頭を再度撫でる。
うむ。
これで誤魔かせ――
「痛いです。」
「お兄さんが悪いです。」
「いたたたたたたたっ。」
両横腹を思いっきり抓られ肉が潰される。
痛い。
こいつ全力でやってやがる。
いくらステータス差が有っても。
痛いものは痛いんだぞ!
「ひひぃいっにしぃしぃしししッ、ちょっおにっしゃぁん。」
抓る為にスフィンクスからナマケモノになったユウカ。
俺はそんなユウカの横腹に手を置き擽る。
「いたいいたいいたいっ。」
「お、にぃぃさんっこそ、やめめぇて。」
「何やってるのよ二人共‥‥」
俺とユウカの激しい攻防を見せられ。
ユナさんが呆れながらそれが終わるのを待っていた。
だが俺とユウカの戦争が終りを迎えたのは、数分間という長き永劫の後だった。