第1話
始まりは、今からちょうど5年前。あるホテルで火災があった。電気回線、電気機器、タバコなどの要因が可能性として残ったが、結局原因の特定にはいたらなかった。怪我人はいない。
これだけ見ると、5年も経てば忘れられていそうな火災だが、いまだ人々の記憶に強く残っている。
原因は一本の動画。
その場にいた人がスマホで撮ったのだろう。動画はブレブレだが、ネットにアップされた瞬間、瞬く間に拡散され有名になった。
その動画は、火災が起きたホテルから人が避難して来るところから始まる。
「おい、あいつがいないぞ!」
「クソッ、まだ中にいるのか?」
どうやら、まだ中に人がいるらしい。しかし、まだ消防車が来る気配はない。
すると一人の男がホテルの方に出て行った。
「おい、何する気だ!」
「危ないぞ!」
周りの人が警告するが、次の瞬間、その場がシーンと静まり返った。次に聞こえてきたのはホテルの窓ガラスが割れる音。
男が一回のジャンプで6階のベランダまで行き、出っ張っている窓枠を掴み、窓ガラスを一回蹴って返ってくる反動で勢いをつけて窓ガラスを割ったのだ。
それを見ていた人はしばらく唖然としていたのだが、男がホテルから人をかかえて6階ほどの高さから飛び降りて帰ってくる頃には歓声が湧き上がっていた。
それから彼は超パワーで強盗犯を捕まえたり、テロから人を守ったり、ときには自殺しようとする人を止めたりなどのヒーロー活動をするようになった。宿敵だって出て来た。ヒーローの誕生だ。
これを境に、何かしらの特殊能力を持った人達がヒーローとして活躍し始めた。ちなみに、今の日本では7名のヒーローが活動している。
簡単に言うと、アメリカのコミックみたいな世の中になったのだ。
「ここまでは知っているな」
「まぁ」
「このホテルの火災が起きた日、ヒーローが誕生したことから、希望の日なんて呼ばれたりするけど、私達の間では、絶望の日なんて呼ばれているの」
いよいよ、わけが分からなくなってきたと黒髪の少女は頭を抱える。
黒髪の少女の前にいる男と茶髪の少女は真剣な眼差しで語っている。
黒髪の少女は考える。なぜこの事件の説明をされてるの?知らない人はいないくらい有名な事件なのに。この人達と会ってからはおかしなことしか起きていない。最初から考てみよう……
ある中学校で卒業式が終わった。中学校の校庭では、先生や友達と話に花を咲かせたり、写真を撮ったりする卒業生達で溢れていた。
「ねぇ、あなたが海里?」
「はい、そうですが……あの~申し訳ないんですが、どちら様ですか?」
茶髪の女性が話しかけてきた。誰か、友達の親かな?けど、それにしては若すぎないか?見たところ10代後半から20代後半なんだけど。だとしたら誰かのお姉さんかな?と海里は思考を巡らせる。
「私はクロエ、よろしくね」
クロエさん……ん?友達に外国人の子いたかな?でもクロエさん見た感じ日本人だし外国人にしては日本語完璧では?
「なにか職業の名前ですか?」
「クロエは名前だから!
えっと、なんて説明したらいいかな……あ、まずは、これ。孤児院の人から預かってきたの」
そう言って渡されたのは私のスマホだった。なんでクロエさんが持っていたんだろう?
「クロエ、見つかったか?」
「はい。この子です」
なんか増えた。20代後半くらいの男の人がクロエに話しかけた。
「君が海里か。俺はレオだ。君の父親だ」
「「へ?」」
ちょっと待って、自分は孤児だし、親はいない。しかもこの人会ったことない赤の他人だ。
「そんなこと急に言ったら不審者だと思われますよ!
ふら、思いっきり海里に引かれてますよ!」
「…………」
「ちょっと待って、海里!不審者じゃないから!110番通報しようとしないで〜!里親!新しい里親だからレオは!」
手を左右にブンブンと効果音が付きそうなくらい降ってクロエが説明する。
「新しい里親なんて聞いてませんが」
「孤児院の人に聞いてみるといい」
ピロンッと丁度いいタイミングで海里のスマホに通知が来た。通知を確認すると孤児院の人からLINEが届いていた。
「もう海里も中学卒業かぁ〜なんて浸ってたら朝、新しい里親が来ること伝えるの忘れてたよ。もう手続きとかは終わってるからそのまま里親さん達と新しい家に帰ってね。今度こそ逃げたら駄目だからね」
……………………は?ちょっと待って!一度も面会とかしたことないし、こんな急に新しい里親決まるもん?
「昨日急いでいて手続きしたからな。孤児院の人も伝える時間が無かったんだろう」
どうやらびっくりしすぎて声に出てたようだ。けどさ、手続きって1日でできるものでは無くないか?!しかもさ、朝の時点で知ってたのにこんな重大なこと伝え忘れるか普通?まぁ、あの人ドジで抜けてるところあるけどさ……
これはあんまりでは!?