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第八十七話 『アヴァロン』にて

 ── 希望を封じ忘れられた湖畔『アヴァロン』


 銀色の月が湖畔を照らし、夜鳥と虫のさざめきのみが辺りに静かに響く。

 不意に湖畔より、何かの影が蠢き、やがて顔を出した。


 すいすいと湖畔を泳ぐそれは確かに人であった。

 女と見紛う程、美しいその人影はしかし男のようだった。

 まるでこの世のものとは思えない程美しいその人影は、岸にたどり着き、湖より上がると、草原に腰を下ろし、やがて月を見上げる。

 月と変わらぬ美しき白き肌を惜しげもなく晒したクロフツはまるで夢を見ているような表情で呟いた。


「……蒼き月だ 美しい…… 5000年前と変わらぬ」


 クロフツはこの湖畔で眠っていた。

 愛刀ザヴィネヴァーンの真名を解放し、戦った消耗の代償に、この神秘の湖で数日眠る必要があったのだ。


 己の歩んできた道を久方ぶりに思い返しているのか、クロフツは物思いに耽る。

 5000年前は英雄王と呼ばれていた男は姿はほとんど変わらないが、決定的に変わったものがある。

 それは……


「人は…… 醜い 文明が発達し、進化するどころか、ますます己の事しか考えられなくなっている……」


 5000年間、クロフツは己の世が終わった後、人の世を影から見つめ続けた。

 生前の非業、これまでの歴史を辿り続け、彼は「破壊」という結論に至る。

 もちろん、現在の世の人類が悪い事ばかりではない、無辜の者や善人も存することも承知している。

 力なき者こそが絶対的な状況になれば裏切る事を身をもって、よく知っていたからだ。

 全てをまとめて焼き払いたい程にクロフツは絶望していた。


「人は弱い…… 間違い続ける だから私はこの世に鉄槌を降さねばならぬ……!」


 怨嗟を呟く英雄はこの世の在り方を既に見限っていた。


 太古より変わらぬ白銀の甲冑とかつての聖剣を見つめ、クロフツは呟く。


「人が弱くなければ私は大切な者を喪わなくて済んだ…… そうだろう? フィーナ……」


 愛する者の名を呼ぶとき、少しだけクロフツの表情が人間らしくなったような気がした。

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― 新着の感想 ―
[一言] こういう思想になってしまったのですね。
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