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第七十九話 結界内の戦い

 ゾーラは数日前に、もしもネスが宮殿の万全の警備を突破してきた際に罠に嵌めるつもりで、極秘に今回の計画を立てていた。


 自国から連れてきた騎士の中でも、冷静さと優れた剣術を兼ね備えたウィダ、それと姿を模写する魔術に優れたハナを集めて、地図を見せた。


「ここに数枚の地図がある。いずれも警備計画用の要点を抑えた地図であるが、数枚は出鱈目のルートに書き換えてある。総長殿は、隊長格の中で裏切り者が居ると仰っておられた。総長閣下と相談の上、裏切り者である可能性がある隊長にこの地図を配ることにしたのだ」


 万一ネスの侵入があった際の罠を張ることを主張し、アグレアイオスには渋々今回のことを承諾させた。

 もしもの時には、ゾーラがネスを罠にかける計画を知っている者はアグレアイオスとラッセルしかいない。


 ウィダは地図を睨みながら頷く。


「間違ったルートをくれば、我々の待機する部屋にネスが来るというわけですね」


「その通りじゃ。裏切り者とやらも絞り込める。宮殿にヤツが来ないに越したことはないがな」


 黒髪を三つ編みに纏めた気弱そうな少女が恐ろしいものを見る目で地図を見遣る。

 模写魔術を得意とする、度々マリアの影武者を務めたこともあるハナである。

 ハナは恐る恐ると言った様子で、ゾーラに尋ねた。


「なるほど…… しかし、我々だけでネスを討てるでしょうか? 先般の戦闘データも見せていただきましたが、正直私とウィダには荷が重く……」


 ゾーラはウィダとハナを交互に見遣りながら柔らかい笑みを浮かべた。


「大丈夫。お前たちが戦う必要はない。ハナはマリア殿下に変化し、ネスの油断と逡巡を誘う。その隙にウィダは仕込んだ魔法陣の中にネスを引きこめ。一ミリでも魔法陣を踏んでいればそこは効果範囲内。後は素早く教えた呪文を唱えるのだ、ハナ」


 ゾーラが恐ろしいネスと戦うという作戦にウィダは思わず叫び、反対する。


「ゾーラさま! 貴女お一人であのネスと戦うなど無謀です!」


 普段は主張しないハナもおずおずとゾーラを見る。


「わ、私もそう思います……!」


 首を横に振りながら尚もゾーラは彼女たちを安心させるような笑顔を見せた。


「大丈夫じゃ。私はゾーラ・ガレットだぞ。策はある。必ずネスを仕留めるつもりじゃ」






 ◇





 ネスを何とか結界に送ったウィダとハナは、その中を映した水晶の戦況を見つめる。


「ゾーラさま……!」


 模写魔術を解き、マリアの姿から三つ編み黒髪に戻ったハナは涙目でその場にへたり込む。

 同期であるウィダは急いでハナの肩を支えた。


「怪我はない? ハナ。よく頑張ってくれたわね」


「ウィダ! ……うう こわかった……! あの人、いっぱい人を殺してるんでしょ……? 人外だとも……」


 怯えるハナの肩を押さえ宥めながら、ウィダは水晶を睨むように見つめる。


「大丈夫、きっとゾーラさまがネスを倒してくださるわ! これだけ罠を仕込んだのですもの……」





 ネスは赤みがかったブロンドを靡かせながら、笑顔を浮かべる。


「ねえ、おばあちゃん。私、これでも少し怒ってるの。今ここから出せば死ななくて済むわよ♡」


 ゾーラは杖を構え、魔力を込める。


「はっは! 今さら惜しむ命などあるか! 舐めるな、ネスよ! お前は今ここで叩く!」


 杖の先から見えない風の刃が迸るように、ネスへと向かっていく。


「……はあ 仕方ないなあ」


 ネスはため息を吐きながら、片手で魔力のバリアを作り刃を全て防ぐ。

 同時に地面から巨大な植物の腕が現れ、ネスを掴んだ。


「くだらない罠ね、後悔させてあげる」


 ネスは紫色の魔力のオーラを全身に纏うと、植物の腕を崩す。


 しかし、同時に結界内の森から凄まじい突風が巻き起こり、ネスを竜巻の中へと巻き込んだ。



「……!?」


 ネスは竜巻に巻き込まれながら、マリアたちの祖であろうハイエルフの能力を思い出す。


「……そういえばハイエルフって森や山を中心とした自然を操れる者がいたわね」


 竜巻の中にも疾風の刃が吹き荒れ、ネスの身体を切り裂いていく。

 結界に引き入れられた時点で、ネスにも相当のデバフがかかっており、防御魔力も弱まっているのだ。


 ゾーラは魔力で緑色に光る杖を構え続け、容赦なくネスを攻撃し続ける。

 ネスの衣服はもはや弾け飛び、皮膚も所々傷ついていく。

 ……しかし竜巻の中で身体を引き裂かれながらも、ネスは尚も笑った


「なるほど、思ったより良い魔術師なのね、おばあちゃん♡」


 ゾーラは魔力をますます強めながら光る杖を振るう。


「フン! ババア、ババアと! お前も相当なババアなんじゃろ? その余裕を消してやる!」

※ズィーゲン王国のエルフの祖はハイエルフと言われており、「スカイアム」とも呼ばれるエルフの一種族である

ハイエルフの血が濃かった太古は、耳も尖り、数百年生きる者もいたが、現在は耳は地球の一般人並みの形であり、普通に歳を取り、寿命も平均100年前後といわれている

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[一言] 手強そうですね。
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