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第九話 お掃除

 薄い明かりしかない無機質な取り調べ室では2人の男が向かい合い、紺の制服を着た一方の男が憔悴した様子の囚人服を着た男にまくしたて、机をドンと叩いた。

 困り果てた表情で囚人服の男は冷や汗をかきながら弁明を続ける。


「おい、頼むぜ……だからなんかよくわからねー白衣の集団にお姫さまの居場所を知らされて、それで拐えって頼まれただけだって……それ以外は俺たち本当に何も知らねーんだよ」


 囚人服の男は数日前にとある駅でマリアたちを襲撃し、誘拐を企てた盗賊団の1人だった。

 国賓の襲撃計画に対し、魔都防衛騎士団の隊舎では1人づつ分けられて厳しい取り調べが行われていた。

 なぜ、予期せぬ来訪であるマリアたちの行程や状況が盗賊たちに漏れていたのか、アグレアイオスの配下である騎士たちは捕らえた賊たちを連日取り調べていた。


「黙れ! 死人は出なかったがお前達はこれからテロリストと指定される! 極悪人め! 誰からあの列車を襲えと言われた? 吐け!」


「勘弁してくれよ……」


 盗賊の一味は激昂する騎士たちの怒声に頭を抱える。

 誰が彼女たちの来訪の行程や情報を漏らしたのか。

 実際に彼らは自身の言う通り何も分かってはいなかったのでどれだけ脅されようが詳細については何も答えられず、今日も厳しい尋問を受け一日が終わる。


 尋問を終え、夕飯をとった後に複数の房に分けられ収監された彼らは手錠や足鎖を嵌められ就寝の時間を待っていた。


「おーい、全員いるなヂドー盗賊団。清掃の時間だ」


 不意に雑居房に入ってくる清掃員らしい者たちが扉を開けてやってきた。

 いつもとは違う遅い時間ではあるが疲れている賊たちは何も言わず大人しく彼らをチラリと見遣った。

 十数名ほどの淡いブルーの清掃服を着た男たちは目深に帽子を被りながら低い声で賊たちに命令をした。


「隅に座ってろ」


「……なあ、あんたら、いつもと違う顔ぶれだな」


 手錠を繋がれたままで清掃員たちを何気なく見遣った賊の1人がポツリと呟き、しかしいつもより丁寧なその仕事ぶりに少し感心する。


「いつもの奴らより真面目な仕事ぶりだな、その調子で頼むぜ、何しろここは窮屈だからよお」


 賊のその呑気な声に清掃員の1人が口元を歪めて嗤った。


「部屋が綺麗かどうかなんて、あなたたちが気にする必要はないですよ?」


「あ?」


 部屋の清掃が終わった。

 ……これから本番の清掃が始まる


「やめろっ! なにするん……!」


 清掃員たちがそれぞれ繋がれた賊たちの側に立つと驚く彼らを他所に口を塞ぎ、それぞれの懐から刃物を取り出した。


「だって今から」


 ……あなたたちは地獄に逝くんだから


「モゴっ……!」


「グワッ!」


「ガアァァッ‼︎」


 清掃員たちは一斉に無表情で賊たちの喉元にその刃を突き立てた。

 小さな断末魔が上がり房の一帯が赤い血に染まる。


 別の房でも時を同じくして悲鳴と血飛沫が上がったようだった。

 物言わぬ遺体を背に虚ろな瞳をした清掃員たちは帽子を取り、1人だけ何もせず後ろ手に組んだ男に一斉に向き直る。


「さて、お掃除は終わりました、ペッパーさん」


 ペッパーと呼ばれた怠そうなその紫髪の男はため息を吐きながら、喉を切り裂かれ恐怖に顔を歪めた賊たちの哀れな遺体を見遣った。


「ふう、やれやれ。わざわざお前らなんざ掃除・・するまでもねーんだがな。聖女さまの癇癪に触れたようで。ま、往生してくれや」


 そう言って薄い笑みを浮かべながらポンポンと両手を叩く。


「俺としては盛大な花火で送ってやりたかったが、それは次回の楽しみにとっとくとするわ。じゃ、お前ら、帰るとするか」


 ヒヒッと低い声で嗤いながらペッパーは清掃員に化けた信者たちを引き連れ、惨劇の房を後にした。

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― 新着の感想 ―
[一言] やはりそういうお掃除でしたか。
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